樋口直哉さんの『料理のツボ』 〜新米で「栗ご飯」と「鮭ご飯」〜

2021.10.14 UP

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年に一度のごはんの“旬”、新米シーズンです。白いごはんで十分美味しいけれど、海のものも山のものも豊かになる季節だから、一緒に炊き込んで贅沢に秋を堪能したい。炊き込みご飯は、水分量調整のツボを押さえれば大丈夫です。

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サンマや栗、松茸などが旬を迎える秋はおいしいものの季節。なかでも日本人にとってなによりのご馳走が新米です。

 

新米は秋に収穫し、その年の12月31日までに精米され、包装された期間限定のお米。白いご飯にするなら収穫されてから組織が落ち着いてきた年明けくらいからが味が乗ってくるのですが、新米には特別な瑞々しさと香りがあります。

 

新米は秋の味覚と一緒に炊き込みご飯にすると、その瑞々しさが生きてくるのでおすすめです。ところがこの炊き込みご飯。「芯ができる」あるいは「べちゃっとなってしまう」という具合に上手にできないという声も聞きます。

 

炊き込みご飯はちょっとしたコツさえ抑えておけばかんたんな料理です。今回は栗ご飯と鮭の炊き込みご飯の2種類をご紹介しながら、炊き込みご飯の秘訣を伝授します。

年に一度は頑張って、栗ご飯!

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栗ご飯

(材料) 4人前

栗    200g(皮を剥いた正味)

米    300g

昆布出汁  370g

塩      小さじ1

(作り方)

1 米は洗い、水に30分以上浸けておく

2 栗は熱湯に10分漬けるか、一昼夜水に浸して皮をやわらかくしてから、包丁で皮を剥く。この時、渋皮を少し残すと風味が出る。皮を剥いた栗は水に浸けておく。

3 米の水気をザルで切り、土鍋に入れ、昆布出汁を注ぎ、水出しに使った昆布と塩小さじ1を加え混ぜる。上に栗をのせ、蓋をして強火にかける。沸いてきたら底をしゃもじか木べらでこそぎ、弱火に落とし12分加熱し、火を止めて10分蒸らす。

4 炊きあがったら杓文字でかき混ぜ、茶碗に盛り付ける。

 

ご飯の炊き方を復習しておきましょう

炊き込みご飯の前に、まずはご飯の炊き方の復習から。まず米は1合、2合という具合に計量し、1合は180mlの一合枡で計量し、この枡一杯に米を入れると150gになります。

 

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〈お米場 田心〉「福井県若狭産 いちほまれ」 玄米(1kgあたり) 1,383円

伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション

枡のない現代では米は計りで計量するのが確実。1合=150g、今回は2合なので300gです。お米用の計量カップで測るよりも誤差が少なくなり、炊きあがりが安定します。

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昔は『米を研ぐ』と言いましたが、今の教科書では『洗う』という言葉に変わっています。精米技術が進化した現在では米粒同士をこすり合わせて表面を削る=研ぐよりも、洗う感覚で表面のヌカ臭さを取り除いた方がよい、という考えです。

 

今の米はやわらかく、割れやすいので、手のひらで米を潰すのではなく、指先で混ぜるようにして洗います。少量の水を加えてかき混ぜ、水を加えて洗い流す、という作業を3回も行えば充分です。特に新米はやわらかいので、乱暴に扱うと米粒が割れてしまうので、やさしく扱いましょう。

 

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次に必要な作業が「浸水」です。炊飯器で炊く場合は炊飯モードにこの浸水時間が含まれているので、そのまま炊けばいいのですが、鍋で炊く場合には乾物である米にあらかじめ水を含ませておく必要があります。この工程を飛ばすと、中心に熱が伝わっても水分がないために煮えず、芯があるご範になってしまいます。

 

炊き込みご飯の場合、この「浸水」が特に重要です。というのも、炊き込みご飯に使う調味料──例えば塩やしょう油、酒は米の吸水を妨げる性質があります。そこであらかじめ米が充分に水分を吸収させておく必要があるのです。

 

レシピでは30分以上吸水させる、と書きましたが、冷蔵庫で2時間以上浸水させておくとご飯がよりふっくらと、冷めてもおいしさが保たれます。冷蔵庫に入れてさえおけば前日から用意してもいいので、浸水時間だけは充分にとりましょう。

 

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充分に浸水させた米はザルなどで水を切り、水分を加えて炊いていきます。炊き込みご飯の場合は水ではなく出汁を加えていきますが、この時に便利なのが「昆布出汁」です。というのも炊き込みご飯にはすっきりとした味の一番だしが向いていますが、一から出汁を準備すると

 

出汁をとる→冷やす

 

という手間が必要になります。一方、昆布を水に浸けておく方法でとった昆布だしを使えば冷ます手間がいらず、すっきりとした味が出るのです。昆布の量は水に対して1%が目安。味噌汁などにも使えるので例えば1Lの水に10gの昆布を浸けておくなど、多めに作っておいてもいいでしょう。

 

炊き込みご飯は具材によって水分量を変えます。魚や栗、いも、豆などはふつうに炊くのと同じ水加減で大丈夫ですが、ダイコン、きのこ、貝類など水が出る食材は水加減を5%ほど控えます。(水が出る食材の量は米の2割までが目安です)

 

栗の皮剥きは、心と時間に余裕をもってやる

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茨城県産他 利平栗 (1パック)1,620円

※時期により価格は変更になる場合がございます。

※生鮮品は天候等の諸事情により入荷のない場合がございます。

※画像はイメージです。

伊勢丹新宿店本館地下1階 フレッシュマーケット

 

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お米を吸水させているあいだに、栗を準備しましょう。栗は外側の硬い皮=鬼皮と内側の実にくっついている薄い皮=渋皮のふたつの皮に包まれています。まず湯につけるか、水につけて鬼皮を柔らかくします。

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まず下の部分を包丁で切り落とします。思い切りよく落としてしまって大丈夫です。

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その後、包丁で引っ張るか、指で鬼皮を剥いていきます

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剥いた栗は水に落としていきましょう。鬼皮は硬いので力仕事です。

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剥いた栗は水に落としていきましょう。鬼皮は硬いので力仕事です。

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皮むき器でも剥けますが、栗は硬いので、指を切らないように注意してください。剥いた栗は水に放っていきます。栗の渋皮は少し残しておくと風味が出るので、あまり神経質になる必要はありません。

 

ただ、栗の皮むきは重労働です。心と時間に余裕がある時に時々、休みながら作業してください。ちなみに栗の皮むき器という専用の道具もあって、それを使うとかなり楽できます。一年に一度か二度しか使わない道具なのですが、あると便利ではあります。

 

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さて、準備が出来たので炊いていきましょう。炊飯器の場合は釜の内釜の目盛りを目安に昆布出汁を入れ、調味料や栗と一緒に「炊き込みご飯モード」で加熱しますが、鍋の場合は強火にかけて沸騰させ、弱火に落として15分。火を止めて10分蒸らせば出来上がりです。栗は加熱に時間がかかるので蒸らし時間を長めにとると成功の確立が上がります。鮮度の良い栗であればやわらかく炊きあがりますが、古いものは加熱に時間がかかることがあります。その場合は半分に切っておくと安全です。

 

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昔、栗ご飯を作る際は米にもち米を混ぜ、粘りを補っていましたが、現在のお米は粘りが強いので、普段食べているお米で充分おいしくできます。労力はかかりますが、ほくほくした栗ご飯にはかえがたい魅力があり、生栗の皮を剥いて、たっぷりの量を使うと格別のおいしさです。

 

宮城県の郷土飯『はらこ飯』アレンジの鮭ご飯

さて、次は鮭ご飯の作り方をご紹介します。

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鮭ご飯

 

(材料) 4人前

鮭 切り身  1枚(80g〜100g)〜2枚

みりん   小さじ1 ※鮭1枚につき

しょう油  小さじ1 ※鮭1枚につき

 

A しょう油  大さじ1/2
A 酒    大さじ1/2

A みりん  大さじ1/2
A 砂糖   小さじ1

 

米    300g

昆布出汁 360g

うすくち醤油 小さじ2

水菜     少々

いくら(醤油漬け)   80g

(作り方)

1  鮭は、みりんとしょう油をまぶし、冷蔵庫で15分置く。フライパンにサラダ油小さじ1(分量外)をしき、中火で両面を焦げ目がつくまで焼き、Aを加え照り焼きにする。バットなどにとり、骨を抜き、手で粗くほぐしておく。

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2 米は充分、浸水させた後、ザルで水を切る。土鍋に米、昆布出汁、うすくち醤油、1の鮭を入れ、強火にかける。沸騰したら杓文字で底から混ぜ、弱火に落として12分加熱し、火を止めて2cmの切った水菜を加え、5分蒸らす。

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3 かき混ぜて蒸気を飛ばし、いくらを加え、さっくりと混ぜ、茶碗に盛り付ける。

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鮭の煮汁でご飯を炊き込み、提供直前にいくらを散らす『はらこ飯』という宮城県の郷土料理をアレンジした炊き込みご飯です。ポイントは漬け焼きにした鮭を加えて炊き込むところ。香ばしく焼いた鮭の香りが全体の味を底上げしてくれます。ちなみに今回はぜいたくにいくらを使いましたが、しょう油で味付けした卵黄をかけても近い味になります。

 

炊き込みご飯のレシピにはよく酒やみりんを加えるものもありますが、淡い出汁に塩、あるいはうすくちしょう油だけで味付けした方がおいしくできます。今回は昆布出汁で炊きましたが、顆粒だしを使いたい場合は薄めの味を心がけましょう。お米は水だけで炊いてもおいしいもの。余計な味は加えすぎないほうがすっきりとした味になって、おいしいと思います。

 

Text & Photo :Naoya Higuchi

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