2021.6.21 UP
宗教的な制限がないラム肉は世界中で食されていますが、日本でもその人気が高まっています。1960年代の輸入自由化に伴った第1次ブーム、2000年代中頃BSE問題から需要が高まった第2次ブームを経て、現在は第3次ブームといわれています。チルド技術の向上により、羊肉自体が美味しくなったこともその背景にはあるでしょう。
大きな変化は一般家庭の食卓でも消費されはじめたこと。これまでラム肉は専門店で食べるものでしたが、最近はお肉屋さんなどでも見かけるようになりました。一方、まだまだ料理するのが難しそう、あるいは料理の仕方がわからない、という方も多いのではないでしょうか。
ラム肉料理は簡単です。その理由は肉質にあり、ラム肉は牛肉より繊維のきめが細かく、やわらかいので、多少加熱しすぎたとしても硬くならないのです。また、肉自体に風味があるので、味付けもシンプルで大丈夫です。
ちなみに肉の風味はミオグロビンという赤い色素の量で判断することができます。
ミオグロビンの量の平均値(参考) 出典 料理の科学大図鑑
鶏肉 0.05% 羊肉 0.6%
豚肉 0.2% 牛肉 0.8%
鴨肉 0.3%
ミオグロビンの量が少ない白い肉=鶏肉や豚肉には焼き鳥や強めの味付けがあいますが、ミオグロビンが多い赤い肉=羊肉や牛肉は塩、胡椒で味付けしたステーキのようなシンプルな料理でも十分に美味しい、というわけ。
そのまま焼くだけでもおいしいのですが、今日はあえてちょっとだけ味付けにアレンジを加えたレシピをご紹介します。ラム肉には特有の風味があるので、そこにスパイスなどの香りをミックスすると、持ち味がより引き立つからです。
ラム肉の定番は骨付きのラムチョップという部位。ラムチョップは骨付きのロースの部分で「これなら馴染みがある」という方も多いでしょうから、今日はそれ以外の部位「肩ロース肉」「挽き肉」「スペアリブ」を使った料理をご紹介します。
伊勢丹新宿店の<アイズミートセレクション>のラム肉ラインナップ。年々ファンが増え、バリエーションも増えています。
【左】〈アイズミートセレクション〉ニュージーランド産 ラム肩ロース肉(100g) 432円
【右下】<朝岡スパイス> カレーペースト ロング(180g)1,286円
【右上】<Kara>ココナッツミルク(400mlg)249円
ラム肉のカレーは難しそうですが、カレーペーストがあれば手間自体はほとんどインスタント食品と変わりません。肉を炒めてからペーストをあわせ、水分で伸ばせば出来上がり。
カレーペーストの裏側には「肉300gを炒め、水3カップを加え沸騰後、カレーペースト180gを入れ20分程度煮込みます。お好みで野菜を加えて下さい」とありますが、今回は水の代わりにココナッツミルク1缶(400ml)を加えています。ラム肩ロースは短時間煮込むだけでいいので、煮る時間も5分と短くするのがポイント。
■ラム肉のカレー
材料 3〜4人前
ラム肩ロース肉 300g
塩 小さじ1/4 (1.5g)
朝岡スパイス カレーペースト ロング瓶 1瓶
ココナッツミルク 400g
ご飯 適量
香菜 適量
【作り方】
1 ラム肩ロース肉は塩で下味をつける。中火に熱したフライパンに植物油小さじ1(分量外)をしき、ラム肉を焼く。
2 片面に軽く焦げ目がついたら裏返し、火を弱火に落とし、カレーペーストを加える。
3 ココナッツミルクを加え、火を中火に強め、沸騰したら弱火に落とし、5分煮る。
4 器にご飯を盛り、カレーソースをかける。好みで香菜を添える。
今回は、簡単に作るためにカレーペーストを使う方法を紹介しました。スパイス専門店のカレーペーストなら、炒め玉ねぎとスパイスが効いたコクのある本格カレーがすぐに食べられます。ご飯もジャスミンライスのような長粒米があればいうことありませんが、炊きたてのご飯であれば十分においしいはずです。
続いては「挽き肉」です。伊勢丹新宿店<アイズミ―トセレクション>で扱っていたのは粗挽きのもの。これなら本格的なケバブやハンバーグが簡単につくれます。
とはいえまずは簡単に「ラム肉を使った麻婆豆腐」といきましょうか。市販の麻婆豆腐の素を使えば、他に豆腐と長ネギを用意するだけで料理できます。
■ラム肉の麻婆豆腐
(材料)
ラム粗挽き肉 100g
麻婆豆腐の素 1箱
豆腐 1丁(300〜350g)
長ネギ 5cm分
【作り方】
1 フライパンに植物油小さじ1(分量外)を入れ、中火でラム粗挽き肉を炒める。途中、油が出てくるので、キッチンペーパーでとりのぞく。豆腐は2cm角に切り、たっぷりの湯で2分茹で、ザルにあげる。
2 色づいてきたら麻婆豆腐の素と下茹でした豆腐を入れ、2分ほど煮る。仕上げに長ネギのみじん切りを加えざっくりと混ぜる。
本来の麻婆豆腐には牛肉を使いますが、羊肉を使うとひと味違った仕上がりに。粗挽きの挽き肉を使うと肉の存在感が立った仕上がりになります。香辛料の効いたスパイシーな味わいは羊肉初心者にもオススメです。
【左】<アイズミートレセクション>ニュージーランド産 ラム挽き肉(100g)378円
【右】<ISETAN MITSUKOSHI THE FOOD>麻婆豆腐の素 大辛(120g)322円
麻婆豆腐を作るには、豆板醤や豆鼓など複数の調味料が必要ですが、麻婆豆腐の素があれば簡単です。こちらの「麻婆豆腐用 大辛」という商品は化学調味料不使用で、花椒や唐辛子が効いた本格派の味わいです。はっきり言って、相当辛いので、覚悟してください。
次に紹介するのはひと手間をかけた、ラム肉のミートボールです。中東風のスパイスを使って味付けしたので、くせになるおいしさです。
<朝岡スパイス>デュカミックス(32g)648円
ラム肉には塩と香辛料のシンプルな味付けがよくあいます。なかでもラム肉にベストマッチなのがクミンです。クミンはカレーの中心的なスパイスで、エスニックな香りが特徴です。今回はそこにナッツ類やコリアンダー、キャラウェイ、フェンネルシードなどがブレンドされた「デュカミックス」というスパイスを組み合わせました。スパイス類がなければカレー粉を混ぜるだけでも大丈夫ですし、どれか一種類を加えるだけでも雰囲気は出ます。
揚げたラムボールは肉の風味がしっかりと生きた仕上がりで、ビールとは最高の相性。そら豆は皮ごと焼いたので、手で薄皮を剥がしながら中身を取り出して食べてください。時々、酸味の効いたヨーグルトのソースをつけて食べれば、ちょっと外国旅行の気分です。
■ラムのミートボール
(材料)
ラム粗挽き肉 200g
クミン 小さじ1/4
デュカ 小さじ1/2
パプリカ 小さじ1
チリパウダー 好みで
にんにく 少々(すりおろし)
水 大さじ2
塩 2g
片栗粉 適量
むきそら豆 1パック
ヨーグルト 適量
塩 少々
オリーブオイル 少々
ハリッサ あれば
【作り方】
1 挽き肉に塩、クミン、デュカ、パプリカ、チリパウダー、水を入れて、手で混ぜる。
2 2.5cm直径くらいの小さなボール状にまるめる。
3 表面に片栗粉をつけ、160℃の油でこんがりと色づくまで全面を揚げる。
4 そら豆は油をひかないフライパンで両面に焦げ色がつくまで中火で焼く。
5 ミートボールを器に盛り付け、そら豆を添える。ヨーグルトに塩少々で味をつけ、オリーブオイルを少量たらしたソースをかける。あればハリッサなどの唐辛子ペーストも添える。
揚げたラムボールは肉の風味がしっかりと生きた仕上がりで、ビールとは最高の相性。そら豆は皮ごと焼いたので、手で薄皮を剥がしながら中身を取り出して食べてください。時々、酸味の効いたヨーグルトのソースをつけて食べれば、ちょっと外国旅行の気分です。
最後を飾るのはスペアリブ。羊のスペアリブはあまり馴染みがないかもしれませんが、味が凝縮されたおいしい部位です。コラーゲンがやや多く、硬めなのですが、長く加熱するとほろっとした食感が出ます。
<アイズミートセレクション>ニュージーランド産 ラム肉のスペアリブ(100g)324円
せっかく手間をかけるので目新しい料理に挑戦してみましょう。スペアリブに火を通してから衣をつけて油で揚げ、それに、にんにくや生姜、唐辛子を絡めた四川風の料理です。
■羊スペアリブの四川の香り炒め
(材料)
羊スペアリブ 300g
日本酒 100ml
しょう油 大さじ2
砂糖 大さじ2
オイスターソース 小さじ1(朝岡スパイス 熟成オイスターソース)
生姜の薄切り 1枚
片栗粉 適量
サラダ油 大さじ1
生姜(みじん切り) 小さじ1
にんにく(みじん切り) 小さじ1
唐辛子 6本〜8本
万能ねぎ 5本
塩 ひとつまみ
クミン 小さじ1/4
【作り方】
1 スペアリブは熱湯に30秒通し、水にとって表面を洗う。フライパンにスペアリブ、日本酒、しょう油、砂糖、オイスターソースを入れ、中火にかける。沸騰したら弱火に落とし、蓋をして1時間煮込む。
2 常温で冷まし、脂をとりのぞき、片栗粉を表面にまぶしてから170℃の油で香ばしく揚げる。
3 フライパンにサラダ油大さじ1と生姜、にんにくのみじんぎり、唐辛子を入れ、中火にかける。香ばしい香りがしてきたら、万能ねぎ、塩ひとつまみとクミンを加え、ざっくりと合える。
4 揚がった羊肉をさらに絡める。
醤油味で煮込んだ羊肉のスペアリブはそれだけでもごちそう。さらにひと手間を加え、スパイシーな料理に仕上げます。
ラム肉は常温で冷ますだけで脂肪分がかんたんに固まります。これは羊肉の脂肪の融点が44℃〜55℃と高いため。余分な脂をとりのぞけばすっきりとした味になりますし、特有の匂いを和らぎます。このひと手間で、味がぐんとおいしくなるのです。
今回は唐辛子系の調味料ではなく、唐辛子を直接油で炒めることで、シャープですっきりした辛味と香りを引き出します。香りのアクセントはまたしてもクミン。クミンがなければ花椒などもよくあうでしょう。なかなか旅行や外食に足を運べない今、ちょっと時間をかけて新しい食材を扱ってみるのも楽しい体験になるはず。
Text & Photo :Naoya Higuchi