
2019年からスタートした公募展「三越伊勢丹・千住博日本画大賞」。記念すべき第1回で準大賞に選ばれた吉岡由美子さんの日本橋三越本店初の個展を開催します。すべて鉛筆で描き出す独自の手法。その魅力や創作の原点に迫ります。
新たな才能を発掘、発信する三越伊勢丹・千住博日本画大賞
東山魁夷、平山郁夫、千住博など、数多くの巨匠たちが活躍してきた日本橋三越本店を舞台に、未来へ向けた日本画の在り方を見つめ、新たな才能を発掘するために設けられた「三越伊勢丹・千住博日本画大賞」。第1回目の開催で準大賞に選出されたのが吉岡由美子さんです。伝統的な技法を継承するだけでなく、新たな日本画の可能性を感じさせ、さらに、人々の生きる力を励ます普遍性のある作品であることを軸に選ばれた受賞作。千住博さんは「質感、空間ともに迫真性に満ちていて見事というほかない。作者は、鉛筆で背景を、字を書くように描いている。一瞬一瞬、24時間を生きていることを刻むように。完成度は高く、リリカルで、しかも力強い。ここに絵画の一つの到達点がある」と評しています。
【第1回 三越伊勢丹・千住博日本画大賞 準大賞】吉岡由美子「地磁気」(50号)
※今回の吉岡由美子展に展示はございません。
繊細さから大胆さまで描き出せる鉛筆の魅力
吉岡さんの作品の特徴は、すべて鉛筆で描かれていること。芯の濃さを変えたり、加える力に強弱をつけることで、立体感や色の深みを表現しています。美大受験のために、初めてデッサンで鉛筆を使ったときから、繊細さから大胆さまで、さまざまな表現が可能なことに驚きを感じているという吉岡さん。「鉛筆の先を細く尖らせれば、髪の毛より細い線が描けます。先端を斜めに当てれば、面で陰影を塗ることもできます。時間をかければそれだけ高い完成度が得られるのも特徴です。試行錯誤の痕跡も作品の一部となります」と話します。
鳥の子紙という黄色がかった色味の和紙を使用。枯葉や枯れ枝の雰囲気と合い、和室にも掛けやすい。
吉岡由美子「Solemne Ⅶ」(63×116.7cm/鳥の子紙、鉛筆)
※価格はお問い合わせください。
小さな長方形のマス目を連続して描くことで背景を塗りつぶす。畳の目のようと評されることも。
吉岡由美子「地磁気#26」 198,000円 (4号、24.3×33.4㎝/ファブリアーノ紙、鉛筆)
思い思いの色を重ね、想像の翼を広げてほしい
「自然の中で出会う生物や植物にはひとつとして同じものはありません。その多様性や豊かさに、地球の重力や風を加えることで、新しい表現を模索しています。色味がほぼないモノトーンですので、観ていただく方がそれぞれの思う色を作品に重ね、自由に想像の翼を広げていただきたいです。」と語る吉岡さん。現在の画風となった当初は葉や枝が緩やかに舞い落ちるイメージからはじまり、徐々に、横殴りの風や垂直の落下など時代の空気感を捉えた表現へと変化してきました。今回の新作では、新たに「上昇」をイメージした作品も加え、命のあるもの、ないものが等しく一陣の風に舞う、非日常の空間を切り取っています。
草花や鳥など、生命の源とも言える自然界のモチーフを描くことで、作者自身も日々癒されていると語る。
吉岡由美子「地磁気#35」 440,000円 (10号変形、27.3×66cm/アルシュ紙、鉛筆、水彩絵具)
吉岡由美子「地磁気#29」 352,000円
(8号、45.5×33.3㎝/ファブリアーノ紙、鉛筆)
鉛筆画作家であることをことさら意識するというより、油絵具、岩絵具、水彩などさまざまな表現方法の一つとして鉛筆を選んでいるという吉岡さん。「他の画材と並べても引けをとらないばかりか、まだ誰も見たことがない未知の可能性を感じています」と語る吉岡さんの鉛筆画の魅力を、ぜひ会場でお楽しみください。

吉岡由美子展 ―昇華する夢―
□2023年7月5日(水)〜7月10日(月)最終日午後5時終了
□日本橋三越本店 本館6階 美術サロン