行方 ひさこさんをキュレーターに迎えたポップアップ「時」第二弾を開催

行方 ひさこさんをキュレーターに、日本の美意識を伝えるポップアップ「時」の第二弾を開催します。
行方 ひさこの「時」 vol.2
■2021年9月8日(水)~9月23日(木・祝)
■伊勢丹新宿店 本館4階 センターパーク/ザ・ステージ#4
今回は、行方さん自身が日本各地を旅して出会った、日本の美しい伝統技法を受け継いできたブランドや作家が参加し、銘品逸品を展示販売いたします。
出店作家
岩崎 龍二、おおやぶみよ、落合 芝地、開化堂、Keicondo、健太郎窯、古伊万里&古漆、小林 耶摩人、杉田 明彦、鈴木 環、竹俣 勇壱、茶屋二郎、辻精磁社、堤淺吉漆店、中川木工芸、畑萬陶苑、文祥窯、山本商店、万、和ろうそく大與、BASILHOUSE、BIG-GAME(2016/)、Ingegerd Raman(2016/)、Kirstie van Noort(2016/)、NIKKO REMASTERED
※参加作家により、展開開始日が異なる場合がございます。
開催に先駆け、行方さんへ「時」という催事に込める思いについて伺いました。
行方 ひさこの「時」 vol.2

Photo by Kenta Fujiki
日々の暮らしの中に敏感な目と繊細で大胆な疑問を持ち、時間をかけて丁寧な物づくりをしている。そして、長い時間を経て自分へと繋がってきた歴史や文化などを深く考察し続けている。
日々の些細なことに驚き、気付き、そこから問いを立てる。そんな、物づくりそのもののプロセスに美学と哲学がある作家さんたちへの敬意を込めて開催するのがこの「時」という催事です。
「Wonder, Explore and Discover」

「Wander, Explore and Discover(=さまよって、探索して、発見する)」という文字を目にしたのは、チームラボの展示の写真でした。これを打ち間違えて「Wonder , Explore and Discover」と検索してしまったことで、「疑問を持って、探索して、発見する。」となったのですが、外に働きかけるより自分の内に潜るようなこちらの方が、今の私にはしっくりきます。
興味のある生産者や作家さんは、許されるならばできるだけ現地にお伺いして、その空気感を感じながらお話をお伺いしたいと思っています。ただ素敵だというだけでなく、どんな場所でどんな思いで作られているかを知ろうとすることは、自分の日常の些細なことや、問いに気づくことでもあると思うからです。
桶は桶屋といったコミュニティの中で職人が作ったものが並ぶ専門店で買い物をしていた時代は、人と人はものを通じてより深いコミュニケーションが取れていたはず。作り手の顔が見えていた昔の関係と今では、そのものに対する考えも浅くなってしまっているのではないでしょうか。
光の速さで情報が巡る今、答えは飽和状態なのに問いは不足しています。そしてそれに加え、答えもどんどん変わる不確実な時代。時代によって目まぐるしく価値観が変わる中で、一人ひとりが自分なりの思想や信念を持って、それを実現していけるようになるためにも、ものを作り出す人から学ぶことは多いと思います。
あり方の良いもの

見慣れたものの中に、新しいものや美しいものはたくさんあります。でも、日常生活で見過ごしてしまっているものが、実はかなりあるように感じています。見慣れてしまったものをはじめましての気持ちで見ること、美しいものを美しいと認め直す作業はなかなか難しいものかもしれません。
例えば、古いものに対する愛着。
金沢を拠点に活動をされている漆工 杉田 明彦さん。ほかにはない、彼のマットでモードな作品たちは、懐かしいようなスタイリッシュなような、一言では言い表せないなんとも言えない佇まい。
「骨董が好きなので、骨董屋に並んでいてもおかしくないようなものを作りたいんです」時間があれば骨董屋や古本屋を訪れ、古いものを探しているそうです。古いものからインスピレーションをもらいつつ、現在の気分にきちんと落とし込んだ物づくりをされています。
前回の催事では、汁碗しか使ったことがない方に漆の魅力を知っていただきたくて、私に出来る限りのご説明をさせていただきました。漆の製品は、お手入れさえきちんとすればなんにでも合う、懐のとても深いものだと感じます。
漆との関係は、縄文時代まで遡ります。漆の木片だけで言うならおよそ12,000年前のものが見つかっていることからも、古くから使われてきた伝統的なものであると言えます。 耐熱・耐湿・抗菌・防腐に加えて独特の光沢を得られる漆は、ただ美しいだけではなく実用的だからこそ長く使われてきたものです。
原料がなくなってしまったりさまざまな理由から再現できない、現実的に作れないものがたくさん存在します。でも、古いものからでないと得られない美しさもあります。その価値に敏感であることが、物づくりに大きな影響を与えているのではないかと思うのです。
消さない努力

虹の松原と唐津湾を一望できる高台にある健太郎窯の村山 健太郎さんを訪れたのは、4回目に。 「やっと村から土地を買えたんですよー」と話してくれた、その話は、私には思いもよらないことでした。
唐津焼の作家に弟子入りし、独立した若者の多くは作家になるのを諦めざるを得ない状況に追い込まれているというのです。
唐津焼の特徴の一つに、自分たちで掘ってきた土を生成して粘土作りをしている作家が多い点が挙げられます。ただ、生成して粘土にするまでには多くの労力と時間がかかるため、事業採算性が悪く、独立したての若者はなかなか身入りがないということ。
どんな状況でも、外部から土を購入するのではなくその土地の土をいただいて作品作りをするという本質的なことを守っていかないと、アイデンティティが崩れてしまう。このままだと、唐津焼そのものの将来も危ないと感じた健太郎さんは、若い陶芸家たちがお金を稼ぎながら独立のステップにできるような仕組みを考えたのです。
それは、障害者を雇用した福祉施設です。その施設で障害者の方々に土を作ってもらい、独立前の陶芸家はその土作りを教えることで賃金を受け取れます。ほかにもホテルを併設したり、おにぎり屋さんをオープンさせる計画もあるとか。
美しい自然はもちろん昔ながらの街並みや、唐津焼を食文化ともしっかり結びつけながら多角的にクオリティを高めていく取り組みです。
「唐津焼の革新は、唐津の街と一緒にあるべき。一匹狼になりがちな職人ですが、異なる技術を持つ仲間が近くにいることで、1人ではいかれないところに行くことができるんです」と、周りの協力を仰ぎながら未来の唐津のために奔走しています。
作家さんの物づくりに対する確固たる哲学が、美しく古びないものを生む。作家さんたちを訪れるたびに、そう思うのです。そんな作家さんたちによって作られた美しい作品たちを使うことで奥深さや新しい可能性を発見し、毎日を広げていけたらいいですよね。

