2020.11.27 UP
バターを混ぜた硬めのペーストで「モンブラン」の芯を造形。美しくクリームを絞るには技術力の高さが求められる。
<写真:右>井上 孝 伊勢丹新宿店 洋菓子バイヤー
洋菓子を扱うコーナー[カフェエ シュクレ]に、足を踏み入れた瞬間からバターの香りが漂う。
その主は、伊勢丹新宿店本館地下1階で厨房を構える〈ノワ・ドゥ・ブール〉だ。厨房できびきびと働くのは熟練のパティシエたち。早朝から11種ものケーキが次々と生み出されていた。
「“毎日のおやつ”をできる限りフレッシュな状態でお客さまへお届けしたくて、店内にも厨房を設置しました。こちらでは、生菓子を中心に製造しております。オーダーをいただいてから仕上げるケーキもあるんですよ」と、2011年のブランド立ち上げから携わる株式会社エーデルワイスの地引浩司さんが教えてくれた。
ショーケースに並ぶのは、「ショコラ・レジェ」「チーズケーキ」「ミルクレープ」「苺のデコレーション」といった、誰もが知る正統派のラインナップだ。奇をてらわず、なじみ深い種類を提供し続けることで、10年後も変わらず愛される味を追求。季節のフルーツを用いたケーキは、あえて3品に絞っている。ケーキ作りの基本に忠実に、味とクオリティーの維持に心を砕いているのだ。注文を受けて仕上げるのは2種である。1つ目は王道のショートケーキ、その名も「フレーズ・シャンティ」! フランス語で苺と生クリームを意味する。きめ細かなスポンジと苺の層を六分立てのとろとろクリームで包んだ。生クリームのやわらかさを保つために、乳脂肪分の量が異なる2種をミックスしている。そのため濃厚なミルクの味わいも堪能できるのだ。
洋菓子バイヤーの井上孝もするするとした生クリームがスポンジケーキを覆っていく姿に、見入っていた。「定番メニューで勝負をする〈ノワ・ドゥ・ブール〉さんの真骨頂ですよね。個人的には「フレーズ・シャンティ」が手のひらサイズなのも魅力のひとつ。ついつい、2個目をいただきたくなるんですよね」と思わず顔をほころばせていた。
大ぶりの苺をのせて完成。「フレーズ・シャンティ」648円。
お次は「ミルフィーユ」。パイ生地に、コクのあるカスタードクリームを絞っていく。サクサク食感とバターとコクのあるカスタードクリームのハーモニーがたまらない。「パイとカスタードクリームの接する時間は短いほどいい。おいしい瞬間を逃さないためにも、できるだけ早く召し上がっていただきたいんですよ」。地引浩司さんのケーキへの熱い想いがひしひしと伝わってきた。
素材の味が引き立つ組み合わせ。「ミルフィーユ」540円。
ケーキ部門での看板商品といえば「モンブラン」だ。フランス製栗ペーストの中心部にはバターを、表面を覆う絞りには生クリームを合わせ、異なる食感と風味を楽しめるように栗ペーストを巧みに使い分け、腕利きのパティシエが美しい渦巻きを生み出す鮮やかな手さばきに、またしても井上孝は釘付けに。「新鮮なのはもちろんですが、売り場でプロの技術を目の当たりにできるのも厨房があるからこそですよね」
栗が持つ多面性を楽しめる「モンブラン」594円。ルックスも人気の秘訣。
ハンドメイドはお菓子だけにとどまらない。パッキングだって手作業なのだ。例えば、フレッシュ果汁とアロマをしゃりしゃりの糖衣で閉じ込めた「レモンのケーキ」。店頭で一つ一つ丁寧にオリジナルの包装紙で包んでいく。
「レモンのケーキ」は製造の翌日以降が食べ頃だ。303円。
てきぱきと働く職人たちで活気あふれるフロアに鐘の音が響いた。伊勢丹新宿店地下2階にある厨房で製造されている「焼きたてフィナンシェ」の到着を知らせていたのだ。〈ノワ・ドゥ・ブール〉を象徴するこちらの商品は、4000個を焼く日もあるそう!ほかほかのフィナンシェが届くやいなや、店頭から漂うバターの香りがいっそう濃くなった。できたてに触れられる喜びに浸ってしまう。こうしている間にも、店頭と地下2階の厨房でお菓子は製造されている。“毎日のおやつ”には、パティシエたちのテクニックと想いが詰まっていた。
〈ノワ・ドゥ・ブール〉焼きたてフィナンシェ(1個)324円
■伊勢丹新宿店本館地下1階=カフェ エ シュクレ
販売期間:12月29日(火)まで。
〈ノワ・ドゥ・ブール〉ウィークエンド・フロマージュ(紅玉りんご)(長さ約16㎝/1本)2,160円
■伊勢丹新宿店本館地下1階=カフェ エ シュクレ
販売期間:11月初旬〜
※モンブランは12月23日(水)〜25日(金)の期間、仕様を変更、ミルフィーユは12月22日(火)〜25日(金)、フレーズ・シャンティ・ウィークエンド・フロマージュ(紅玉りんご)は12月23日(水)〜25日(金)の期間、販売を休止させていただきます。
写真:太田隆生、和田裕也
取材・文:松岡真子