個性豊かなデザインと色使い、そして独特の世界観のテキスタイルで人気を集める〈マンナイン〉と〈マーブルシュッド〉。そんな両ブランドを手がける、〈マンナイン〉のデザイナー・岸本万里さんと〈マーブルシュッド〉のディレクター・川村智也子さんの対談が実現。テキスタイルに込める想いや作品が生み出されるまでの背景など、たっぷりと語っていただきました!
やりたいことを考えて、行き着いたのがテキスタイルでした。
川村さん(以下、川村):岸本さんはなぜ、テキスタイルの世界に入られたんですか?
岸本さん(以下、岸本):私は元々、ものを描くのが好きで、気付いたらすごく「色」が好きになっていて、徐々に近づいて行ったという感じです。
川村:ロンドンで勉強されたんですよね?
岸本:はい。ロンドンの大学でファッションプリントを学び、その環境にすごく刺激を受けました。日本での短大時代には洋服を勉強していましたが、洋服はジャンルが広くて、しかも他との違いを出しにくい感覚があって。人と違うことをしたいけど…と悩んだときに、「色」が好きだから、そこにもっと近づくには、と考えた結果がテキスタイルでした。
川村:私はアパレルメーカーで働いていて、ショップでの販売から始まり、バイヤーや営業など、さまざまな業務を経験しました。そして、いざ独立しようとなったときに、「コレが売り」というものがないとダメだと考えたんです。お金も無い中で何を売りにするかと思案して「手描き」に行き着き、そこからテキスタイル作りを始めました。
岸本:いろいろ経験されたんですね。
川村:その後、自宅でスタートして、だんだん手狭になってきたのでお店(現在の恵比寿店)を出しました。初めはわからなくても、やっていくうちにわかることってありますよね?こういうのはOKで、こういうのはダメ、という感じで。
岸本:ありますね。私は最初、良かれと思ってシルクを使ったりしていたんですが、展示会でお客さまに嫌がられたんです。高いし、扱いにくいということで。そのとき初めて、自分が良いと思うものとお客さまが求めているものにはズレがあるということを学びました。
川村:それ、すごくわかります。
岸本:「肌触りの良いもの」とか、値段よりもそういうところから始めてしまいがちですけど、そこにニーズがないと成立しないんですよね。
川村:もうすぐオープンから20年ですが、そういう意味でも、お客さまに育ててもらったという感覚が大きいです。当時のお客さまが今も来てくれたりするのは、すごくうれしいです。
岸本:イベントで〈マーブルシュッド〉さんといっしょの機会がよくありますが、〈マーブルシュッド〉さんは昔からのファンの方が多いんですよね。新柄を毎回楽しみにされていて。皆さん共感しながら吸い込まれていっている感じです。
川村:私たちの商品って、誰にでも受け入れられるものではないじゃないですか。でも一定の方々にはすごく響く(笑)。だからお客さまに支えられている部分は大きいですよね。なんというか「いい方」が多くないですか?ポジティブな方というか、明るくてやさしい方が。
岸本:実はこのお仕事をさせていただいてから、1回も商品の返品がないんです。だからと言うのも変ですが、皆さんあたたかいというか、器が大きいというか(笑)
完成までには、スタッフからのダメ出しも。
岸本:私は毎シーズン、テーマを決めて、それに沿ったものを描くという感じなんですが、〈マーブルシュッド〉さんはどうですか?
川村:主に私がテーマを考えて、それをもとにデザイナーと話して。ひらめいたものを出しあって、みんなで意見を交わしながら「これは可愛い」「これはこう使えそう」といったやりとりをして作りあげる感じですね。
岸本:私の場合は一人でデザインを考えているので、描いたものをスタッフに見せて、「これは無しかも」といった意見をもらっています。
川村:みんなハッキリ言うんですか?
岸本:けっこう言われます(笑)。「これは可愛くない」とか「お客さまはこういう方が好き」とか。でもリアルな意見なので、すごく参考になります。
川村:たしかにそうかも。
岸本:猫を描いてくださいと言われて作ったシリーズがありまして。私は犬派なんですが、猫ブームの波は大きく(笑)。でも単純に猫を描くのがイヤだったので、猫の起源を遡ってエジプトというコンセプトを作り、たくさんの猫の中に「ネフェルティティ」というキャラも作ってみたんです。でもそのキャラは「かなりコアな人しか好きじゃない」とみんなに言われ…
川村:(笑)
岸本:私はイチオシだったんですけどね…。「このキャラのブローチが一番売れ行きが悪い」とか言われてます(涙)
川村:動物と言うと、ウチにも「ドッグラン」という犬の柄があります。お客さまが喜ぶように、どんな犬が多く飼われているのかもリサーチしましたね。「あ、ウチの犬に似てる!」というのもきっかけになったりしますし。
岸本:なりますなります!
川村:ディレクションする私たち側のイメージがうまくデザイナーに伝わらないときは迷宮入りしますね。「これ、誰に売るの?」というものになっていって、結局は商品化できない、というケースもよくあります。
岸本:洋服にしたときの可愛らしさと、ポーチなどにしたときの可愛らしさは、同じ柄でも全然違いますよね。洋服だと売れる柄でも、ポーチだと売れなかったり。そこをどうしようというのは、いつも考えています。サイズ感とか、縮尺とか、色合いとか。
川村:ところで岸本さんは、柄を紙で出力して、体に当てて鏡で見たりしますか?
岸本:します!しかも大量に。ペーパーレスと言われる時代に心苦しいですが(笑)
川村:やっぱりしますよね!
岸本:私はよく、山積みの中から宝物を見つける感覚で、以前デザインした紙とかを引っ張り出したりするんです。その方が、なんか安心するというか、落ち着くんですよね。
川村:わかります。どんなにグチャグチャでも、どこにあるか覚えてたり(笑)
岸本:はい、すぐ見つかります(笑)。でもそういうのって、同業者などは共感してくれるんですが、他の人にはなかなか伝わらないですよね…、もっと整理してと言われたり…
川村:たしかに。捨てては行けないものがいっぱいありますもんね。
岸本:宝物を奪われるようなものですから(笑)。紙切れ1枚でも大切です!
作品へのこだわり。そして、これからのこと…
川村:柄はすべてプリントなんですか?
岸本:はい、基本的にはすべてプリントです。1枚に色を多く使うので色味を重視しているんですが、だいたい一発で理想の色を出しています。
川村:それはすごい!
岸本:パソコンの中では何度か色を変えますが、布に出したら、もうそれで行くと決めているので、やり直しはほぼ無いですね。お付き合いしているプリント工場とイメージが共有できていますし。
川村:信頼関係ですね。
岸本:物理的にNGなことはたまにありますが、出したい色は忠実に再現してもらっています。
川村:ウチの場合は、デザイナーがデザインを完成させて、それをもとに素材選びも配色も刺繍もみんなで決めるので、1枚の生地ができるまでに何人もが関わります。だから、完成したものは最初のイメージと違っていることがほとんどです。
岸本:私の場合は自分の中ですべて完結しているので、そういうことはないですね。わからなくなったら周りにアドバイスをもらいつつ、できないときは1週間くらいこもりながら…
川村:デザインには正解がないですからね。販売してみて初めて、この柄が良かったんだってわかったり。果たしてこの柄は可愛いのだろうか、なんて常に不安を感じながら取り組んでいます。
岸本:同じく。おっしゃるとおりです。
川村:岸本さんは今後、どんなことをやってみたいと思っていますか?
岸本:テキスタイルって、社会につながるところがあると思ってるんです。だから、自分の愛する動物と共有するという意味で、ドッグウェアをもっと展開したいと考えています。
川村:なるほど。私は洋服としての引き出しをもっと増やしていきたいなと考えています。あとは、今とは違うターゲットの方にも見てもらいたいという気持ちがあるので、常にチャレンジは続けていきたいです。
BRAND CLOSE UP
もっと知りたい!〈マンナイン〉のこと
―ブランド誕生の経緯は?
日本の短大を卒業後にロンドンの大学でファッションプリントを学び、2014年の秋冬からスタートしました。英国は雨や曇りの日が多いのに、周りは明るくて楽しい人ばかりで、どうしてなのかと考えたんですが、みんな自分の暮らしや好きなものへのこだわりが強いんですよね。そして、そのモチベーションを作るためには、「色」が大切な要素になっていることにも気付きました。その「色」に対して、自分なりの表現をしてみたいなと思ったことがきっかけでしたね。
―ブランド名の由来は?
〈マンナイン〉という名前は、自分の名前の万里(まんり)と数字の9を組み合わせたものです。大学でお世話になった日本人テキスタイルデザイナーの先生の名字が「岸本」なので親戚に間違われやすいし、「Manri」だと某ブランドにしか見えないし(笑)、ということで、そのまま名前を使うとややこしいので、全く新しい名前を考えて付けました。
―柄はどうやって生まれるんですか?
「動物」がひとつの大きなテーマなんですが、まずはコンセプトを決めて、そこから本を読んだり、美術館を訪ねたりしてアイデアを探します。コンセプトはその都度変えていますが、「楽しむ」ということは不変なので、最終的に楽しい柄になることを目標に取り組んでいます。コンテは基本的にすべて手描きで、それをパソコンに取り込み、少しずつ色を付けながら作っていきます。柄の作り方は、シルエットだけを切り抜くこともあれば、しっかりとフチの線を入れることもあったり、その時々で変わります。
―伊勢丹との出会いは?
5〜6年前に初めて展示会に出させていただいた際に、今もお世話になっている伊勢丹のバイヤーさんが目に留めてくださって。そのときは「本当に私でいいんでしょうか?」という感じでした(笑)。でも、「お客さまが好きなものを、世界観を伝えながら紹介するのが伊勢丹の使命」「若手を育てることもサポートしている」といったお言葉をいただいて、半年後くらいには商品が店頭に並びました。その後も継続してお声掛けいただき、毎シーズン、機会を与えていただいています。こういうブランドということを知らなかったお客さまも楽しんでくれるのは本当にうれしいですね。色とプリントには人の心を楽しませる力があると思っているので、これからもそれを発信し続けていきたいと思っています!
◎第2弾 〈マーブルシュッド〉の魅力をディレクターの川村智也子さんに聞きましたはこちら