丈夫だから気負わずに履けて、足にも優しくあってほしい。洋服に比べると目立つことの少ない靴下に私たちが求めることは、意外と多いような気がします。
「あたらしいラグジュアリー」をコンセプトとする伊勢丹新宿店 本館4階 プライムガーデンのプライムガーデンとスタイリストの井伊 百合子が提案するのは、保温、抗菌、脱臭など機能素材としても注目されるメリノウールを使用して、足を優しく包み、一日中履いていても締め付け感が少なく、快適なソックスです。
メイド・イン・奈良のソックスブランド<ロトト>
<ロトト>のディレクターを務める石井大介さんは、「一生愛せる消耗品」をコンセプトに靴下を生産しています。ブランドの特徴は、さまざまなシーンに寄り添う豊かなバリエーション。年2回の展示会には50〜60種類のソックスが並び、そのうちの半数近くが新型として発表されます。
生地が厚いものから薄いもの、シンプルなものから目を引くようなデザインのものといった具合に、ひとつのブランドではおおよそ網羅できないほどに多種多様。
こうしたものづくりの姿勢の裏には、「国や年齢、性別関係なく、たくさんの人たちの日常を足元から支えたい」というブランドの想いがあります。地元に根付く靴下産業とそこで働く職人さんたちを長い間目にしてきた石井さんが目指すのは思いやりのある、ボーダーレスな靴下づくりでした。
新鮮なうちにひらめきを実現する、職人との近い距離
デザインから生産までを一貫して行うのは奈良県です。広陵町を中心に、石井さんの生まれ故郷である大和高田市、香芝市、御所市は世界でも有数の靴下産地。100年以上の歴史を持つ産地には、特色の異なる靴下工場が今も多く残っています。
「<ロトト>には自社の工場はありません。その代わりに、地域に根付いた約10社の靴下工場とともに生産を行なっています。靴下というものは基本的に形が決まっているので、洋服のように自由度の高いデザインはできません。そして、工場や編み機によって出来ること、出来ないことがあり、使用できる糸も編み機によって変わります。なので、求めるデザインにあわせて、得意な工場に技術を発揮してもらいます。だからこそ、型数が増えていっても高いクオリティを維持していけるのです」
2020年には生産現場との距離感を大切にするため本社を大阪から石井さんの地元・大和高田市に移して、コミュニケーションを深める環境を整えました。本社近くに住む石井さんは、工場に出向いて職人の方々と直接話し合いながら、日々開発を進めています。頭の中にあるひらめきも、向かい合って話をすることで、スピーディーかつ正確に具現化し、早ければその日のうちに生地のサンプルがあがってくることもあるそうです。
環境への配慮を、できるところから。
「昨今の循環型社会を意識する動きは、<ロトト>として、何を作るかを考えるときのひとつの指針になっていることは確かです。今後は、今まで以上に重要になってくると思います。積極的に取り組んでいるのは、オーガニックコットンやリサイクルコットン、リサイクルウール、リサイクルポリエステルなどといった素材を使うこと。それら素材は、技術の発展によってクオリティも上がってきています。それ以外にも、生産の中でどうしても出てしまう無駄な資材を削減し、工場にも負担が出ないように工夫できないかと、社内や工場と企画の段階から話し合っています」
「生産の過程で、稀にB品としてキズや穴空きが起こることがあります。靴下を生産するうえでは仕方がないこととはいえ、それらの廃棄される靴下をもったいないと思ったことがきっかけで“ロトト君人形”を作ってみました。最近では、とある小学校にてワークショップを開催させていただき、子どもたちと楽しく作りながら、この材料がどこから来たのかを伝えることで、モノづくりの面白さに興味を持ち、環境問題を自分ごととして考えるきっかけになったらいいなと思っています」
1日履いていると気になる、むくみや疲れ
「知り合いの方の事務所で<ロトト>のPRをなさっている成田さんにお会いしました。サンプルを頂いて試したら、とてもよくて。それ以降、撮影では何度も貸してもらっています。なので今回、理想の靴下を作りたいと思ったとき、真っ先に浮かんだのが<ロトト>でした。これまでも、容姿の素敵な靴下はたくさん履いてきましたが、ゴムの締め付けで足が痛くなってしまうことがよくあって……。朝は良くても夕方になるにつれて、足首に跡もつくし、自分にフィットするものはないだろうかとずっと探していました」
徹底的な履き比べ
「私の靴下選びの悩みを伝えたら、現在は販売をされていないサンプルも含めて、たくさんの種類の靴下を送ってくださいました。全部試してみてくださいと。売っている状態の靴下はなかなか試せないし、買って履いてみるしかなかったので、本当に得難い体験でした。なかでも、廃盤となったいたメリノウールの靴下が気になって」
「趣味の登山に行くときも、メリノウールを使用したインナーを身につけていて、その高い機能性に馴染みがありました。汗をよく吸ってくれて匂いは気にならない。それに体温も調整してくれるので、夏は涼しくて冬は暖かいし、肌触りも気持ちがいいんですよね。なので、スポーツタイプとして作られていたモデルをベースに、足首の着圧がきつくならないよう、また、丈などのバランスを相談していきました」
たどり着いたメリノウールの優しい靴下
Merino Optimo(メリノオプティモ)という、オーストラリアの産毛量のわずか0.2%しか生産されない極めて希少な防縮のウール糸を使用。この糸は弾力性、毛玉の出来にくさを表すピリング性、また発色性に優れ、均一な長さと太さが特徴。
糸の特徴を最大限に活かすため、足底部分をパイル編みにして、より一層クッション性を高めた。
常に肌に触れているからこそ、大切に選びたい
「デザインに関しては、足とのバランス、靴との相性で考えました。男性に比べると身長が低い女性にとってはミドル丈がちょうどいい、と普段から感じます。クッション性を出すためにふっくらと編んでいただきましたが、程よくドレッシーな雰囲気もあるので、ローファーなどの革靴にも合うと思います」
「そして、靴下はどうしても消耗品ですよね。常に肌に密着しているし、穴が空いたり、色褪せたりもしやすいもの。定期的な買い替えが必要だからこそ、透明な生産背景で、真摯なものづくりから生まれたものを選ぶのが気持ちがいいと感じます。<ロトト>の石井さんや成田さんの靴下への情熱は、工場さんや、ワークショップを体験した小学生にも伝わり、思いやりとして残っていく。そういった心意気がメイド・イン・奈良を受け継いでいくための大きなきっかけになるのではないかと感じています」
Direction & Styling|Yuriko E
Photography|Mitsuo Okamoto (Fashion)
Edit and Text|kontakt