
三越伊勢丹では、日本各地のよいものをたくさんご紹介しております。それぞれのアイテムに息づく“つくり手の想い”や“ストーリー”をもっと多くの方に知っていただきたいとの願いから、生産地や生産者について綴った連載をスタートすることになりました。現地へ旅して、工場見学をしているような気分でお楽しみください。vol.1は、富山県の〈能作〉。「曲がる器」として一躍名前の知られるようになったブランドの魅力をお伝えします。
「曲がる器」誕生秘話
〈能作〉の本社は、鋳物のまちとして400年あまりの歴史を持つ富山県高岡市にあります。1916年の創業当時より仏具や花器、茶道具などを手がけ、時代の変化とともに新たな製品が求められるようになったころ、現代表取締役社長である能作克治さんが「今までにない商品をつくりたい」と挑戦したのが「曲がる器」です。それまで“錫(すず)”といえば、硬度を増すためにほかの金属を混ぜるものでしたが、そのやわらかい特性を生かした錫100%のテーブルウェアの生産を始めました。逆転の発想から生まれた曲がるKAGOシリーズは、いまや〈能作〉の代名詞になっています。
ものづくりの現場
鋳物工場を訪れると、まずはその熱気に圧倒されます。高岡で伝統的な生型鋳造では、製品と同じ形状の木型の周りに砂を入れ固め、鋳型を作ります。木型を抜いたあとに溶かした金属を注入。固まった金属を、ロクロなどで丁寧に磨きあげて完成です。それぞれの工程は、熟練の職人による精緻な技術によって支えられています。
金属によっては、1000度以上で溶かす必要があるそうです。砂の鋳型は、何度でも崩して再利用ができるのでサステナブルといえますね。近年は、生型鋳造のほかにも、より細かい製品に適したシリコーンゴムでの鋳造なども取り入れています。
新工場では体験型の工場見学も
2017年に移転した新工場では、事前予約をすれば一般の方も工場見学ができるようになりました。昨年度の来場者数はなんと13万人。ガラス越しに製作風景を見るだけではなく、職人による生産の様子を臨場感を持って体験することができるのはうれしいところ。鋳物製作体験などのワークショップスペースやカフェなども併設されています。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在工場見学は休止しております。
エントランスには、さまざまな形の型が並んでいます。これは先ほど紹介した製作工程で使われる木型です。少量多品種製作を得意とする〈能作〉には、製品の種類の数だけ木型が存在します。お寺に収める仏具の木型などは永年保管が原則です。中には変わった形状のものもあり一見の価値があるコーナーです。
伝統を新たなステージへ
最後に担当の竹内さんに今後の〈能作〉について伺いました。
「〜伝統産業に轍(わだち)をつける〜という会社のスローガンを常に忘れず、また既成概念にとらわれずに新しいことにどんどんチャレンジしていきたいですね。興味をもっていただいたお客さまは、ぜひ〈能作〉の商品を使っていただき、いつの日か高岡を訪れてくださいね。」
〈能作〉の魅力は、新商品の製作にとどまらず、地方創生など新たな課題にも積極的な取り組む姿勢。変化のスピードが速いこれからの時代、どんな作品が登場するのか楽しみですね。