<BATONER/バトナー>軽やかでタフな、夏のハイゲージニットTシャツ

<バトナー>軽やかでタフな、夏のハイゲージニットTシャツメインビジュアル

夏は豊かな感情を呼び覚ましてくれるアクティブなイベントや、まぶしいほどに鮮やかな夏野菜など、汗ばむ気候ならではの風物詩に恵まれた季節です。しかし、日差しや湿度の高さは年々厳しさを増すようで、洋服選びには制限がかかってしまうことも。

そんな夏に寄り添ってくれるアイテムとして、「あたらしいラグジュアリー」をコンセプトに掲げる伊勢丹新宿店のプライムガーデンとスタイリストの井伊 百合子が提案するのは、ラフに見え過ぎず洗練された、編目の細やかなハイゲージのニットTシャツです。

<バトナー>ハイゲージニットTシャツの画像

山形のニットファクトリー<バトナー>

コラボレーションをしたのは<バトナー>のディレクター兼デザイナーを務める、奥山 幸平さん。1951年創業のニットファクトリー、奥山メリヤスで生産の現場を10年経験したのち、アパレル会社で企画を担当しました。再び、奥山メリヤスに戻り、2013年にファクトリーブランドとして立ち上げたのが<バトナー>です。

<バトナー>の製品を生み出す工場は、山形の名峰、葉山・月山・大朝日岳に囲まれ、澄みきった清流に恵まれた山形県寒河江市にあります。ここは、かつて、羊毛の産出や紡績が盛んに行われたニットの聖地としても知られているエリア。

“バトンタッチ”のバトンに「~する人」という意味を込め、接尾辞のERをつけたブランド名の通り、原料の仕込みから製品に至るまでのすべての工程を一貫して行い、熟練の職人から次の世代へとクラフツマンシップを継承しているものづくりの現場に、&ISSUEディレクターの井伊 百合子が足を運び奥山さんにインタビューしました。

ディレクター・デザイナー奥山幸平さん画像
ディレクター&デザイナー奥山 幸平さん

自社ブランド始動にかけた想い

奥山さんは<バトナー>を始めるまで、生産や企画・営業といった幅広い役職の経験を通して、自身の会社を含む、繊維産業に根深く存在する問題に違和感を持ち、打開策を求めていたそう。

「当時、作り手の自分たちが、これがベストだと思えるものづくりが出来ていませんでした。他ブランドからの注文を受けて商品を作るOEM生産に頼らざるを得ない経済的な状況や、低コストやスピードが求められる納期の設定など、複数の要素が絡み合ってどうしようもなく生まれてしまう不満があったんです」。

「自分たちのノウハウを素直に突き詰めれば、上質なものを世の中に届けられるのに、と思いながら仕事をするのはきつかったですね。それに、このあと自分が会社を継ぐと考えたとき、かなり悩んでしまいました。自分が納得していないものを作っている工場に、同世代や、若い方々がついてきてくれるのか。自分だったら嫌だと思いました。なんとかしたいと思って奥山メリヤスのファクトリーブランドとして<バトナー>をスタートしたんです」。

糸が編まれ、すこしずつ生地になる様子を見つめる井伊 百合子さんの画像
糸が編まれ、少しずつ生地になる様子を見つめる井伊 百合子さん。
ニッティングの工程画像
ニットの原型となるパーツごとに分かれた生地を編むニッティングの工程。編目が細かければ細かいほど、隣り合う針の本数や密度は上がるため、繊細な構造になる。

流行への適応ではなく、自分たちの「ベスト」を深める

工場として、毎シーズン移り変わる流行り廃りに柔軟に対応するのは、新しい技術へのチャレンジの後押しになっても、あるひとつの技術を洗練させていくこととは、逆の方向に進むことだったと奥山さんは話します。

「去年はこれを沢山作ったのに、今年はまったく違うものを作る。そのためにイチから新しい技術を覚える。流行りに合わせて機械を買う。しかし、次のシーズンになると、去年修得したことがもう使えない。そうならない工場にしたかったんです。シンプルなアイテムでも細かなクオリティを高めていく。だんだんと作る人の技術が磨かれていき、お客さまも精度の高いものを身につけることができる」。

「10年目を迎えて、そういうプラスのサイクルに共感してくれる若い方々がすこしずつ参加してくれて、今は平均年齢が35歳くらいになったのは嬉しいです。ゆくゆくは、実は豊かに点在している山形の工芸品や飲食店、温泉など、地域ぐるみでエリアを盛り上げて、この街の雇用や文化の発信にも貢献できたら嬉しいなぁと、まだアイデア段階ですがさまざまな展開を考えています」。

作業風景の画像

「編目の細かさ」から読み解く、ニットの歴史

ニットの歴史を振り返ると、初期はざっくりとした重厚感のあるものに始まり、機械の進化を伴いながら、編目の細かいハイゲージニットが作られるようになった経緯があるそう。

なかでも山形産地は、都市部から離れ、山に囲まれている地理的な条件から、良くも悪くも最新技術への設備投資が遅れました。そのため現在も、ざっくりとした風合いのニットが得意な産地。<バトナー>を代表するシグニチャークルーネックもざっくりとしたミドルゲージでありながらも、フォルムや編み地の工夫により、懐かしくも現代的な雰囲気を漂わせている逸品です。

「ミドルゲージやローゲージのニットが軌道に乗ってきた5年程前、春夏の時期に活躍してくれるハイゲージの軽やかなニットの構想を始めました。日本には、ニットが得意なブランドは沢山あっても、ニットに特化したファクトリーブランドはあまりない。そんなこともあって、ハイゲージにトライするなら、世界に誇れるレベルのオリジナルを目指したいと思ったんです」。

日本のファクトリーから発信する、ハイゲージニット

そこで奥山さんが購入したのが、日本では約3台しか稼働していないと言われるニットマシン。日本では、ウエディングドレスのオーガンジーなど、繊細な生地の製作に使用されているそうです。目の細かな生地が編めるということは、針の本数は多く密度も高いため、機械の構造は段違いに精密になります。原料となる糸も極めて細くかつ滑らかで、丈夫であることが求められます。

「残念ながら、機械さえあればハイゲージが作れる、ということはありません。全自動の機械ではありますがトラブルが起きやすく、メンテナンスにも専門的な知識と手間暇をかけられる職人の存在が必要不可欠です。作れるパターンに制約があるので、企画との相性も必要ですし、生産効率は低い。うちの1台で生地が作れるのは、1日4着分ほどです」。

「それこそ、シーズンごとに臨機応変にデザインを変えてものづくりができるかというとそうではなく、必然的に、淡々と、シンプルなものづくりをする工場でないと使いづらいという特徴がある。それが、導入自体が貴重なことになっている理由ではないでしょうか」。

リンキングの作業風景画像
パーツごとに分かれた生地を繋ぎ合わせる「リンキング」。

希少なニットマシンでゆっくりと編み出される生地は、前見頃・後ろ見頃・袖・襟といったパーツに分かれています。それらをつなぎ合わせる「リンキング」の工程は、ミシンと人の目・手の共同作業です。このプロセスがなければ、平面のニット生地は身体に寄り添う「洋服」になりません。

「細かな編み地を凝視しながら、糸と糸のループをミシンにセットして、縫製していきます。つまり、ハイゲージであればあるほど、細かく、手数の多い作業になる。洋服づくりの分業化が進む日本では、その多くが海外の工場に外注されている工程です。そのため、国内では職人の数が減ってしまっているんです」。

ステッチングの作業風景画像
はみ出た糸を編み地に戻したり、余分な糸をカットする「ステッチング」。糸のほつれを防ぎ、始末のいい綺麗なニットへ整えていく。
水と熱による縮絨作業風景画像
出来上がったニットはどうしても個体差が生じる為、型枠に身頃を通し、寸法を正確に調整し、意図したデザインや風合いに仕上げる。

井伊百合子が求めていた、夏の装い

スタイリストとして、日々さまざまなニットウェアに触れる井伊さんは、ハンガーに掛けられていた<バトナー>のハイゲージニットと出会ったとき、それまでには見たことがない、物としての珍しさを感じたと言います。

「一見すると定番のTシャツのようでいて、それとは明らかに違う、と思いました。薄くて軽やかでありながら、ふっくらとした丈夫さが感じられる。きめ細かい生地の質感や綺麗なドレープも、大人のTシャツに相応しいものだなと。着ている身としては心地よく過ごせるけれど、ラフに見えすぎないTシャツがないものか・・・と思っていたところ、これは夏の装いとして重宝するだろうと思いました。洗濯機で洗えるようで、厳しい暑さのなかで汗をかいても気にせずに着られるのも嬉しいですね」。

カジュアルに見え過ぎない、凛としたニットTシャツ

ニットTシャツ画像
生地はコットン100%。ステッチのない袖や裾の端の始末など、ニットならではの仕上げにこだわり、すっきりと洗練された雰囲気に。
  • 白・黒ニットTシャツ画像

    ホワイトとブラックの2色で展開。目が詰まったハイゲージニットならではの伸縮性と弾力を持ちつつ、サラッと心地よい肌ばなれ。

    <バトナー>ニットTシャツ 各19,800円 
    フリーサイズ/着丈:56cm(前身頃)/60cm(後ろ身頃)、身幅:53cm、肩幅:44cm、 袖丈:21cm
  • 白ニットTシャツモデル着用画像
  • 白ニットTシャツ着用クローズアップ画像

身幅はメンズサイズを参考にしてゆったりとさせながらも、着丈は削って、袖を伸ばした。
丈は前を短く後ろを伸ばした段差のあるデザイン。袖や裾にステッチがなく、直線的な始末や、繊細なスリットによってシャープな印象がただよう。切りっぱなしのカットソーとは異なり、洗濯を繰り返しても裾がくるっとカールすることはない。

  • 黒ニットTシャツモデル着用画像
  • 黒ニットTシャツモデル着用画像

シンプルなTシャツこそ、タックイン/アウトの展開があれば着こなしは楽しく、選ぶボトムスにも幅が出る。「丈が短すぎると後ろ側が出てきて、気になる。完全に出したときにも、後ろがやや長ければ、全身のバランスが取りやすい。着る人それぞれの好みに馴染んでくれるはず」と、井伊さん。
大人の女性の身体をさりげなくカバーする、バランスのいい設計を心がけた。

誠実な生産サイクルから作り出される、特別な一着

「私が生地を見たときに驚いた理由が、山形の工場に行き、奥山さんの話を聞いて少し分かったような気がしました。美しい山々に囲まれた工場で、さまざまな年齢の方々が、それぞれの仕事に集中する姿。1枚のニットが出来上がるまでに掛かる時間。また、上質な洋服を私たちに届けてくれる工場が、これからも技術を継承して続いていくために、流行り廃りに左右されるファッションと冷静に向き合いながら、生産サイクルを見直して改善してきた奥山さんの、静かな熱意と舵取り。そうして積み重ねられてきた技術があるからこそ、この稀有なニット生地が生み出せたのだと思いました」。

「遠目から見ると、ごくスタンダードな白や黒のTシャツかもしれません。しかし、そのさりげなさは、私にはちょうどいい。近くで見ると感じられるハイゲージニットならではのきめの細かい生地や、随所に現れる品のいいあしらいで、大人の夏の着こなしを支えてくれる1着になりました。繊細でありながらタフな素材は、日々繰り返し着ても、凛とした表情を保ってくれる。今日もまたTシャツか、と物足りなく感じるのではなく、また今日もこれを着たいと思い、着こなしにちょっとした変化をつけたり、アクセサリーを楽しむ夏が待ち遠しいです」。

Direction & Styling::Yuriko E
Photography:Masahiro Sambe(item), Mitsuo Okamoto(Fashion)
Edit and Text:kontakt

プライムガーデンの店頭画像
プライムガーデン
「あたらしいラグジュアリー」をテーマに、大人の女性に向けシンプルでハイ・クオリティなファッションアイテム、クラフトマンシップあふれるライフスタイルグッズを展開する、伊勢丹新宿店 本館4階のセレクトショップ。
※本館4階 ザ・ステージ#4にてイベント・プロモーションを併設中。