「須藤和之 日本画展 ー四季の空、風のこころー」新進作家が描く 風の表情と季節の移ろい

「須藤和之 日本画展 ー四季の空、風のこころー」新進作家が描く 風の表情と季節の移ろい

日本画ならではの繊細な色調で、風の揺らぎを描く日本画家・須藤和之氏。自然と対峙する中で生まれた作品は、生命のきらめきを宿すかのように佇み、私たちを魅了します。三越伊勢丹では、そんな須藤氏の作品を2020年10月28日(水)からオンラインで販売開始し、2020年11月11日(水)~11月16日(月)には、日本橋三越本店 本館6階 美術サロンにて、「須藤和之 日本画展 ー四季の空、風のこころー」を開催します。日本画のフロントランナーとしてますます充実をみせる須藤氏に、作品へのアプローチやアイデアの源泉、描くことへの思いをお聞きしました。
※「須藤和之 日本画展 ー四季の空、風のこころー」新進作家が描く 風の表情と季節の移ろいの販売は終了いたしました。

インタビューに応じる須藤氏

端正な四季の景色の中に、目に見えない「風」の表現が印象的な須藤氏の作品。現在の作風の背骨としてあるのは、生まれ故郷・群馬の風景だと言います。

「僕が生まれたのは、空が高く、とても風が強いところでした。広角レンズで見た時のようなパノラマの景色に、柔らかな風や荒々しい風が常に吹いていたのを覚えています。その景色が僕の原風景であり、現在も作品を作る際に追い求めている景色です」

本格的に絵を学び始めた高校時代、日本画に出合った須藤氏。美大卒業後、絵との向き合い方に迷いが生じた時、道を示してくれたのはその故郷の風景でした。

「絵に行き詰まった時、ふと頭に浮かんだのは、いつか見たタンポポの綿毛がぶわっと風に舞う瞬間でした。当たり前の景色かもしれない、しかしだからこそ違和感なく心にフィットする絵が描けることに気づいたんです。以来、そういう景色を自分の宝物みたいに描き続けてきました」

稲のみのり

須藤氏の作品制作は、一枚のA4のメモ用紙から始まります。一枚の紙にたくさんのマスを書き、その中に取材した風景や着想を書き込んでいく、珍しいスケッチの方法をとっています。その数は一日で数百枚に上ることも。

「イラストでも文字でも、メモは思いのままに残します。小さいマスなので、入る情報は必然的にそぎ落とされます。だからこそ本当に描きたいものやシンプルな気持ちだけをすくいとることができるんです」

スケッチはすぐに作品にはせず、しばらくの間寝かされます。実際に作品制作に着手してから完成までは1カ月ほどですが、メモの段階から完成までは数年を要することも。

「メモを後から見返した時に、その時の感覚やインスピレーションを呼び起こすものを選んで日本画作品として描くのです。僕が何よりも大切にしているのは、その作品を自分自身が大切だと感じられるかどうか。完成にたどり着くのは、やっぱり好きだな、と制作途中に何度も思うような作品ばかりです」

A4のメモ用紙にスケッチする須藤氏

花に止まった昆虫や水面をはばたく鳥など、小さな生き物のいる近景に着目した作品でも知られる須藤氏ですが、最近では、夕暮れの海や画面いっぱいの田園風景といった遠景を多く描いています。

「主役である鳥などに光が降り注いでいるような情景を多く描いてきましたが、絵を見ている自分自身に光が降り注ぐような作品や、光を浴びている自分の心情を投影した作品が描けないかと思うようになったんです。そうすると自ずと画面の視野が広くなり、近頃は主役さえ描かなくても成立するということに気付きました」。2年前に戻った群馬や、山口の海など、縁ある土地の風と生命に刺激を受けながら、表現の幅を広げているのだそうです。

日本画との向き合い方も、20年近く描き続ける中で変化したと言います。

「日本画の画材は岩絵具をはじめ、自分よりももっと前に地球上に誕生しているもの。自然界に散在する岩や水と付き合う感覚でそれらを扱うべきと気づいてから、日本画の面白さにさらに取りつかれました。卓上に向かって制作しているというより、大自然に包まれてキャンプをしているような感覚なんです」

山のいのち・雪

日本橋三越本店での展示は今回で3回目。須藤氏にとって三越の展示は、いつも、新しい挑戦の場になってきました。

「今までの自分にはない動きを見せられる場として、わがままに描かせてもらっています。うまくいくかわからないドキドキ感が楽しいです。自分自身、新しい自分をどんどん見つけられるきっかけの場ですね」

「自然」というモチーフを描くことは、これからも変わることはないと話す須藤氏。自然が持つ豊かな美を見出し、見る人に伝えてくれているのかもしれません。

「今回の制作では四季の風を描きました。皆さんが抱えている問題の解決の糸口や心の安らぎになるものが、普段何気なく見ている景色の中にあるのだということを伝えたいと思っています。風の中の命を感じながら、温かい気持ちになったり、故郷を思い出したりしていただけると嬉しいです」

さりげない瞬間にひそむ生命の奇跡を再認識させる須藤氏の作品。さわやかな風の息遣いを、実際の作品を見ながら感じてみてはいかがでしょうか。

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