帽子づくりの技術をつなぐインテリアアート。手で触れて完成する<モブジェ>|

1948年創業の歴史を誇る帽子メーカー<藤井製帽>から生まれたインテリアアートブランド
<MOBJE/モブジェ>。花々が咲き誇る春にぴったりの、フラワーベースを集めたポップアップイベントを開催します。帽子メーカーがなぜインテリアアートを手掛けているのか。そこには、製帽技術を未来につなげたいという思いが込められていました。ブランドを立ち上げた
垣根一允さんにお話しをうかがいます。
<MOBJE>POP UP
□2024年4月3日(水)〜4月16日(火)
※ オンラインストア販売開始:4月6日(土)午前10時〜
□伊勢丹新宿店 本館1階 イセタンシード
伊勢丹のバイヤーがインテリアの展示会で出会った<MOBJE/モブジェ>にひとめぼれ。帽子製造をあらたな目線で捉え、素材や技術を活かしながらアップデートしていく姿勢に共感し、2023年の4月に初のポップアップイベントを開催しました。国際的なデザイン&ライフスタイルの展示会「メゾン・エ・オブジェ」にも出展し、国内だけでなく海外からも注目を集める<モブジェ>。その背景にあるストーリーと、こだわりのプロダクトに迫ります。
帽子の技術や素材を使って、
新しい価値を見出したい
— 垣根さんのご実家は古くから製帽業を営まれていたそうですね。
垣根一允さん (以下、垣根):はい。1948年に祖父が広島県尾道市で<藤井製帽>を創業し、農作業用の麦わら帽子の製造からスタートしました。父の代になってファッションブランドのOEMが中心になり、いまも変わらず帽子づくりを続けています。
— 歴史ある<藤井製帽>で新たなブランドをつくろうと思ったきっかけは?
垣根:僕が入社した2004年当時、会社の仕事はOEMの帽子製造100%。ファッション業界や流通業界が変化する時代に、ずっとこのままでいいのか、自社ブランドにも力を入れたいという思いが強くなりました。父から会社のバトンを受け継いだ後、2013年に妹が帽子の自社ブランド<točit/トチエット>を立ち上げ、僕が2019年に<モブジェ>を立ち上げたという経緯があります。

自社ブランドを立ち上げるにあたって僕がチャレンジしたかったのは、帽子の技術や素材を使って、何か別の価値を見出せないかということ。高校から付き合いのある友人にプロダクトデザインを手掛けている人間がいて、彼のフィルターを通したらどんなアイデアが広がるんだろうと思って相談したんです。それがいま一緒にブランドをやっているデザイナー兼クリエイティブディレクターの山本真也。彼の存在は大きかったですね。
つくり手の手と、お客さまの手で
完成するプロダクト
— インテリアアートというアイテムに着目した理由は?
垣根:アートやオブジェって、生活に必ずしも必要なものではないですよね。用途がないからこそ、取り入れることで暮らしに「余白」が生まれる。それくらいの余裕が現代人には必要なんじゃないかなと思って。<モブジェ>は 「お客さまの手で完成させるインテリアアート」というコンセプトを大事にしているんです。モブジェに触れて楽しんだり、毎日形を変えることで、生活にアートを取り入れてほしいという気持ちでつくりました。
— 手で触れて形を変えられることが重要なポイント?
垣根:帽子の技術や素材を使うと、やわらかくて可変性のあるプロダクトができる、というのがひとつの強み。さらに、帽子づくりには手の感覚が非常に大切です。服のようにパターンで決まるものではなく、職人の手加減でろくろを回すようにつくるもの。手にゆだねられている部分が大きいので、僕たちつくり手の手と、お客さまの手で完成するというコンセプトが生まれました。

ストライプから“曲線”が生まれる楽しさ
「stripe stripe」
— 具体的にはどのような技術が生かされているのでしょうか?
垣根:帽子にもいくつか技術がありますが、うちが祖父の時代からずっと続けているのがテープ状の素材を螺旋状に縫っていくブレード帽子。<モブジェ>でもその技術を使っています。「stripe stripe」は2つの帽子をつなぎ合わせたようなデザイン。並行なボーダーをくねらせることで曲線が生まれるという、視覚的なおもしろさをねらった作品です。

底の部分を見ると、帽子のトップと同じつくりであることがわかる。

<MOBJE/モブジェ>
stripe stripe 18,150円 (ポリプロピレン・ポリエステル)
活ける花に合わせて形をつくる
「Lapel」
垣根:ブランドをはじめた当初は純粋なオブジェをつくっていたのですが、フラワーベースとして使いたいというご要望が大きいことがわかりました。そこで作ったのが「Lapel」。さいしょに発表したのがウォッシャブルタイプ(画像のブルーとピンク)で、手洗いできる素材を採用しています。

左から時計回りに:<MOBJE/モブジェ>
Lapel washable
S:7,920円 (ポリプロピレン・ポリエステル) 商品を見る
L:9,900円 (ポリプロピレン・ポリエステル) 商品を見る
Lapel paper
S:10,780円 (和紙・ポリエステル)
このウォッシャブル素材は昔からある帽子素材なんですが、主に欧米でヘッドドレスとして使われるもの。カラーが豊富でハリ感が美しい一方、通気性が悪く日本では帽子の素材としてほとんど使われていないんです。でも、しなやかなハリがあるので形状がきれいですし、水に濡れても大丈夫。さらにきれいなカラーバリエーションが揃うという、この花器にぴったりの条件。<モブジェ>だからこそ活かせた素材だと思います。和紙を使ったペーパータイプ(画像のグレー)は、マットで落ち着いた印象を楽しめます。

細長い帽子をひっくり返したようなシンメトリーなデザイン。帽子でいうツバの部分を襟(ラペル)に、活ける花を顔に見立てている。2つのクリップを使って自由に留めることで、ボリュームのある花束から一輪まで、花に合わせて整えることが可能。
「Lapel」の最新作は「メゾン・エ・オブジェ」で発表したばかり。マダガスカル原産のヤシ系の植物であるラフィアを使っています。ラフィアは天然の油脂分が含まれてとてもしなやか。多年生で環境負荷の少ない植物と言われています。
一輪の花を楽しくおめかし
「dress up glass」
垣根:シリーズとして新しく発表したのが、一輪挿しの「dress up glass」。インテリアとのマッチングを意識してつくりました。グラスにドレスを纏わせるイメージで、軽さを出すために下からグラスが覗くデザインに。さまざまな過去の服飾資料から、ドレスやスカートのフォルムを参照してデザインしています。
お客さまに近いものづくりが
職人のモチベーションに
— 帽子とは違うプロダクトをつくることに職人さんから抵抗はありませんでしたか?
垣根:最初は何をしようとしているかイメージできなかったかもしれないですね(笑)。帽子にはサイズに限りがありますし、オブジェのように大きいものをつくったこともない。今までと違うものをつくる楽しさもあった反面、苦労もあったと思います。でも、伊勢丹でポップアップをやらせていただいたり、自社で生産して、お客さまと近いところで仕事ができるのはすごくありがたいこと。自分たちがつくるものが評価されるのはうれしいことですし、職人のモチベーションになっています。
今後は帽子の製法だけにこだわらずプロダクトを生み出していきたいと思っていますが、いまの<モブジェ>があるのは祖父の代からつづく製帽技術があり、それを守る職人がいてくれるからこそ。技術の継承はさまざまな分野で問題になっていますが、次の世代に技術をつなげていきたいという思いは強くあります。そういう意味でも、<モブジェ>のように新しい分野でうちの技術を知っていただけることはすごく重要なことなんです。

— さいごに、今回のポップアップへの意気込みや見どころを教えてください。
垣根:昨年4月に初開催したときもお花とあわせて展開しましたが、今回もボタニカルショップ<ボワドゥギ>さんとコラボレートで花器に特化したポップアップを行います。やっぱり伊勢丹のお客さまは、いいものをご存知の方ばかり。そういった方に目に留めていただけたらうれしいですね。帽子ショップの近くで展開しますし、ブランドの背景なども知って興味をもってもらえたらいいなと思います。ぜひ、花とアートのある新生活を楽しんでください。


<MOBJE>POP UP
□2024年4月3日(水)〜4月16日(火)
※ オンラインストア販売開始:4月6日(土)午前10時〜
□伊勢丹新宿店 本館1階 イセタンシード