「0丁目商店街」一田 憲子さんのコラム|DOTS vs BORDER「みずたまとしましまの対決って?」
2023年1月に、新宿0丁目商店街にて、面白そうなイベントがある、と聞いて、さっそくお話しを聞きに行ってきました。今回のテーマは「DOTS vs BORDER(ドットvsボーダー)」。ボーダーTシャツや、水玉のワンピースなどを見ると、胸がキュンとするのはなぜなのでしょう?
私のドット初体験は、子供の頃のワンピースでした。当時はまだ母親が街の洋品店で、洋服を仕立てもらっていた時代。夏物のノースリーブのワンピースは、白地にネイビーの水玉で、まったく同じ生地で私もワンピースを作ってもらったのでした。
母と一緒に出来上がった洋服を受け取りに行ったときのワクワクが忘れられせん。お出かけの時にしか着せてもらえなかったけれど、その水玉のワンピースを着て、麦わら帽子をかぶり、手には子供用の小さなトランクを持って・・・。
だから、私にとってのドットは、「よそゆきの柄」の象徴でした。
一方ボーダーデビューは意外に遅くて、大学生の頃におしゃれな友達が着ているのを横目で眺めながらも、コンサバな家庭に育った私は、なかなか手を出せませんでした。やっと買ったのは、ずいぶん歳を重ねてからだと思います。ちょっと小粋なボーダー柄は、「私とは違う、センスのいい人が着る服」で、カジュアルダウンが上手でないと、着られない服でもありました。だから、今でもボーダーを上手に取り入れている人を見ると「さすがだなあ」と憧れの目で見つめてしまいます。
今回、「新宿0丁目商店街」で発売する「DOTS vs BORDER(ドットvsボーダー)」の目玉商品が、モデルの香菜子さんが作る「おぱんつ君」。なんとも言えないユニークで、愛らしい「おぱんつ君」が、ドットと縦ボーダーのパンツを履いているというもの!もうその姿を一目見ると、誰もが欲しくなってしまうはず。そこで、今回引っ越したばかり、という香菜子さんの新しいアトリエにお話を伺いに行ってきました。
コロナウイルス感染症が始まった頃、ステイホームの日々が続き、時間があったので、何か作りたいと、手を動かすうちに出来上がったのが「おぱんつ君」だったそうです。
「ファーのハギレを縫い合わせて、綿を詰め、目のパーツをつけてみたら、こんな不思議なかわいい生き物が出来上がったんです」と教えてくれました。
そして、今回おぱんつ君が履いているのはスペシャルなパンツ!香菜子さんもご自身で愛用しているという天然素材を多く使ったアンダーウェアとリラックスウェアのブランド<TESHIKI>さんのもの。「清澄白河の雑貨屋さんで出会いました。いかにも『パンツ』っていう、ふっくらとした形がいいんです。履いてみたら、気持ちよくて・・・。今では娘と私で愛用しています」と香菜子さん。
「おぱんつ君」は箱入りで販売されています。ふたをそっと開けて、おぱんつ君とご対面!実はこの時、パンツはまだ履いていません。
「買ってくださったお客さまに、箱の中に同封されているパンツを儀式として履かせていたくんです。そうすれば、自分だけのおぱんつ君になるような気がして・・・。すべてにシリアルナンバーがついていて、パンツについているタグと、箱のナンバーが一致するようになっています」。
今回のパンツは、黒地に白のドットとちょっと大人な雰囲気。水色のボーダーも、茶色のおぱんつ君本体の毛並みによく似合います。
そんな香菜子さんに、初めてのドットとボーダー体験を伺ってみました。
「ボーダーは、高校生から大学生ぐらいかな?フランスのブランドでめちゃめちゃボーダーTが流行っていて、伊勢丹の1階の角のお店にしょっちゅう通っていました。でも、高くてなかなか買えなくて。白と黒のボーダーTシャツにスナップカーディガンを合わせて、それにクロップトパンツみたいな短めの丈のパンツを履いて。それだけでパリジェンヌになった気分でしたね~。白いシンプルなスカートにレギンスを合わせて、ボーダーTを合わせたことも。ショップの店員さんが、そういうコーディネートをしていたので、真似したんです。その後知ったフランス・ノルマンディ地方の街名がブランド名のボーダーTは、ちょっとカジュアルにデニムに合わせていました。休みの日に、代官山のお店に行くのが楽しみだったなあ」
一方で、ドットの初体験は小学生の頃だったそう。
「仲良しの友達が手作りが大好きで、一緒に『スカートを作ろう!』って生地を買いに行ったとき、絶対にドットがいい!って思っていました。茶色地に白のドットの生地を買って、それでタイトスカートを作りました」
小学生の時に、茶色地に白いドットを選ぶなんて、さすがのセンスでびっくり!
「それ以降は、たまに気が向くとドットのワンピースを買ったけれど、私は5年に一度ぐらいしか、ドット柄の洋服を着ないんですよね。私は背が高いので、ドットを着るとちょっと可愛らしくなっちゃって・・・。どちらかといえば、ボーダーの方が選びやすいかな」
今回、「おぱんつ君」以外に、「新宿0丁目商店街」に登場するのが、<オールドマンズテーラー/アール&ディー.エム.コー>の0丁目限定ボーダーTシャツと、<オールドマンズテーラー>のドット柄の生地で作られたスカート。ボーダーTシャツは、私も持っているのですが、なんといっても素材感が気持ちいいんです。とろりとした生地で、肌になじみ、気がつけばこればかり着ている・・・という上質なボーダー。なのに襟元のパイピングはしっかりしていて、よれることがありません。今回は、伊勢丹新宿店だけのスペシャルバージョンで、肩付近に2ケタ数字が!!シルバー・ホワイトの2色から選べるんですよ。スカートは、ウエストをぎゅっと紐で締めるタイプ。ボックス型になるので、少しクラシカルに着こなすことができます。
さらにアクセサリーブランド<マメロン>さんは、真鍮のマル(DOTS)ブローチを。これからの季節、コートやジャケットにひとつプラスするだけで、オシャレ度がアップしそうです。ボーダーのギャルソンタイプのエプロンは、きりっと大人に締められそう・・・。
そして、なんと<エバゴス>のバッグも登場!<エバゴス>オリジナルのボーダーの生地にPVC加工を施したもので、この素材感がなんともおしゃれ!いつものかごバッグの「かぶせ」がドットだなんて、このイベントでないと手に入りません。早いもの勝ちですよ~!
最後にボーダーとドットについて、アシスタントバイヤーの原田 陽子さんが、とても興味深い話を聞かせてくれました。
「西洋では、もともとボーダーは囚人服の柄でした。一目でわかりやすいからだったんでしょうね。犯罪者や異端者などもボーダーを着せられていたそう。邪=ヨコシマは、悪魔の柄だったんですよね。
その後、フィッシャーマン(漁師)たちの間で、海でもし溺れてもボーダーなら目立つからという理由で広まりました。1850年代頃からは海軍の男性が制服として着始めて、1910年ぐらいには、現在でも世界的に有名なフランス発信のブランドの名前にもなった女性デザイナーがボーダーをパンツに組み合わせたことから、女性にも着られる『ファッションアイテム』として人気になっていったんです。
そこから、「バスクシャツ」など、フランスの織りの文化の中で、強くて、着やすくて・・・定番アイテムとしての位置づけに、50年から70年代のフランス映画で活躍したセルジュ・ゲンスブールや、画家のピカソ、その当時のパリのファッションリーダーたちが着るようになったことで広まったんですね。」
「一方ドットも、中世ヨーロッパで伝染病が蔓延していたころの発疹を連想させるので、否定的な感情で囚われていましたが、世界に目を向けると、自然界のありとあらゆるところで、動物や虫や植物にある柄なんですよね。さらに、インドやアジア・日本ではバティックや豆絞りなど、染色の技法のひとつとして発展してきました。1920年代以降にアニメーションから人気になったテーマパークキャラクターの衣装にドットのワンピースが使われていたり、さらには映像の中で見るマリリン・モンローが着た、クラシカルな白地に黒のドット柄のワンピースも印象的でしたね」
つまり、歴史の中では、決していいイメージがなかった柄なのに、そのかわいらしさ、さわやかさをいち早く見抜き、装いの一部として取り入れたファッションリーダーたちがいたということ。今までの常識を覆し、自分たちの「意志」を持って選んだのが、ドットやボーダーの柄だったというわけです。
そう考えれば、ナチュラルでかわいらしいイメージでいたけれど、ドットやボーダーは、既存の価値をひっくりかえし、自分たちらしく取り入れたい、という強さをはらんでいるのかもしれません。
そんな「DOTS vs BORDER(ドットvsボーダー)」が、伊勢丹新宿店 本館4階 ステージ#4に大集合!私も今までとはちょっと違う目で、新たな「柄」を楽しんでみたいと思います。
文・一田 憲子さん
ライター・編集者として女性誌、単行本の執筆などを手がける。2006年、企画から編集・執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を2011年「大人になったら、着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。著書に「日常は5ミリずつの成長でできている」(大和書房)「暮らしを変える 書く力」(KADOKAWA)新著「もっと早く言ってよ。」(扶桑社)新著「人生後半、上手にくだる」(小学館)自身のサイト「外の音、内の音」を主宰。https://ichidanoriko.com/
写真・近藤 沙菜さん
大学卒業後、スタジオ勤務を経て枦木 功氏に師事。2018年独立後、雑誌・カタログ・書籍を中心に活動中。