工房探訪
―「モノ」を誂える場から「個性」を誂える場へ―
をコンセプトに、時代と場所を超える、真の身嗜みを提供する売場へと2019年8月14日(水)にリフレッシュオープンするパーソナルオーダーサロン。国内外の一流ブランドのオーダーメイドからレディトゥウェアにいたるまで、幅広いアイテムを展開。ソーシャルからオン、オフすべての場に対応し、新の紳士の身嗜みをトータルで提供します。
このコーナーでは、パーソナルオーダーサロンでご紹介する様々なブランドの工房を訪れることによって、様々なブランドのモノ作りに対してのこだわりや想いを伝えていきます。
第2回は整形靴の機能性と造形美の融合したモノづくりに定評のある〈Andante(アンダンテ)〉。京都情緒あふれる錦市場から一歩入った閑静な場所に店舗兼工房がありました。
店舗の外観。
今回お話を伺ったのは〈Andante〉のオーナー兼靴職人の八巻裕介氏と、奥さまであり、同じく靴職人の八巻貴子氏です。
――〈Andante〉を立ち上げたきっかけ、靴作りに携わるようになったきっかけを教えてください。
ブランドを立ち上げるきっかけは整形靴技術者養成の専門学生だった頃のことです。インターンシップで宮城興業(日本の本格靴を語る上では欠かせない山形の靴工場)へ行かせてもらって、初めて手製靴(本格靴)の製作を学びました。そこで、手製靴を作ることの面白さに気付き、手製靴と医学的な整形靴を掛け合わせられたら面白いんじゃないかなと思ったことがきっかけです。
ブランドサインの下にも「Orthopedic last & Besopke shoemaker」の文字が。整形靴と手製靴の要素が掛け合わされていることがここでも分かります(整形靴のことを、「Orthopedic shoes」と言うそうです)。
――〈Andante〉というブランド名の由来を教えていただけますか?
「Andante」は音楽用語(イタリア語)で「歩くような速さで」という意味です。ビスポークシューズは一人ひとりのお客さまの靴を作るので、それを大事にしていこうという意味で〈Andante〉というブランド名にしました。
――モノ作りで一番大切にされていることは何ですか?
この空間や会話から生まれてくるものを大切にしています。トータルで見ると多彩なデザインが特徴ですが、それはお客さまが履いた時の印象を想像し、お客さまから見えている一歩先の提案を心掛けているからだと思います。たとえデザインを決めてこられたお客さまでも、その方の生活やどう見せたいのかを知っていけば、提案の幅は広がります。それを形にするのは毎回挑戦ですが、お客さまにはその空間や悩む時間さえも楽しんでいただきたいです。
オーナー兼靴職人の八巻裕介氏
――どのようなお客さまがオーダーされることが多いですか?
様々な分野で活躍されている方が多いです。地元の方、調べて遠方から来てくださる方と半々ですね。海外の方がふらっと来て、オーダーされることもあります。
――公式インスタグラムアカウントの写真キレイですよね。どなたが撮影されていますか。
僕がお店の周りで撮っています。せっかく京都にお店を構えているので、日本っぽい感じで撮ろうかなと。僕らはビスポークシューズで商売をしているので、完成した靴は手元に残りません。なので、ギャラリー的な要素で始めました。このインスタを見て最新の〈Andante〉を感じてもらえればと考えています。
新作のクロコダイルのスリッポン。クロコダイルを贅沢に使用しながら、上品な仕上がりは〈Andante〉ならでは。
――これからのモノづくりでチャレンジされたいことはありますか?
まだ発展途上なので、いい形で成長させたいなと思っています。アンダンテってこういう作り方するよねって世界に認知してもらえるように成長させていきたいです。
東京で売らないといけないというよりは「世界を舞台にどう発信していくか」が〈Andante〉の基本的な考え方です。
――ハウスモデルはありますか。
ハウスモデルはないです。それはお客さまが決めてくれるものだと思っています。「足の型を取ってビスポークすること」がハウスモデルです。
――〈Andante〉の強みは何ですか。
医学的要素を踏まえてモノ作りがスタートしているので、完成した靴のすべての箇所について説明することができますし、その責任があると思っています。
――仮合わせの際に使用するチェックシューズは、通常だと同じ革か、似寄りの革で製作すると思うのですが、〈Andante〉では全く別の革で製作すると伺いました。どんな理由からですか。
お客さまには、靴が完成するまで出来上がりのイメージをさせたくないのです。出来上がった時に「うわっ!」と驚いて頂きたいからです。どちらにしろ、チェックシューズで使用した革は、お客さまにお渡しする靴には使用しませんので。
八巻裕介氏へのインタビューの後、製作工程について奥さまの八巻貴子氏に伺いました。
裕介氏の奥さまであり、靴職人の八巻貴子氏
【工程①】お悩み相談
お客さまの足のお悩みなどをお伺いし、足の採寸を行い、石膏で型を取ります。また靴のデザインのご希望をヒヤリングします。
【工程②】ラスト製作
お客さまの足型からとった石膏の型からラスト(木型)を製作します。
【A】お客さまの足型を取った石膏の型、【B】Aに樹脂を流し込んだ型、【C】Bを削った型、【D】Cに盛り付けした型、【E】さらに盛り付け修正した型
盛り付けをする理由は「靴を美しくする」ためです。お客さまの関節の状態などで足なりに進めることもありますが。また、変形が強い人だと左右の見え方が異なる場合がありますが、そういった際も整形靴の技術を持っているからこそ対応が出来ます。
靴の種類にもよるが、1つの靴(片足)でパーツは10個ほど
弊社パーソナルオーダーサロン鏡バイヤーの型紙
【工程③】チェックシューズ製作
仮合わせ用のチェックシューズを製作します。
仮合わせ用のチェックシューズ。文中にもある通り、お客さまからのオーダーの革とは全く異なる革を使用。
【工程④】仮合わせ
お客さまに実際に仮合わせ用のチェックシューズを履いて頂き、フィッティングの確認を行います。
仮合わせの際にフィッティングの状態が記入されたチェックシューズ
【工程⑤】完成・お渡し
仮合わせにおいての修正を反映させた靴の製作を行い、店頭にて最終のフィッティングの確認を行ったうえで、お客さまへのお渡しが完了します。
完成した靴の数々
オーナー兼靴職人の八巻裕介氏(右)と、奥さまであり、同じく靴職人の八巻貴子氏(左)
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