【大宮エリーさんによるエッセイの連載】ときめく贈りもの。第5章 バウムクーヘン

2023.10.20 UP

バウムクーヘンが好きだ。どうしてだかよくわからない。最初は、木が好きだからかなと思っていた。小さい頃から木が好きで、木に抱きついたり、よじのぼったり、木の上で寝たりする子だった。いまも、仕事をしすぎてしんどくなると、森林浴に森に繰り出すし、神社や公園にある気に入った大木を見つけては抱きついている。バウムクーヘンはドイツ語で木のケーキだそうで、木を食べた気になる。木のイメージのせいか、からだにいい、やさしいイメージがする。

小さい頃は、一層、一層はがして食べる子どもだった。ただ、その食べ方が好きだから、好きになったのか、どうなのか。思い出そうとしても、なぜ小さい頃から食べていたのかがよくわからない。

母親に聞いても、バウムクーヘンを与えていた記憶もないそうな。だとしたらなぜなんだろう。やっぱり木が好きだから、としか考えられない。あの丸太みたいなものを、食べる楽しさ。といっても、売っているのは、切り株のスライスくらいなのだが、ああいうフォルムはやっぱり楽しい。

バウムクーヘンについてちょっとお勉強。そもそも原型は紀元前のギリシアまで遡り、木の棒にパン生地を巻きつけて焼いたオベリアスというものだと考えられているそうな。ドイツ東部地域がドイツのバウムクーヘンの本場だそう。ドイツのものなんだねぇ。日本で販売されたのは1919年の展示会だったという。日本におけるバウムクーヘンはドイツを凌ぐ一般的な普及がみられるとあったけれど本当にそうだ。スーパーでもお得用が売られているんだもの。だからなのだろうか、子どもの頃に食べて、しあわせな原体験になっているのかもしれない。とにかく種類が多い。蜜がはいっているしっとりしたものから、外側がかりかりしたもの。チョコレートがコーティングされたものなど。個人的には、しっとりしているものが好きだ。そして甘さ控えめのもの。シンプルなもの。

この前、個展があったときに、私が画家になる前お世話になっていた方が、絵を見にきてくださり、それだけでもうれしいのにバウムクーヘンをくださった。

大人のすました感じではなく、ほっこり、子ども心を感じさせるイメージが私にはあるので、バウムクーヘンをくださる人を、案外、子ども心がある人なんじゃないの?と思ってしまう。私だけだろうか。事務所でみんなで食べたけれど、バウムクーヘンを、もぐもぐ食べている風景は、少し滑稽で、かわいらしかった。みんな真面目な顔して切り株のケーキに齧り付いている子どもみたいに見えた。

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<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ>バウムクーヘンS(日本製/1個)2,592円

伊勢丹新宿店 本館地下1階 グラン アルチザン

ドイツの厳格な基準を遵守し、油脂はバターのみを使用。本国でマイスターの資格を持つ職人が約40分間つきっきりで手焼きする。軽くてしっとりとした食感は口福の極み。

大宮エリー

おおみやえりー/作家・画家。

2016年に個展「シンシアリー・ユアーズー親愛なるあなたの大宮エリーより」(十和田市現代美術館)を発表。主な著書に『生きるコント』(文芸文庫)、『なんとか生きてますッ』(毎日新聞出版)

文:大宮エリー 

写真:清水奈緒 

スタイリスト:野村奈央

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