
日本人ならではともいえる、繊細な感性や手仕事から生み出されるジュエリー。伊勢丹新宿店のジュエリーアテンダントが出会った日本人宝飾作家やジュエリーデザイナーによる作品の思わず手に取りたくなるような魅力と、ジュエリーという小さな芸術品に秘められた情熱を解き明かします。

今回の案内人:ジュエリーアテンダント
坂本彩夏・渡邊穂乃花
2020年度よりジュエリーアテンダントに着任。ファッションジュエリーのコーディネートからブライダルリングのご提案まで、日々お客さまの特別なお買い物をお手伝いしています。
坂本:今回は、繊細で緻密なジュエリーを手作業で制作する<Shudo/シュドウ>の作品をご紹介いたします。デザインはもちろん、地金や宝石のもつ輝きを引き出し、ひとつひとつ納得がいくまでこだわりぬかれたジュエリー。一目で<シュドウ>の世界観に引き込まれます。動植物や楽器といった具象をデザインした作品の再現力と表現力にも是非ご注目ください。
身に着けても飾っても楽しい。自然の美の中に遊び心を感じるジュエリー

坂本:今にも羽ばたきだしそうな鳥たちのブローチ。5羽の鳥たちはどれも表情が異なり、みな優しく愛らしい顔をしています。木の葉の部分は「バスタイユ」という半透明のエナメル技法でできており、すべて手作業で色をのせて仕上げられたエナメルの緑が瑞々しい、まさに職人技が光る作品です。薄紅色のコンクパールでできた実をくわえている鳥が特に印象的ですが、この鳥ともう1羽にはなんと動く仕掛けが。身に着ける人の動きにあわせて小さく揺れる小鳥のキュートさに、思わず笑顔になってしまいます。この仕掛けには「トレンブラン」というバネを用いた高度な技術が使われています。

BIRDSブローチ 10,296,000円 (K18YG、ダイヤモンド、コンクパール、エナメル)
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
※バスタイユ:エナメルの半透性を活かし、彫金を施した金属の土台の上に焼き付けることで文様を浮き上がらせて見せる技法。
※トレンブラン:フランス語で「揺れる」を意味するジュエリーのパーツの一部にスプリングを入れ繊細に揺れ動くようにした仕掛け。アンティークに見られる花をモチーフにしたジュエリーなどに用いられている。

渡邊:アイビーの絡む窓を表現した作品。このブローチは、首藤さんが昔のイギリスやフランスの格子窓のデザインに面白さを感じ、その造形をイメージして制作されました。グリーンカラーのガーネットで表現されたアイビーの葉は、自然がそうであるように自由にあちこちへ向かって伸びているように見えますが、隣同士で干渉しないように綿密に計算されています。窓の格子の上に細い蔓がゆらめいて、とても繊細で可憐な印象です。身につけるだけでなく飾って眺めていたくもなるような、アート作品として楽しみたいジュエリーです。

FRAME IRONWORKSブローチ 3,603,600円 (K18YG、ダイヤモンド、ガーネット)
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
見えない部分も美しく。裏側に秘められた自分だけの特別感

坂本:虹色に輝くオパールが幻想的で華やかな「DECORATIVE」コレクション。すれ違う人の目を釘付けにすること間違いなしの存在感です。ペンダントネックレスは気がつかない間にトップが裏返ってしまうことがありますが、こちらは裏側の地金部分にも装飾が施されているので安心。表のカラードストーンの面とはまた印象が変わるクラシカルなデザインで、どこの角度から見ても美しいフォルムが際立ちます。裏面のデザインは普段は見えないからこそ、自分だけが知っている秘密のようなたまらない特別さを感じてしまいます。

ペンダント 1,430,000円 (Pt、ダイヤモンド、オパール)
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
渡邊:オパールはとても柔らかいため、通常は負担がかかりにくいように覆輪留めや4本の爪でセッティングされることが多い石です。しかしそれだとどうしても爪が目立ってしまうのですが、こちらのコレクションではまるでアンティークレースのような細かい爪でオパールを包み込んで留めることで、爪までもがデザインの一部に仕上がっています。また、リングは石の裏側部分をわざと丸く膨らませて指への圧を分散させることで傾いたりしにくいように計算されています。指とリングのバランスをきれいに見せる工夫が、造りの中に落とし込まれているんですね。

リング 825,000円 (K18YG、ダイヤモンド、オパール)
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
絶えず美を追求する職人の「技」~宝飾作家 首藤治さんインタビュー~

1955年熊本県阿蘇郡小国生まれ。1975年より故・岡村光也氏に師事。1984年に国家技能検定一級技能士取得後、1986年ジュエリークラフトシュドウを開業。その後も第12回一級技能士全国大会「技能士グランプリ」金メダル及び労働大臣賞や2007年卓越技能者表彰(現代の名工)など数々の賞を受賞している。2015年には天皇陛下より黄綬褒章受章を授けられる。
坂本:様々なジュエリーを制作されている首藤さんの作品の中でも特にユニークなのが「ミニアチュール」コレクション。楽器や食器など、生活の中にあるものがそのままミニチュアサイズで再現されています。今回は「ミニアチュール」コレクションの楽器を拝見しながら、首藤さんのジュエリー制作への思いを伺いました。
首藤:今回ご用意した「ミニアチュール」のジュエリーは、楽器シリーズのヴァイオリンのブローチ、和太鼓のペンダント、それから鼓のペンダントです。

<シュドウ>「ミニアチュール」コレクション
a “TSUDUMI”ペンダント 1,144,000円 (Pt、K18YG、K18PG、ダイヤモンド)
b “VIOLIN”ブローチ 858,000円 (K18YG、ダイヤモンド)
c “TAIKO”ペンダント 1,430,000円 (Pt、K18YG、K18PG、ダイヤモンド)
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
坂本:本当に小さい!本物をそのままギュッと小さくしたみたいです・・・。指先に乗るくらいの大きさなのに、それぞれのパーツがどれも驚くほど細かく作られていますね。特に鼓に張られた紐の部分ですとか・・・。これらの作品は実物の楽器を見ながら制作をされるのですか?
首藤:ええと、実物も見ますけど、作っている途中で見たり見なかったりです。実際は参考になりそうな画像を探して、それを見ながら・・・というのが多い。鼓にも形が良いものもあれば悪いのもあるので、なんだかフォルムがいいな!っていう画像を選んでいます。
平面の画像から、あえて超立体を作ってやろうと思っていて。この紐の部分は、細い線をロープ状に2本巻いていき、その線を穴に通しながら金属を曲げて、さらに巻いて・・・折れないよう気を付けながら。最後のリボンのところだけは別パーツにしています。一応量産化するために型は取っているんですけど、各パーツで型を作って、それを仕上げて、本体の中の部分には雲の模様を入れたり、花の模様を入れたり、結局1つずつ全部変えてしまうんですよね。そして、またそれを組んで・・・結局、結構時間がかかっちゃう(笑)

渡邊:<シュドウ>ブランド誕生のきっかけはあったのですか?
首藤:ずっとハイブランドのジュエリーに職人として携わっていたので、最初から「自分の物」を作ろうっていうのはなかったんですね。とんでもない腕の職人になりたい、とは考えていましたけど。しかし、ハイブランドのデザインには制約がある。それがだんだん引っかかるようになってしまって。僕だったらこう作りたいなっていうのが出てきて、ちょうど50歳の頃に自分で何か作ろうと。デザインも色々見てきましたから、それを僕流のやり方で作り始めたんです。

渡邊:様々なジュエリーを制作する中で、1番難しいと思う工程は何ですか?
首藤:今は石合わせかな。視力が衰えてきた中で、メガネとか拡大鏡とかを使ってみても、やっぱり生で見る感覚って違うんですよね。手は、工具を持っていても自分の指でやっている感覚がある。力の入れ方とかも結構自在に変えられるんですよ。しかし、目は違う。全体を見てバランスを決めたいから、一部をルーペで見るのでなく、どうしても目で見て合わせたいんです。米粒以下のパーツを作ったりする中で、拡大してもちゃんとバランスが取れてないといけない。自分の思い通りに出来ることって本当にないですよ。こう表現したかったのになんだか違うな~と思ったり・・・それの連続。100点満点を取ろうとは思ってない。物づくりって100点は取れないですから。でも合格点は決めたいんですよね。僕の中での80点までは、必ず取っていきたいと思っていますね。

坂本:首藤さんはお弟子さんをとって積極的にご自身の技術を継承されていますよね。せっかく得た自分の技術を他人には教えたくない、という方も多いと聞いたんですけど、首藤さんはそれは思わなかったのですか??
首藤:全然思わないです。時代もありますが、僕が若い頃の先輩職人たちは何も教えてくれなかったんですよね。じっと見ていたら物が飛んできたことも。なんでだろうとずっと思っていました。結局、僕は技術的なことが身につくまで10年くらいかかりました。当時、その10年がすごく無駄な時間に感じたんです。それもあって、自分が出来たことはみんなに伝えようと決めました。伝えると、またそれに磨きがかかる。こうやって考えると出来るよ、ってちゃんと教えれば器用不器用関係なく、本人がやる気になれば実際3年くらいで出来るようになる。もっともっと、いいことができると僕は考えています。
渡邊:首藤さんにとってジュエリーとはどんな存在ですか?
首藤:ジュエリーって、多くの人は身につけるものだと考えているのかもしれないんですけど。僕はそうじゃなくて「その人の想いを容(かたち)にするもの」「その人を表現するもの」だと思って作っています。あと、僕の場合は足跡として残せるじゃないですか。どんな物を作っても「なんだか生き生きしてる」とか「今にも動き出しそう」とか、そういうのをやりたいんです。それをずっと思って作っていますね。
― 人間の「技」で静から動を表現する職人は、絶えず「美」を追求し継承していく。 ―
<シュドウ>フェア
□7月14日(水)~7月27日(火)―終了いたしました―
□伊勢丹新宿店 本館4階 ジュエリー
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