2023.8.14 UP
錆びない女、錆びない男になるために、食べるもの。それは、梅干である。どういうことかというと梅干はからだをアルカリ性にしてくれる、人間にとってのとっておきの必需品だということ。
お肉やお魚など動物性タンパク質を食べるとどうしても酸化してしまうらしい体内。そこで梅干を食べると、あら不思議というのをおばあちゃんに聞いた。おうちでの晩酌は、焼酎のお湯割りに梅干INである。また、お仕事での会食も少し疲労感があるときは、焼酎のお湯割に梅干をお願いする。会食しながら工夫をしてしまう悲しいお年頃なのである。
ということで、贈りものに、梅干を多用する。それって私的には、おいしいだけではなく、からだに気をつけてくださいね、という気遣いも含まれるからだ。でもこの梅干がまたいろんな種類がある。
木箱にはいった個包装の、宝石箱のようなものから、どんとパックにたくさん詰まったものまである。
贈りものって、相手を考えながら、タイミングも考えながらチョイスすればいいと思うのだが、最近、年配の、もう高齢であるがとても元気な我が大家さんに、桐箱入りのそれを差し入れした。そうしたら、めちゃくちゃ喜ばれた。
「ほしいと思っていたの!でも自分で買えないし!」
そんなわけない。大家さんである。その収入を考えたら、余裕で買える。
でも、桐箱入りの梅干って、〝買えない〟のだ。そういうのって、贈りものでいただくもの、なのかもしれない。心遣いとして家に届くのがふさわしいもの、それが桐箱入りの個包装の梅干なのだ。
たぶん、それを自分で買うのってホールのストロベリーショートケーキを自分で自分のために買うようなものかもしれない。
で、悩ましいのが味である。蜂蜜入りなのか、そうでないのか。塩なのか、紫蘇なのか、あえて塩だけなのか農薬不使用にこだわったものなのか。私は贈るなら、蜂蜜入りの、ふわふわしたものにする。お茶請けにもなるからだ。お粥に混ぜてもいい。おにぎりにしてもいい。
友人のミュージシャンは、地方公演に保存袋に入れて梅干を持ち歩いているのだそう。というのも地方の
仕事で一緒になったとき、しんどそうな私に気づき、「エリーさん、大丈夫?これ、あげるよ、食べて!」
と梅干をくれた。なんか、栄養ドリンクとかくれる人も多いけど、梅干くれるって、なんだかいいなと思う。それから私は毎日1粒ぜったいに食べている。ご飯に、味噌汁、納豆、そして梅干。梅干は小さなお猪口にころんと鎮座させる。するとなんだか料亭っぽい雰囲気が出る。たとえそれが高級なものでなくっても。そしてその1粒を口にほおりこむと、その日は元気いっぱい。
どんなに仕事が忙しくてもどんなにストレスがたまっていても、からだは錆びない女だと言い聞かせることができるのである。
私は梅干だけは、スーパーではなくお取り寄せである。もはや趣味。おいしい梅干を調べては集めている。お得な壺に入ったものや、道の駅のものなどなど。
いろんな味のものを、産地のものをストックしていて、それを日々変えて、日替わりの酸っぱさを楽しんでいる。
そう、そんな私も、実は桐箱入りは、買ったことがない。貰うのを待っている? いや、違う気がする。あげるほうがなんだか、うれしい自分がいるのであった。
<梅林堂>涼音SUZUNE(塩分約4%)(1箱/9粒入)3,240円
伊勢丹新宿店本館地下1階 旨の膳
頬張ると甘酸っぱさが広がる。紀州産梅の4Lサイズのみを手作業で選抜し、大粒で肉厚、皮の薄い梅のみを使用。個包装タイプ。
おおみやえりー
作家・画家。
舞台やドラマ、エッセイなど幅広い分野で作品を発表。主な著書に『生きるコント』(文芸文庫)。7月11日〜24日までスパイラルガーデンにて『海はたのしい気持ちをくれる展』を開催。
文:大宮エリー
写真:清水奈緒
スタイリスト:野村奈央