奈良一刀彫・荒木 義人 清雅なる雛人形の世界

「奈良人形」から「奈良一刀彫」へ
奈良一刀彫の起源は、奈良を代表する神社・春日大社の神事「春日若宮おん祭」に用いられた人形「奈良人形」と伝えられ、その歴史は平安時代にまでさかのぼります。
奈良人形は、神事人形として不浄を嫌うことから、できるだけ自然の素材を使って人の手を加えないことが尊ばれ、一刀で彫ったかのような自然の風合いが好まれてきました。
その後、明治期に入ると奈良人形は「奈良一刀彫」と呼ばれるようになり、江戸末期から明治初期に活躍した名工・森川杜園が生んだ作品は、凛とした気品の中にも素朴な温かみや周囲を圧倒する静けさを有し、一気にその表現の可能性を広げたのです。

そして現在、節句人形や干支人形で親しまれている奈良一刀彫は、伝統的な美意識を受け継ぎつつ、現代の暮らしにマッチするモダンな彩色やコンパクトな造形で、多くの人々に愛されています。
緑濃きアトリエ 奈良一刀彫作家・荒木 義人
奈良市の郊外、最寄りのバス停から一本脇道に入り、田畑や小川の間を抜ける細い道を進んだその先、緑濃き森の中に荒木 義人さんのアトリエはあります。

アトリエ奥の壁一面には、まるで図書館のように芸術系書物が整然と並べられ、大きな北側の窓からは柔らかな光がたっぷりと差し込み、付近の緑葉が目に染み入る、そんな環境で荒木さんは日々作品制作に励まれています。

荒木 義人さんは、昭和30年(1955年)大阪市に生まれました。
国立奈良工業高等専門学校卒業後、奈良県の工芸作家育成プロジェクトを知り、「この道もありかな」と応募。「日展」の重鎮で「奈良一刀彫」の名工・竹林 薫風氏の門下生として、彫刻の世界に進みました。

竹林氏の薫陶のもとで彫刻の基礎を体得すると、若くして公募展で受賞を重ねます。
26歳の時に渡欧し、古代から現代の彫刻の研究を深め、帰国後は師と同じく「日展」を発表の場とし、一刀彫において刀法と彩色の技に磨きをかけました。
そして平成18年(2006年)には、皇室への献上品を制作するなど、現在名実ともに奈良一刀彫を代表する作家として活躍されています。
比類なき清雅な奈良一刀彫
荒木さんの作品の魅力は、奈良人形ならではの潔い刀の切れ味、凛とした風格と雅やかな色彩。そして何と言っても、心が洗われるほどの愛らしい人形の表情ではないでしょうか。

奈良一刀彫の魅力についてお伺いしました。
「細かく毛の一本ずつまで掘られている作品より、的確な面の構成で仕上げた方が、イキイキと表現できる。そこが一番の魅力であり、私の目指す所です」
「一刀彫は、木の中から自分の作りたいものが一気に出てくる力強さや感動を残す。そんな魅力のある手法なのです」
と語る荒木さん。

そして、奈良一刀彫に雅やかな香りを与えるのが、繊細で緻密な彩色の技です。
「彩色で最も気を遣うのが雛人形の顔です。顔を描く時は体調を整え、気合を入れます」
「顔の眼を描く時だけは、ちょっとでも苛つくと描けません。子供が小さい頃は、顔を描く数日間は子供を連れて里帰りしてもらっていました」と言いますが、お子さまが成人された現在は、奥さまと一緒に彩色していると目を細めます。

「結局、作品は人間が作ったものですから、その作品の向こう側に作っている人間が見える訳です。ここはどんな気持ちで仕事をしたのかなとか、作り手としての思いが絶対に出る」
「自分の作品でも、そんな風に感じてもらえるような仕事を残せたら、と思って制作しています。それには自分自身ちゃんと生きていく・・・そこが一番大事だと思うんです」
師である竹林氏の教えでもあります。
昨年に続き、三越伊勢丹オンラインストアでは、荒木 義人さんの奈良一刀彫雛人形作品をご紹介しています。
奈良一刀彫人形作家・荒木 義人さんの技の精華、清雅なる雛人形の世界をお楽しみください。



昭和30年 7月16日生まれ
昭和51年 国立奈良工業高等専門学校卒業後、彫刻家・竹林薫風氏に師事
昭和56年 渡欧、古代より現代の彫刻を研究
昭和57年 奨励賞(天展)
昭和58年 日展入選
昭和59年 県展賞(県展)
昭和60年 文部大臣奨励賞(県展)
平成24年 皇太子御夫妻への献上品制作(奈良県庁より)