2024.6.1UP
左から、シャトー勝沼 専務取締役 営業本部長 ソムリエ・今村英香
伊勢丹新宿店 グランド カーヴ バイヤー・久保田浩之
山梨県勝沼の中でも良質なぶどうが栽培され、日本屈指のテロワールと称される鳥居平。この丘陵地に育つぶどうは、江戸時代に徳川家へ献上されていた。「当社のぶどうは、欧米の品種のような垣根式ではなく、この辺りに昔から伝わる棚仕立てで栽培します。地面を見るとモグラの巣があるでしょう。これは土壌の栄養が豊富な証拠で、ぶどうが根を広く張るんです。だから、棚仕立てで枝も広々と伸ばしてやるのがいい」。
勝沼ぶどう郷駅近く、日々観光客で賑わう。
鳥居平の畑からシャトー勝沼を見下ろす。敷地内に醸造所とショップ、レストランなどを集約。
敷地内で工場見学や買物、食事も楽しめる。
鳥居平の畑を案内してくれたのは、この地に広大な自社畑を有する<シャトー勝沼>の四代目、今村英香専務。初代が勝沼で旧・今村醸造所を立ち上げたのは、日本初のワイン醸造所ができた年と同じ1877年のこと。もとは、代々続く地元の農家だった。
「当社の地下セラーには、80年以上前に勝沼のぶどうで造られたワインも眠っています。一升瓶に入っていて、おそらく日本に現存する飲用可能なワインとしては最古の部類でしょう。折々の記念日などに開けるのですが、このワインの香り・味が完全に〝開く〟までにはひと晩かかるんです」。
シャトー勝沼敷地内にある地下セラーの入口。
セラー内部の凹凸のある壁。音を吸収することでワインを守る。
50年超えのワインも。セラー内には個人がワインを保管できる貸し区画も。
旧・今村醸造所時代、1938年に醸造されたワイン。特製の木箱に入っており、同じものがあと40本ほど残っているという。
長い熟成を重ねたヴィンテージ。それが、上質なぶどうの証でもある。150年余り続く日本のワイン醸造史の中で、原料となるぶどうの〝質〟が本当に重視されるようになったのは、実はごく最近の話だ。<シャトー勝沼>が際立っているのは、こうした栽培の段階から、代々続く農家の知見と技術が生かされていること。ぶどう畑に抱かれるように立つ醸造所は、作物や生産者との距離が圧倒的に近い。
「ぶどうは約300軒の地元の農家さんと契約して、鳥居平のある菱山地区を中心に勝沼町内で栽培しています。安定した供給のためには、畑を目で確認できることと、農家さんとの信頼関係が大切。どこかの畑にトラブルがあれば、弊社もサポートする。そういった協力体制ができています」。
秋の収穫を目前に控えた夏の鳥居平の畑。丘の上からは、遠くの甲府市まで広く見渡せる。
自らぶどうを作り、ワインを醸す。その積み重ねから、2007年に「鳥居平今村」なる日本製のファインワインも生まれた。また<シャトー勝沼>といえば、日常で楽しめるテーブルワインが広く愛されている。
「伊勢丹の担当バイヤーさんから〝一緒にワインを造りたい〟という提案をいただいたのが、2017年のことでした。
方向性としては日本の食卓に合うワイン。お惣菜とも合わせて、気軽に飲めるといったイメージでしたね」。
こだわったのは、国産の良質なデイリーワインであること。「それならやはり、甲州とマスカット・ベーリーAで造ろうと。勝沼や菱山の畑で採れたものを集めてブレンドして、あれこれ配合を変えながらバイヤーさんと一緒に味を探りました」。
日本が世界に誇る固有品種「甲州」。伝統的な“棚仕立て”という栽培法を用いる。
赤ワインに用いる日本固有品種「マスカット・ベーリーA」。生食用にも栽培され、果実味あふれる軽やかな味わいを持つ。
赤のベーリーA、白の甲州ともに畑違いのぶどうをブレンドすることで独自の味を作り上げた。
そうして完成したのが「黄金の丘山梨」だ。「勝沼よりもわかりやすい〝山梨〟と命名することで、お客さまにも安心して買っていただきたい。そんな考えがあったと聞いています」と話すのは、現・担当バイヤーの久保田浩之。「2017年の発売から人気が衰えません。実はグランド カーヴで昨年最も売れた国産ワインは『山梨』だったんです」。
「黄金の丘 山梨」の全種を順にテイスティング。2023年も全体的にぶどうの出来が良かったそう。
<シャトー勝沼>黄金の丘 山梨
右から スパークリング ロゼ(750ml)1,980円、スパークリング 甲州(750ml)1,870円、マスカット・ベーリーA(赤)(750ml)2,200円、甲州(白)(750ml)2,200円
本館地下1階 グランド カーヴ
手土産としても使えるクオリティながら、買いやすい価格帯。そこにも今村専務の想いがあった。「儲けではないんです。まずは実際に飲んで味を知っていただきたかった。それに伊勢丹さんとのお付き合いは、もう50年以上になりますからね。そもそも勝沼は甲州街道の宿場町で、当時から商人たちが勝沼のぶどうを江戸へ売り歩いた歴史もあります。このご縁を大切にしたい」。勝沼から新宿へ続く道。歴史あるワイナリーから醸されるワインが、今年も間もなくグランド カーヴへ届く。
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
写真:太田隆生
取材・文:小堀真子