初体験の味を生む食材としてのカカオについて考える|「ufu.」編集長×サロン・

伊勢丹新宿店の視点で今を切り取るTHE MOMENTS。今回のテーマは「TSUGI」。2024年はサロン・デュ・ショコラが3部制となり「THE NEXT」をテーマのひとつとして取り上げることもあり、シェフたちの未来を見据えた創作に共感する食料品アシスタントバイヤーの岩腰亜美が、スイーツ情報を発信するWebメディア「ufu.」編集長の坂井勇太朗(クリーム太朗)さんと対談。「THE NEXT」でご紹介する代々木の<ICON/アイコン>にて、ショコラやカカオのこれからについて考えました。
ショコラの原料ではなく主役の食材となっているカカオ

岩腰:伊勢丹新宿店のサロン・デュ・ショコラは2021年にPart1、Part2と2部制になったのですが、2024年はさらに拡大してPart3までの展開となります。そのPart3のテーマが「THE NEXT」です。新しいカカオやショコラのアプローチに果敢に挑んでいる次世代のショコラティエ、パティシエが増えてきていると感じているので、その方たちをクローズアップできればと企画しました。
坂井:カカオに対する新しい試みというのは<AMAZON CACAO/アマゾンカカオ>の太田哲雄さんがパイオニアで、サロン・デュ・ショコラでもカカオの麺料理などいろいろやられていましたよね。そこに刺激を受けて新しい可能性を感じたシェフはすごく多いと思います。カカオを脇役のような素材ではなく、主役になれる食材として捉える方は増えていますね。
岩腰:サロン・デュ・ショコラを担当する私たちにカカオの可能性を感じさせてくれた太田さんの存在は大きかったです。現在では一般のレストランなどでもカカオを使った料理を出すお店も見かけるようになりました。
坂井:カカオの持つ酸味、コク、産地によって異なる良い意味での「クセ」などが料理に向いていると料理人たちが気づき始めたんでしょうね。カカオをテーマにしたカクテルを提供するバーだったり、今日お邪魔している<アイコン>さんもハンバーガー専門店ですが一部のメニューにカカオを活かしたり、さまざまなスタイルでカカオを味わうという波は確実に広まっています。
次世代のシェフたちはカカオへの探究心がとても深い
岩腰:「カカオの可能性」というと少し難しいテーマのように感じてしまうかもしれないのですが、私としては「<アイコン>のハンバーガーおいしそう!」と気軽に興味を持ってもらって、そのおいしさの裏には、実はカカオの果肉や種皮が活かされていることを知ってもらえたらと思っています。
坂井:伊勢丹新宿店としても「THE NEXT」は次なるグルメの紹介というわけではないということですよね。
岩腰:サロン・デュ・ショコラは約20年の歴史があるのですが、さらに20年後もイベントを一緒に盛り上げてくれる作り手を発掘していきたいと視点ですね。
坂井:自分も仲良くさせてもらっている若い世代のショコラティエはカカオの産地にも積極的に足を運んでいます。彼らに「どうして現地に行くのか」と質問をしたことがあるのですが、知らないことがまだまだあるので学びに行くということでした。逆に現地の人たちが知らないような食材としてのカカオの活かし方を情報として提供しているそうです。それもカカオ産地がもっと発展してほしいという想いからです。今では産地の環境保全にまで踏み込むような動きも生まれてきています。
岩腰:お客さまのカカオへの関心の高まりといえば「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」の登場は大きかったです。サロン・デュ・ショコラで取り上げ始めた初期はどうしても国内外のショコラティエやパティシエブランドの陰に隠れがちだったのですが、認知されていくとともにショコラになる前のカカオにまでお客さまの興味が深まったような気がします。

坂井:現在はサロン・デュ・ショコラでもカカオやショコラを使った料理を提供するイートインがすごく人気ですよね。新しいカカオの表現を楽しみにしている方は会場を取材をしていても感じますよ。僕もイートインを何よりも楽しみにしている一人ですから。「今年は控えめに」といつも思っていても毎回食べ過ぎてしまうんですよね(笑)。
岩腰:サロン・デュ・ショコラのイートインだからといってカカオを無理に料理に使っているわけではないです。シェフの方たちも、食材として適しているかという視点で厳選した上で使用しているので、どれも料理としての完成度が すごく高くなっていると思います。
「ufu.」編集長の坂井さんが「THE NEXT」な3品を試食

左から:坂井勇太郎さん、<アイコン>シェフの片寄雄太さん、岩腰亜美
岩腰:今日は坂井さんにご試食いただければと思い、「THE NEXT」として紹介するブランドのなかから3品をご用意しました。まずは<アイコン>のハンバーガーです。上に載っているのがカカオバターを使用したハニーバターで、それをバンズで挟むことで溶けていき味が一体となります。私はハニーバター単体だけで食べたいと思うぐらいおいしかったです。

<アイコン>
プレミアムハニーバターバーガー(カカオバター) 3,300円 (1個)
※2024年2月4日(日)〜2月8日(木)のみの販売となります。

坂井:香りもしっかり感じられますし、味わった後の余韻がカカオそのものです。ハンバーガーなので食材の香ばしさも塩味もちゃんとありますし、それでいて最後に残るのはまろやかさというちょっと初体験の味です。強い食材をたくさん使用しているのに、カカオの存在はそこに負けていないです。これはおいしいですね。
岩腰:次は<ROND-POINT/ロンポワン>のボンボンアソートを。こちらはカカオテーマにしたカクテルバーとして有名な<memento mori/メメントモリ>とのコラボレーションです。カカオを素材としたカクテルが先にあって、その<メメントモリ>の味をショコラに落とし込んで再現するというかなり実験的なことを試みていて完成までに一年以上を要したそうです。

<メメントモリ>×<ロンポワン>
カクテルショコラスペシャルエディション 5,940円 (8個入り) 商品を見る
坂井:<ロンポワン>の田中丸博文さんはショコラに対してはいつも全力投球ですしお酒が大好きですから、彼らしいコラボレーションですね。僕は<メメントモリ>にもかなり通っているので、そこのカクテルの味がどれぐらい再現されているのか楽しみです。

坂井:これは「アマゾンカカオとローズ」ですね。このカクテルはお店で飲んだことありますが、味の再現度はかなり高いです。チョコレートのコーディングを薄くしているのもローズの味を感じられるようにするための計算でしょうか。パート・ド・フリュイの存在も斬新です。

坂井:続いて<メメントモリ>のシグネチャーカクテルの「テオブロマ」を。カカオニブをウォッカやラムに漬けたカクテルですが、ニブのコクとお酒の香りがしっかり再現されています。ジャリっとした食感も新しいですし、味わいも風味もボンボンショコラにはこんな表現もあるのかと驚きです。
岩腰:<LA BASE du Chez Lui/ラ バーズ ドゥ シェ リュイ>はお店のオープンが3月の予定なので、サロン・デュ・ショコラで先行でのお披露目となります。シェフの酒井將駄さんはパティスリー、ショコラトリー、ブーランジェリーでの修行経験からショコラだけでなくパンも得意。またカカオ産地にも足を運んでいることから「パンを入口にカカオを食べ比べてもらう」というイメージで今回2種類のパンを作っていただきました。使用しているのはウガンダ産とベトナム産のカカオです。

<ラ バーズ ドゥ シェ リュイ>
上:バケットショコラ ベトナム 1,458円 (1個)
下:パンスイス ウガンダ 891円 (1個)

坂井:ウガンダ産カカオのパンスイスをいただきます。以前、酒井さんがウガンダのカカオを使用して作ったショコラを食べたときに、青リンゴのような風味を感じたのですがこのパンにもそれを少し感じます。カカオ豆を砕いたニブも使用しているのでクリアな味わいが顔を出します。
岩腰:どれもおいしいと言っていただけてよかったです。私たちは自分で未知なる味を創作することはできません。できることは「THE NEXT」に挑んでいるシェフたちにご協力いただきながら、より多くの人たちにその新しい味わいや取り組みを知っていただけるようお手伝いをすることだと思っています。シェフの方々からも伊勢丹新宿店をより価値を高めてくれるパートナーだと思っていただけるようこれからも努力していきます。
坂井:バーガーもカクテルのボンボンショコラもパンも、どれもが「THE NEXT」にふさわしい新しい味でした。「ufu.」というWebメディアも次世代を応援したいというスタンスなので、伊勢丹新宿店さんと目線は同じです。これからのシェフたちにスポットを当てることは未来につながることだと思うので、微力ながらでも僕も応援していきたいです。

岩腰:今日はいろいろお話ができて参考になりました。ありがとうございました。
坂井:こちらこそ試食がたくさんできてうれしかったです(笑)。
坂井勇太朗
ufu.編集長
2010年、立教大学卒業。2011年、育児雑誌「ひよこクラブ編集部」にて7年携わったのち、ベネッセコーポレーション「サンキュ!編集部」へ出向。約3年携わった後、2020年にスイーツメディア「ufu.」編集部を立ち上げ、編集長に就任。モットーは「愛をもってコンテンツを作れば愛が生まれる」。好きなスイーツはショートケーキと、チョコレート。
岩腰亜美
伊勢丹新宿店 サロン・デュ・ショコラ アシスタントバイヤー
2016年入社。1年目に伊勢丹新宿店婦人服を担当し、2年目から現在まで食料品領域で商品領域を担当。現担当は2019年からで今年で5年目。
〜パリ発、チョコレートの祭典〜 サロン・デュ・ショコラ 2024
□2024年2月4日(日)〜2月14日(水) ※2月8日(木)は午後4時終了、最終日は午後6時終了
□伊勢丹新宿店 本館6階 催物場