2021.6.30 UP
その昔、日本が明治政府になった頃、様々な西欧化施策が行われました。その一つに、西洋みつばちによる養蜂がありました。西洋みつばちを日本で初めて飼育したのは、内藤新宿試験場(現在の新宿御苑)。そんな歴史もあり、新宿と養蜂のご縁は深いのです。新宿で再び養蜂のプロジェクトが立ち上がったのは3年前のことでした。世界的に都市型養蜂が増え、日本でも事例があることを知った「しんじゅQuality」©︎※は、地域に根ざしたプロジェクトで雇用や人の繋がりを産む事業として、「みつばちプロジェクト」をスタートさせました。
※「しんじゅQuality」©︎
新宿区内の障碍者福祉事業30箇所のネットワークで、障害のある人々の就労機会を創出し、地域の人々との交流を目指す。
さて、3月に新宿にやってきたみつばちですが、その数は順調に増え、蜜の採集活動も活発になってきました。そろそろ、蜜もたまってきたようです。因みに5つの巣箱には、それぞれに女王蜂がいて、一箱に4〜5万のはちがいて初めて、十分な量のはちみつが採れるのだそうです。女王蜂は、3月頃から毎日2,000匹のペースで産卵するというから驚きです。そして、記念すべき初めての採蜜の日には5月20日が選ばれました。この日は、近代養蜂の先駆者と言われるスロベニアの故 アントン・ヤンシャン氏の誕生日。2017年、国連はこの日を世界みつばちの日に制定しました。(因みに日本のみつばちの日は3月8日です)
採蜜の前には、はちみつのレクチャーを実施。伊勢丹新宿での初めての採蜜体験に、約50名が参加しました。
新宿の採蜜会場に到着すると、すでに採蜜は始まっていて、遠心分離機からは黄金のはちみつが滴り落ちていました。遠心分離機の近くには、巣箱の中に入っていた蜜巣脾(ミツスヒ)が採蜜の順番を待っています。「蜜巣脾」の表面は、蜜蓋にしっかり覆われていて、蜜蓋を剥がすと、みつばちが集めて貯蔵した、はちみつがたっぷりと入っていました。一匹のみつばちがその一生(平均寿命は約30~40日)をかけて採集できる量は、ティースプーン一杯ほどと言いますから、彼らの一生をかけた努力の結晶です。
巣箱の中の板「巣脾」。みつばちには、蜜の採集担当と貯蔵担当がいる。採集担当が運んだ蜜は、貯蔵担当が水分を羽ばたきで飛ばし、体内の酵素と混ぜて分解・濃縮化してはちみつになる。糖度は80%以上。
遠心分離機に「蜜巣脾」を入れてゆっくりと回すと、蜜巣脾からはちみつがとぶ。
絞りたてのフレッシュなはちみつ。美しく艶やかな光沢は神々しいほど。
「しんじゅQuality みつばちプロジェクト」をずっと見守ってきた養蜂アドバイザーの中里仲司さん(本業は東京大田青果物商業協同組合副理事長)、同プロジェクトの会長を務める徳堂泰作さんによれば、新宿に引越し後、みつばちたちが蜜を採りに行っているのは、新宿御苑や迎賓館、頑張れば赤坂御所(赤坂御用地)あたりではないかとのことでした。みつばちの行動範囲は2〜3kmで「迎賓館前の街路樹はユリノキ。蜜がたっぷりある植物です。」と中里さん。
「しんじゅQuality みつばちプロジェクト」の発案者で「社会福祉法人東京ムツミ会ファロ」の管理者でもある徳堂泰作さん(右)とこのプロジェクトを支えてきた養蜂アドバイザーの中里仲司さん(左)。
「絞りたてを味見してみますか?」という徳堂さんの勧めで早速味見をさせていただきました。濃厚な白い花の香りに、ハシバミのようなこっくりとした甘さと香り。トーストにたっぷりかけて食べたら美味しそう。そんなことを考えていたら、中里さんが「僕の一番好きな食べかたはね」と小さな袋を掲げました。中から出てきたのは、パッションフルーツ。さすが青果のプロフェッショナルです。パッションフルーツをナイフで割って、その上に蜜をタラリタラリと落とします。「もうこれで、すごいデザートになるから」。はちみつの香りや甘さが、パッションフルーツの溌剌とした酸で、よりくっきりと感じられます。良い食べ方を教えていただきました。
パッションフルーツの果汁とはちみつの、見事なマリアージュを堪能。
青果を専門にしてきた中里さんは、ポリネーターの延長線ではちみつに興味を持ち、その関心はやがて養蜂に及び、趣味として養蜂をするようになったのだそうです。「この辺りは新宿御苑や外苑があって、はちみつの蜜源となる植物が豊富です。昔から趣味で養蜂やっていた人はいたんですよ。でも、巣箱を勝手に置くわけにはいきませんから、そこは周りの理解がないとうまくいかないんですね」
どこに巣箱を置くかは、良いはちみつの採集と密接な関係があります。新宿御苑が、西洋の果物や野菜の農事試験場として先駆的な場所であったことを知り、数年前より、その歴史を伝える商品開発をしていた伊勢丹新宿店との出逢いは、双方にとって良いものとなりました。みつばちが繋いでくれたご縁は、これからも続きます。
今年9月には、今回採集したはちみつも含め、順次採集されたはちみつ〈MIEL ISETAN SHINJUKU〉©︎を使った様々な商品が企画されます。〈MIEL ISETAN SHINJUKU〉©︎に合う紅茶やコーヒー、このはちみつを使ったスイーツや料理などが、伊勢丹新宿店の食品フロアで販売される予定です。もう少々時間はかかりますが、ゆっくりと、はちみつの輪を広げながらプロジェクトの機が熟すのを待ちましょう。
Text:ISETAN FOOD INDEX編集部