
東京支社を松田崇弥さん、岩手本社を松田文登さんが担当し、双子の兄弟で2018年にスタートした<HERALBONY/ヘラルボニー>の福祉施設とのアート活動。「異彩を、放て。」をブランドミッションとし、知的障害のある方の才能と可能性を世の中に発信しています。三越伊勢丹の「think good」キャンペーン開催中、日本橋三越本店でポップアップをオープンするにあたり、代表取締役社長 松田崇弥さんにヘラルボニーへの想いを語っていただきました。
インタビューで発した「知的障害というものが絵筆に変わる」というブランドポリシーにも通じるような力強い言葉がとても印象的でした。
―― ヘラルボニーの主な活動内容を教えていただけますか?
ヘラルボニー 松田崇弥さん(以下、松田):ヘラルボニーは日本全国の福祉施設でアート活動をされている知的障害のある方とライセンス契約を結び、お預かりしたアートデータを使用して商品化している会社です。今年の4月にオープンした盛岡にある自社ギャラリーで、原画販売もしており、それらのライセンスフィーをアーティストの方にお支払いしています。現在は30以上の福祉施設と契約をさせていただいています。
―― ヘラルボニーの設立のきっかけは松田さんのお兄さんだったそうですね
松田:ヘラルボニーは双子の兄である文登と立ち上げました。理由は、自分たちの4つ上の兄に重度の知的障害があるからです。やはり世の中には知的障害のある人を別の枠組みのように分類する人たちもいました。そこで、「知的障害のイメージを変えたい」という思いをずっともっていたので、その実現のために2018年に会社を設立しました。社名・ブランド名でもある「ヘラルボニー・HERALBONY」というのは、4つ上の兄の日記や自由帳にたびたび登場している言葉で、本人に意味を聞いても「わからない」としか言ってくれないのですが、兄にとっては価値のある大切な言葉なんだと思います。
松田さんご兄弟
―― 松田さんは彼らの作品のどこに魅せられたのでしょうか?
松田:知的障害のある方が描いたアートは作風がまったくぶれないのが素晴らしいと思います。ヘラルボニーが契約しているアーティストは、一度自分の作風が生まれたら「とにかくやり続ける」というルーティーンのようにも感じられます。それは自身の作品について社会的な承認欲求がないからかもしれません。
―― 松田さんたちの活動を知ることで知的障害のある方が描いたアート作品の見方も変わるような気がします
松田:「知的障害」というものが絵筆に変わり、独特の世界観を描けている。それは、知的障害のある方 にしか描けない作品だと思っています。どんなに素晴らしい作品を生み出して、誰かに発信しようとしても彼、彼女らは社会とコネクトするのが難しいこともあると思います。なので、ヘラルボニーは知的障害のある方もそうでない方も関係なく、純粋に一つのアート作品として見てもらえるよう世の中へフェアに発信していく役割でありたい。アーティストとの出会いについて聞いていただくことが多いのですが、会社を設立した当初は、自分たちから全国の施設を行脚していました。それが今ではありがたいことに、わたしたちの活動を知って「一緒にやりたい」と声を掛けてくださる施設が増えてきています。
―ヘラルボニーのプロダクトはファッションアイテムとしてもファッション性を感じます
松田:うちの母親が福祉施設で販売されていたパンや雑貨をよく買ってくるのですが、「あの子ががんばって焼いたパンだから買ってきた」とよく言うんです。でも自分は「がんばったから買う」というのは消費行動として続かないと感じていて、プロダクトである限りは、純粋に「素敵」や「可愛い」と思って選ばれる必要があります。ヘラルボニーのプロダクトに関してはファッションアイテムとして選んでもらえるようこだわり続けたいので、アパレル業界で経験のあるCCOの佐々木春樹を中心にチームでモノづくりをしています。将来、アーティスト自身にファンがついていくように、商品名にはアーティストの氏名、作品名を必ず冠として付けるというこだわりがあります。
―― 日本橋三越本店ではスニーカーのオーダー会を開催されるんですよね
松田:スニーカーは<ブライトウェイ>という婦人靴工場が手がけるレザースニーカーブランドとのコラボレーションです。靴というのは不良品が出やすく、返品が発生しやすいアイテムなのですが、<ブライトウェイ>は廃棄物の削減にも徹底して靴作りをしているブランドです。売れ残りをなくし、職人に適正な対価を支払うことで持続可能なものづくりを実現しています。オリジナルのオールレザー製スニーカー真っ白の無地ですが、今回はその上にヘラルボニーが契約しているアーティストの4作品をお好みで選んでプリントできるオーダー会を開催します。
■オーダー例
<ヘラルボニー>アートスニーカー 49,500円
ヘラルボニーは、ただライセンス料をアーティストへお支払いするだけでなく、必ず商品化されたプロダクトをご本人に届けることを契約書にも記載しています。今回のスニーカーにプリントできる作品を描いたアーティストの方たちにも報告をしたところ、とても喜んでくれていました。
――日本橋三越本店でのポップアップをとても楽しみにしています。
松田:ヘラルボニーを応援してくださっているファンの多くは、自身も知的障害のある子どもをもつ親御さんなんです。ヘラルボニーは岩手で唯一の百貨店内にショップを構えていて、「これまでは知的障害のある息子や娘と一緒に百貨店には入りづらかったけれど、ヘラルボニーのおかげで百貨店で買い物を楽しんでいいんだって思いました」と言われたことがあって、すごくうれしかったですね。なので、日本橋三越本店という百貨店でも最たるお店でポップアップイベントができることは、自分たちもそうですが、その親御さんたちにとっても素晴らしいことだと思います。ヘラルボニーが三越に当たり前のように出店できるブランドになることがいまの夢かもしれません。
松田さんのお兄さんが小学生のときに書いた日記。
大きさも並びも整然とした、まるでタイポグラフィーのような文字が印象的
日本橋三越本店本館1階のウィンドウでは、ヘラルボニーのアーティストが手掛ける作品やプロダクトを展示しています。こちらもお楽しみに!
ウィンドウ第一弾の様子
ヘラルボニーの契約アーティストの方にも質問をしてみました。
木村全彦さん (京都市ふしみ学園アトリエやっほぅ!!)
木の枝のようなあるいはくさび形文字のようなギザギザした線で描かれている木村さんの作品。彼の作風は、くさび形文字を意味するラテン語の「キュニフォーム」から「キュニキュニ」の愛称で呼ばれている。
Q.絵を描くことは好きですか?
絵を描くことは、とても好きで楽しいです
Q.作品の題材はどうやって決めていますか?
自分の好きなものです。お笑いの人も描いています。
Q.作品は主になにで描いていますか?
色えんぴつを使っています
Q.一緒に映っている作品は誰を描いたんですか?
きゃりーぱみゅぱみゅさんです
Q.きゃりーさんの作品の製作期間はどれぐらいですか?
完成までに10日ぐらいかかりました
国保幸広さん(京都市ふしみ学園アトリエやっほぅ!!)
濃いクレヨンと淡い絵の具を何層にも積み重ねて作品を描く国保さん。何度も同じ道を巡るような工程は、「終わりが見えない旅のよう」とも評される。
Q.創作活動は何年ぐらいされていますか?
2008年頃なので12〜13年ぐらいです
Q.そちらの「ヨーダ」の作品は賞を受賞したんですよね?
「奈良美智」賞をいただきました
Q.いつ頃に描いた作品ですか?
4〜5年前です
Q.作品は主になにで描いていますか?
クレヨンです。アクリル絵の具でも描いてます
Q.クレヨンを選んだ理由はありますか?
塗りつぶして、押しつぶして描くのが好きだからです
森啓輔さん(松阪市まつさかチャレンジドプレイス希望の園)
17歳から油絵を始め、全国の公募展や三重県展で毎年入選を果たしている森さん。明暗際立つ色彩構成は希望の園の理事長の助言から着想を得て確立したもの。
Q.そちらの「喝采」は誰を描いたのですか?
谷村新司さんです。2012年に描きました
Q.なにを見ながら描いたのでしょうか?
希望の園の施設長が持っているレコードジャケットを題材にして描きました
この取材のために送ってくれた「susana」は、グラシェラ スサーナのレコードジャケットをモチーフにした作品
Q.絵は何歳頃から描いていますか?
中学生の頃からです
Q.絵を描くようになったきっかけはなんですか?
希望の園の仲間たちが油絵を描いていたからです
<HERALBONY>POP UP
□9月22日(水)~28日(火)
□日本橋三越本館1階 婦人雑貨プロモーションスペース
日本橋三越本店本館1階のウィンドウにて、ヘラルボニーのアーティストが手掛ける作品とプロダクトがお目見えします。
□ウィンドウ第一弾:9月22日(水)~10月5日(火) ウィンドウ第二弾:10月6日(水)~10月19日(火)
