多摩美術大学テキスタイル専攻 with Marimekkoが紡ぐピースなミライ。「ピース de ミライ」参加学生インタビュー

ファッションを通じて新しい未来を示唆していく三越伊勢丹によるプロジェクト「ピース de ミライ」と常に持続可能なアプローチに基づき、時代を超越した機能的で耐久性のある製品を提供するマリメッコのブランド哲学が共鳴。マリメッコから提供された残反を「ピース」に、アートの未来を担う多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻/大学院美術研究科博士前期課程 デザイン専攻テキスタイルデザイン研究領域から選抜された学生が作品を制作するスペシャルな企画が実現しました。
この記事では多摩美術大学の学生を代表した2名の方に、今回手掛けた作品やサステナビリティに対する思いを伺いました。
多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻では、「布」全般を指す「テキスタイル」をデザインするための知識や技術、創造力を学び繊維素材に関わる新しいデザイン・表現ができるデザイナー・アーティストを育成しています。
2年生後期からインテリアテキスタイル、ファッションテキスタイル、テキスタイルアートの専門のスタジオで、社会と接続した実践的なプロジェクトに取り組み、人々の生活の美に貢献できる国際的視野をもつ人材育成を目指しています。大学院では、研究制作のテーマを絞りテキスタイルの可能性を探求するため、担当指導教員によるきめ細やかなマンツーマンの指導が行われています。
マリメッコは1951年に創業されたフィンランドのデザインハウス。そのプリントは、目にするだけで明るく前向きな気分にしてくれるブランドの象徴的存在として、人々に愛され続けてきました。
以下はマリメッコから本企画に寄せられたコメント。
「余った素材から新しい作品を生み出すという取り組みにとても興奮しています。このイニシアチブは、ファッション分野における創造性の育成と循環性の促進におけるマリメッコの価値観とよく一致しています。多摩美術大学の学生の表現力や創造性を楽しみにしています!」
=学生インタビュー1=
森島菜穂さん
「日常の中にある小さな輝きの記憶を大切にしたい」
森島菜穂さん(多摩美術大学 大学院美術研究科博士前期課程 デザイン専攻テキスタイルデザイン研究領域2年)
-森島さんは普段、どういった作品を制作していますか?
「生きる痕跡を染める」をテーマに、日常生活で目にするものを“染め”で描くことで自分の中の記憶をより強くし、ものとしての記録を積み重ねていくような作品を制作しています。生活している中で感じられる「心地いいな」「安心するな」という小さな輝きは、忙しさや雑事に追いやられて見えなくなったり、忘れてしまったりしがちなので。染めで表現することには、洗っても落ちないという意味合いもあります。
-記憶が布に定着するわけですね。そもそもテキスタイルに惹かれるのはなぜでしょうか?
人に一番近い素材だからです。肌に触れて、生きていく上での根幹に関わる、なくてはならない存在なので。
-今回、「ピースdeミライ」のプロジェクトに参加された理由は?
もともと捨てられる服の問題にすごく関心がありました。テキスタイルは人間にとって無くてはならないものですし、循環できるように作って次の世代に渡すことができるようにしたいと思っていて、そのためにアーティストとしてできることがないかと。
-テキスタイルにおけるサステナビリティについて問題意識を持っていたんですね。
実は普段の制作でも、私自身が着なくなった服や古くなったシーツを素材に使っているんです。ブラウスのボタンの付いた部分をそのまま活かしたり、染めたり、脱色したり。普段の制作に取り入れているこれらのほかにも、繊維をほぐしてまったく新しい布にするという方法もあります。
-ご自身が使ってきた布地を使うことは、「生きる痕跡を染める」という作品テーマにも合致しそうです。
そうなんです。自分に近いものに描くという意味があります
-ちなみに制作以外でサステナビリティを意識することはありますか?
商品を選ぶときに、それを販売している会社がつくるということにどう向き合っているかを、WEBサイトなどを見て調べることはあります。できることならサステナブルな取り組みをしているところから買いたいので。
-今回の作品づくりは、まずコンセプトワークから?
はい。マリメッコの布と自分の作品テーマをどのように掛け合わせられるか、共通点を見つけてコンセプトをつくっていきました。
北欧の長い冬を明るく過ごすため、室内に輝きをもたらしてくれるマリメッコの布。それは、私が生活の中にある小さな輝きを大切にしたいと考えていることとつながるように感じました。マリメッコの布を使って、私が生活の中でいいなと感じたものを描くことで、生活に寄り添い、気持ちを明るくする作品を制作したいと考えました。
-とくにこだわった部分はありますか?
「朝の散歩」「窓際」「小さいごちそう」「対話」という4枚を制作しましたが、柄の持つエネルギーや魅力を閉じ込めずそのまま活かせるように、なるべくラフに、描くように縫っていきました。歪みができていたり、ステッチは隠していなかったりするので、おおらかな気持ちで見ていただけるとうれしいです。
-楽しんでつくったんだろうなということが、作品からも伝わってきます。
楽しかったです。童心に帰って大きい筆でバーッと塗っていくような心地よさがありましたし、マリメッコの布が本当にかわいくて気分が上がりました。
-マリメッコの布は大胆な色柄が多いので、作品に取り入れることは難しかったのでは?
普段の作品では白黒がベースになっていることが多いので、デザイン画を考えているときは少し心配でしたが、実際に縫い合わせてみたらどの色柄も、魅力を消し合わないことがわかって。柄が持つ雰囲気が画面のなかでひびき合うように組み合わせることができました。
-作品をご覧になる方にどんなことを伝えたいですか?
日常の中の小さな輝きの記憶を消さずにずっと傍らに置いて、そんな記憶が積み重なっていくほど日々は豊かになっていくものだと思っています。作品を見てくださる方の日常にも、小さな輝きの記憶はたくさんあると思うので、それを大事にしてほしいと伝えたいです。
-森島さんは今後、ものづくりとどのように関わっていきたいか、未来に向けて展望はありますか?
食べること、寝ること、呼吸をすることと同じようにつくり続けていきたいと思っています。生活に寄り添うということを自らが体現するように、作品と私はパートナーのように歩んでいきたいです。
=完成した作品はこちら=
「朝の散歩」
小さいころは遊ぶのに夢中で公園の遊具の形なんて気にしたこともなかったんですが、おとなになって早朝や深夜に公園を歩いてみると、なんて明るい建造物があるんだろうとびっくりすることがあって。しみじみいいなという気持ちで、このシーンを選びました。
「窓際」
自宅のカーテンのそばに植木鉢を置いてから、その周りの空間に目を向ける時間ができたんです。植物が元気かどうかを確認するたびに周りのことも見ていて、生きているものと、風と、光を感じている。視点が変わったなという発見がありました。
「小さいごちそう」
普段、揚げ物を買うことは少ないのですが、コンビニでふとアジフライを見つけて買ってみたんです。そうしたら、すごく美味しくて。2つも入って200円なんて、うれしくて。そういう新しいものを見つけられる、余裕のある気持ちを大事にしたいなと思っています。
「対話」
お茶の時間を持つことは、すごく豊かだと思っていて。マリメッコはテーブルウェアが充実しています。向かい合って座る人のことを考えてテーブルをコーディネートすることは相手を思いやるということですし、2人でいる時間を大切にする行為ですよね。
=学生インタビュー2=
飯塚玲南さん
「素材を活かしながら、自由な発想でつくりました」
飯塚玲南さん(多摩美術大学 生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻3年)
-普段はどういった作品をつくられているんですか?
布を織って、その織物で服をつくっています。もともとファッションが好きで、せっかくなら布からつくりたいなと思ってテキスタイルが学べる大学に入りました。
-作品には一貫したテーマが?
いえ、授業の課題内容によって変わります。与えられた課題に対して、自分の好きなものなどを組み合わせて考えています。
-マリメッコの「ピース」からアート作品をつくることも、ある種の課題だといえるかもしれません。まずはどこから取り掛かりましたか?
いつもは布を自分でつくるところから取り掛かるので、デザインされた布を使って作品をつくるというのは初めてでした。しかも残反だから細長い形が多く、そこからどんなことができるのかを考えました。
-まずは与えられた素材と向き合ったんですね。マリメッコの布からはどんな印象を受けましたか?
大胆で、カラフルで、楽しさが伝わってくるような。私は織物をつくることが多いのですが、今回の制作ではプリントの魅力もすごく感じました。
- プリントの魅力とは?
色や柄をはっきりと描けることだと思います。
- 既成の布を使用することに、難しさはなかったですか?
布の形が細長いということが一番のネックでした。また、厚手で硬めのしっかりとした素材感の布だったので、そこをどう活かすかも考えました。
-作品のコンセプトを教えてください。
「輪投げ」です。人が纏っている遊具というコンセプトでマリメッコのデザインの楽しさを表現できたらなと思っています。
-とくにこだわった部分はありますか?
-ファッションとしての服を超越した“着られるアート”ですね。
身体を遊具に見立てて、マリメッコの楽しさを伝えたいと思いました。
-つなぎ目の処理が難しそうです。
そこは苦戦しました。裏のつなぎ目だけ違う布を使って、アクセントにもなるようにしています。普通はチューブ型のものをつくるとき、大きな布から丸く切り出してつなぎ合わせるときれいにできるんですけど、細くて固い布だったので難しくて。円の内側にワイヤーを入れることで形を整え、キュッとギャザーを寄せる方法を考えました。
-そのギャザーがアクセントにもなってかわいいです。今回、作品に使用したマリメッコのテキスタイルは?
私は「ウニッコ」という、たぶんマリメッコで一番有名な花柄が好きで。今回はすべて、そのデザイナーのマイヤ・イソラさんによるデザインのテキスタイルで統一しました。白の布もいただけたので、それは自分で染めてアクセントに足そうかなと思っています。
- マリメッコは技術、材料、ビジネスモデルの革新を継続的に推進することで長持ちする製品を生み出すなど、ファッション業界のサステナビリティ向上への積極的な取り組みでも知られています。飯塚さんは普段から作品づくりでサステナビリティを意識することはありますか?
布をつくるときや使うときにできる限り残反が出ないようにしたり、小さなサンプルの布はホルダーにファイリングしておいたり、なるべく捨てずに活用しています。
-作品制作以外ではいかがでしょうか?
古着が好きで、古着屋でアルバイトもしています。古着を着ることもサステナビリティにつながることかもしれませんよね。
お財布にもやさしいですしね。よりよい未来に向けて、どのようにサステナビリティと向き合っていきたいですか?
布を染めるときには化学染料を使うことが多いんですけど、植物染料を勉強して、大学のキャンパスで採れる木の皮などから抽出して布を染めることにも挑戦しています。今後は植物染料も積極的に作品に取り入れられたらなと思っています。
=完成した作品はこちら=
「身体と動作」
身体を遊具に見立てた作品。これまでは型にはまってしまうことが多かったのですが、服の形にとらわれずに自由な発想で制作できました。チューブにインパクトがあるので、作品全体から迫力を感じていただけたらうれしいです。
2023年10月11日(水)〜10月24日(火)の「ピース de ミライ」の期間中に、今回ご紹介した作品を含む多摩美術大学テキスタイル専攻の学生による作品の数々を伊勢丹新宿店のウィンドウや店頭にて展示いたします。どうぞお楽しみに!
三越伊勢丹ミライアワード
ピース de ミライ
~Revalue Fashion Project~
※画像は一部イメージです。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
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