<和栗や>竿代信也さんがつくる和栗「人丸」から日本の農業の魅力を探る

<和栗や>竿代信也さんがつくる和栗「人丸」から日本の農業の魅力を探る

自然と対話、共存し、信念を持ってもの作りに取り組んでいる生産者を紹介する祭典「LE CHARME DU TERROIR NIPPON(ル シャルム デュ テロワール ニッポン)」。昨年に続き、生鮮バイヤーの真野重雄が、小規模でもこだわり持った全国各地の生産者に直接会いに行き、農作業を手伝いながら話を聞き、味わって選りすぐった貴重な農産品の魅力を、店頭に立つ作り手から聞くことができる。この祭典に出店する生産者のひとり、栗の栽培から菓子の製造までを自ら手がける竿代信也さんに話を聞きに、茨城県笠間市の栗農園を訪ねました。

【LE CHARME DU TERROIR NIPPON】

■開催期間:11月20日(水)~11月26日(火)
■開催場所:伊勢丹新宿店 本館地下1階 フードコレクション
出店者情報はこちら

栗の栽培面積日本一! 笠間のおいしい栗を全国に広めたい

栗農園に降り立つと、遠くまで見渡せる開けた空。その場に立つだけで健やかになるような、気持ちのいい場所だ。「じつは栗の生産量の1位は茨城県です。なかでも笠間は栽培面積が1位。その特徴は、豊かな自然と土地が平坦なこと。平地が多いから作業がしやすく、農業に向いている場所です」と話す竿代信也さん。

竿代信也さん

真っ黒に日焼けした竿代さん。「去年まではつなぎを着ていましたが、農家のじいちゃん、ばあちゃんは半袖でもあまり虫にさされない。自分も肌を鍛えて耐性をつけたい!」とシンプルな今の格好に。

現在6ヘクタール(東京ドームは4.6ヘクタール)の土地で2000本の栗を育てている竿代さんだが、もともとは東京のデザイン会社で各地の銘品を紹介するカタログ誌のクリエイティブディレクターとして全国を飛び回る生活を送っていた。日々は充実していたものの、「表面的なところにだけ関わり、先々まで責任を持つわけではない」という思いも抱えていた。そんななか、笠間の栗と出合い、そのおいしさに衝撃を受ける。当時、笠間の栗は全国的には無名に近い状態。竿代さんのプロデュース気質に火がつき、「名実ともに日本一にしましょう!」と、師匠である栗職人の小田喜保彦さんや地元の人たちを巻き込んで作ったのがモンブランをはじめとした栗菓子を作る<和栗や>だった。
副業として立ち上げた翌年に東日本大震災に見舞われたが、逆にその逆境を機に栗の世界で生きていくことを決意する。東京の谷中に店を出し、自身で考案したレシピで栗菓子を販売。翌年からは自ら菓子の製造者になり、栗一色の第二の人生がスタートした。

栗の味を左右するのは天候と品種。希少品種「人丸」を自家栽培

竿代信也さん

右が人丸、左は利平。人丸はツヤがよく、味もピカイチ。「美人さんで性格もいいのが人丸ですね(笑)。市場では大粒のものが評価されがちですが、小粒のほうがおいしいんですよ」。

栗は大別すると、日本栗(和栗)、中国栗、ヨーロッパ栗、アメリカ栗があり、味や大きさは天候に影響されることが多いため、違いを明言するのは難しいという。これは日本栗同士の比較にも言え、「栗の味を左右するのは天候と品種。じつは、『どこ産の栗はおいしい』というように産地だけで比較するのはナンセンスです」と竿代さん。複数の品種が混ざっていることが多いため、栗の品種を選別するのは難しく、品種をうたえないことも多いという。
日本栗だけでも100種以上あり、竿代さんが栽培する9割は「人丸(ひとまる)」という品種で、残りの1割は早生種の代表格である「丹沢」だ。店を始めた当初は丹沢を中心に仕入れて使っていたが、人丸に出合い、濃厚なのにすっきりとした上品な味わいに魅了されたそう。「この栗を使いたい!」と思ったが、一般的に売れるのは大粒の栗。人丸は小粒という理由で市場価値が低く、それゆえに作り手が少ないので量の確保が難しい状態で、今後生産者が増える見込みもなかった。「ならば自分で作ろう」と生産者と製造者の二足のわらじを履くことにしたというから驚きだ。「原料を外部依存していると欲しい栗が手に入らないし、安定量も望めません。栗のことをもっと知りたいという気持ちと、高齢化が進む農業を盛り上げたいという気持ちもありました」。

肥料も農薬も使わず、土を耕すことも除草もしない栽培方法とは

竿代信也さん

縦横に割れてイガが少し色づき出したら自然落下の合図。イガごと落ちる場合と栗だけが落ちる「粒落ち」がある。

竿代さんが栗の栽培方法として選んだのは、除草をせず、土も耕さず、肥料も与えず、農薬もまかず、自然のままに育てる栽培方法。草を腰高に刈って土の上に敷くと、山で葉が落ちて腐葉土になるのと同じように、草が緑肥になる。山では年に1回しか葉が堆積しないが、竿代さんの農園では何度も草を刈るため、山の何倍もの肥料の素ができる。「だから何もしなくても土がふかふかです」と笑う。土すら耕さないのは、人が手を加えると、絶妙なバランスで共存していた生きものたちの生態系が崩れ、「地力(じりき)」がどんどん弱り、耕さないとダメな状態になってしまうから。たとえるなら、サプリで体調を整えているようなもの。

竿代信也さん

イガが茶色と緑色のグラデーションのものが収穫のベストな状態。栗が3つ入っていたら大当たり。

「自然を壊して本来そこにないものを好き勝手に植えるのですから、農業は人間のエゴです。だったら少しでも自然のままの方法で作りたい。どんな農法を選ぶかは、その人がどう生きたいかだと思うんです。少なくとも自分は農薬をまいたり肥料をたくさん与えたりする方法は選びたくなかった」。

竿代信也さん

8〜10m間隔と通常より樹間を広く取り、日光が当たりやすくした竿代さんの栗畑。火ばさみを使わず、ひとつずつ選別しながら手で拾うのもこだわりのひとつ。「不良の栗やイガはそのまま土に返し、それも肥料になります」。

栽培から加工まで。日本で一番栗を食べている自信がある

竿代信也さん

収穫後は低温熟成させて甘みを引き出す。2週間で口中で感じる甘みは2倍、3週間で3倍に。家庭では、洗って水をきり、新聞紙で包んでポリ袋に入れ、口をしばらずにチルド室へ。家庭での熟成は2週間くらいを目安に。

現在の竿代さんの生活は、週の4日は笠間で栗農家、3日は東京の店で自身が育てた栗を主に使ったモンブランを作るためにパティシエとして腕を振るう日々。「栗栽培の“川上”から、加工する“川下”まで手がけているからこそ、栗のよさを引き出すことができると自負しています。だって日本で一番栗を食べている自信がありますから」。
例のない道を進み、自らがモデルケースとして成功することで、同じように農業をがんばる人が現れてほしいという想いがあるという。
「ひとつの食材としっかり向き合い、専門店を作り、プロフェッショナルが育つことを示し、『こういうやり方もあるんだ』『とことん突き詰めればいいものができるんだ』と思われる存在になりたいですね」。

期間限定で手間ひまかけて作った「栗おこわ」を販売!

<和栗や>の栗おこわの栗
※画像はイメージです。
バイヤー真野のお墨付きの一品、<和栗や>の栗おこわの栗はもちろん人丸。シンプルな塩味で栗の味を引き立たせる。

「LE CHARME DU TERROIR NIPPON」では生栗の販売はないが、昨年好評だった栗おこわを販売する予定だ。
「一番おすすめの食べ方は蒸し栗です。焼き栗も香ばしくておいしいけれど、ムラになりやすいから一定の品質を保つのが難しいのと、時間が経つと硬くなりやすい。そこで、通常販売していない栗おこわを、昨年催事限定で予約制で販売したところ、7日連続で来店してくれた方もいました。同じ志を持つ生産者と会うのもすごく刺激になるので、楽しみにしています」。

「栗おこわ」
各日午後12時30分からの販売
数量限定につき、品切れの際はご容赦ください

その他の出店者

●千葉県:<ISHIDA NOUEN>(金蜜芋のパフェ)、<ONE DROP FARM>(はちみつ)、長野県:<アップルファームさみず>(りんご)、島根県:<柿壺>(干し柿)、広島県:<エビス農園>(レモン)など
●「お米6人衆」新潟・福井・茨城・滋賀・山形・岐阜県から生産者が来場し有機や特別栽培米をご紹介します。
●「愛の野菜伝道師:小堀夏佳氏」が伝統野菜や有機野菜の生産者とともに登場します。

全34店の出店者情報はこちら

写真:木村文平
取材・文:荒巻洋子
制作:ハースト婦人画報社 HEARST made

※価格はすべて税込です。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。

#この記事のタグ