イタリア展バイヤー紀行|古都ペルージャで活躍するクリエーターたち

イタリア中部ウンブリア州の州都、大学の街として知られるペルージャ。丘の上には歴史地区(旧市街)が広がり、中世の面影が残る古都の雰囲気は、まるでタイムスリップしたかのような美しい街です。今回は、古都ペルージャで活躍する二人の女性クリエーターの工房を訪ねました。

ー陶板画家マリア・アントニエッタ・タティッキさんの生家「タティッキ荘」を訪問!
一目で彼女のものとわかるような、個性的で、心に訴えかける繊細な作品を創作しつづける陶絵画作家、<Maria Antonietta Taticchi/マリア・アントニエッタ・タティッキ>。アントニエッタさんが陶芸家を目指したきっかけや、古都ペルージャの歴史地区にある工房で意欲的に活動する彼女の創作の歴史や背景に迫ります。
ペルージャ市郊外の美しい田園地帯の中、すぐ近くを流れるテヴェレ川のほとりに建てられた広大な“Villa Taticchi”「タティッキ荘」で、大家族の一員として生まれたアントニエッタさん。幼少の頃から祖母のマリアと父のチェーザレに手ほどきを受け、絵を描くことが大好きな少女でした。
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タティッキ荘外観
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タティッキ荘に飾られるアントニエッタさんの作品。バルコニーの壁がそのままキャンバスに!
ー旧市街の工房での創作活動
最初はタティッキ荘の一室に小工房を構えていたそうですが、その後、活動の幅を広げ、現在は旧市街に工房を立ち上げました。今でも二女のカテリーナさんと二人で楽しく創作活動に励んでいます。
工房では、すべて一点ものであることへのこだわりを持っています。特に絵付けは細い筆の先を使ってフリーハンドで施します。その結果、あたかも手描き絵画のように、一つひとつ異なる一点ものに仕上がります。顔料を混ぜ合わせたり、塗り重ねたりして無数の異なる色合いを表現する技法から、伸びやかで色彩豊かな作品が生まれます。

顔料を単色で使うことが基本となる伝統的なマヨリカ焼きと異なり、独自の表現のために無数の色合いで描き出すアントニエッタさんの作品。ご自身で顔料を調合したり、実験したりすることを繰り返して、やっと自分の欲しい色を表現できるようになったそうです。
アントニエッタさん独自の美しい世界観が生まれる背景には、たくさんの苦労と挑戦があったことが伺い知れます。

ー創作の源にある、ウンブリアの風景と歴史
父方の祖父、ジュゼッペはタティッキ荘の主人である一方、ウンブリア州の農業改革の推進に一生をかけた人でした。この祖父に連れられて麦畑やひまわり畑やワイナリーなどを見て回るうちに、ウンブリアの田園や自然を深く愛するようになりました。今でもアントニエッタさんの創作の主な対象は、ウンブリアの広々とした田園風景、中世のままの古都や村落・水辺・オリーブの樹々・葡萄畑・ヒナゲシの咲き乱れる原野などです。


旧市街をアントニエッタさんと一緒に歩くと、なんとお知り合いの多いことか!すれ違う人との挨拶とお喋りが始まります。
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旧市街の壁や路上で見つけた、アントニエッタさんの作品。地元の人にも愛されている
ー三越創業350周年を記念して生まれた作品
2024年のイタリア展では、三越が創業した頃と同じ時代(約350年前)の空想のペルージャを描いた特別な作品づくりに挑みました。ペルージャの中世の歴史を紐解きながら、生き生きとした街並みが丁寧に描かれています。
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新作創作の様子
ーイタリア展2025に再びアントニエッタさんが来日します!
「私がイタリア展会場におります4月23日(水)~4月27日(日)・29日(火・祝)までの間、お客さまとお会いできることをとても楽しみにしています。ハガキ大の小さなものですが、イタリアの風景を明るい色彩で描いた水彩画を、その場で描いてお見せしたいと思っています。」


ー続いて訪れたのは「ペルージャ・テーブルクロス」の工房<ジュディッタ・ブロゼッティ>
中世からルネッサンス期にかけて、ヨーロッパの王侯貴族の間で珍重された手織物「ペルージャ・テーブルクロス」。ジョットやレオナルド・ダ・ヴィンチの作中にもさりげなく描かれていたり、王家に嫁ぐ姫の持参金目録にも登場するなど、貴重な品と認められていましたが、時代と共に次第に廃れ、20世紀初頭にはその技術も忘れ去られていました。
その後、第一次世界大戦後に困窮したウンブリア州の女性たちに働き口をという運動の中で、<Giuditta Brozzetti/ジュディッタ・ブロゼッティ>はペルージャ手織物の断片を探してデザインを復活させ、18~19世紀に作られた古い手動のジャカード織機を使ったペルージャ織物の工場を始めました。現在の工房は13世紀の尼僧院を改修したもので、伝統技術の継承と作品の展示など、工房兼ミュージアムとして、ジュディッタの曽孫のマルタ・クッキアさんが4代目の当主をつとめています。
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13世紀の尼僧院を改修した美しい工房
ー手間と時間をかけて織り成す、手仕事の美しさ
工房では、昔ながらの手動のジャカード織機を使い、大変な手間と時間を掛けて経糸と横糸を織り合わせています。複雑な模様は穴を開けたパンチカードに記録されており、これを何種類も読み込むことで一つの織物が作られます。カードのデータの元となる模様を方眼紙に手書きした貴重な設計図や、昔からのパンチカードがたくさん保管されています。
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昔ながらの機械で時間を掛けて織り上げる
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図案とパンチカード
設計図の制作からパンチカードに落とし込む作業もマルタさんが手掛けており、20cm四方程度のサイズの模様でも、数カ月もの時間がかかるそうです。
最近は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に描かれるテーブルクロスの柄を再現しようとしているマルタさん。細かいパーツごとに織り方を推測し、設計図を起こし、パンチカードを制作して全体を組み上げていくという大変手間のかかる復元作業に取り組んでいるので、着手してからすでに2年程度かかっているそうです!「私、クレイジーでしょ!?情熱がないとこの仕事はできないわ」と笑顔で話すマルタさんには、この地に根付く伝統を守るという強い信念と、創作への情熱が溢れています。
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最後の晩餐の試作品(左)、模様を作り出すパンチカード(右)
ー伝統を後世に繋ぐことに強い使命感を持つマルタさん
実は会社を継ぐつもりはなかったというマルタさん。曾祖母のジュディッタさんがこの工房を開いたのが100年ほど前。その後、マルタさんの母の代で工房を閉じる話が出た際に、従業員の1人と一緒にこの機織りの技法を学び、このアーティスティックな機織り技法にすっかり惚れ込んでしまったそうです。このような美しい手織物の文化を途絶えさせてはいけないと強く感じ、工房の再建に力を注ぐこととなりました。伝統を活かし続けるための工夫として、今の生活に合うテーブルクロスやランナー、クッションカバーやバッグなどのアイテムを作りだしています。伝統的な手仕事に、マルタさんの感性が加えられた色やスタイルが光ります。
イタリアにはもうわずかしか残っていないこの種のアトリエのひとつである<ジュディッタ・ブロゼッティ>では、ラグジュアリーブランドにバッグ用などの生地を提供したり、コラボ作品の企画などを手掛けることも多いそうです。自分たちには世界中に顧客がいて、彼らのためにユニークでパーソナライズされた製品を作っていること、これこそ、マルタさんが最も誇りに思っていることにほかなりません。
伝統工芸の後継者不足は、イタリアも例外ではありません。後世に伝統を繋ごうと挑戦し続けるマルタさんの想いや、手仕事から生まれる美しい作品たち。もっと多くの人に知っていただきたいと強く感じました。
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マルタさんの情熱と感性によって生まれる作品

ーペルージャの滞在を振り返って
ペルージャでは、その土地に誇りを持ちながら、創作活動に情熱を注ぐアントニエッタさんとマルタさんとの出会いがありました。お二人共とてもチャーミングな人柄で、地域のコミュニティーを大切にされている姿が印象的。強い信念を持ち、そして何よりも楽しみながら仕事に向き合う姿勢がとても素敵でした!日本の皆さまに作品が届くことを、お二人ともとても楽しみにされています。
イタリア展では、お二人の情熱と感性から生まれた作品の数々ご紹介します。ぜひ会場でご覧ください!
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アトリエで出迎えてくれたわんこたち
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旧市街の眼下に広がる風景
イタリア展 2025
PART1:
エムアイカード プラス会員さま特別ご招待日:2025年4月23日(水)
一般会期:2025年4月24日(木)~4月29日(火・祝) [最終日午後6時終了]
PART2:
エムアイカード プラス 会員さま特別ご招待日:2025年5月1日(木)
一般会期:2025年5月2日(金)~5月6日(火・振替休日) [最終日午後6時終了]
□日本橋三越本店 本館7階 催物会場