

桜の古木を描いた日本画で多くの人々を魅了する日本画家・中島千波氏は、今年画業50周年を迎えました。三越伊勢丹では、2020年12月9日(水)から12月21日(月)まで、日本橋三越本店 本館6階 特選画廊にて「画業50周年記念 中島千波 日本画展―桜花を謳う―」を開催。2020年11月18日(水)には、オンラインストアでの販売も開始します。長きに渡り日本画壇を牽引してきた中島氏に、ライフワークとなっている桜との出会いや、日本画家を志すようになったきっかけなどを聞きました。
今では、中島氏の代名詞である桜の作品。しかし、画家としてデビューしてから15年間は主に人物画に取り組み、桜は“古臭い”と敬遠していたそうです。転機となったのは、一本の桜の古木との出会いでした。
「岐阜県の淡墨桜(うすずみざくら)を本で知って興味を持ったので、実際に行ってみたんです。そうしたら、その美しさに圧倒されて。描くつもりがなかったはずなのに、気づけば一心不乱にスケッチしていました」
当時、中島氏にとって桜は「古臭いし、花が小さくて描くのが面倒」な題材。その考えは淡墨桜によって一変し、その後37年もの間桜を描き続けてきました。北海道から九州までに実在した桜の古木の多くが、中島氏の作品になっているといっても過言ではありません。中島氏が追い求めてきたのは、樹齢300年や古いものでは1千年にもなる桜の古木です。
「これまで描いてきた桜の中には、もう朽ち果てたものも多くあります。今求めているのは、その土地に暮らす人だけが在りかを知るような、知る人ぞ知る桜。まだまだ描き続けなくてはいけないですね」
毎年桜の咲く時期になると、中島氏は実際にその場所を訪れて桜のスケッチを取ります。スケッチは、桜との対峙の時。桜が見せるその時の表情を正確に描きとります。
「長い歴史を生きてきた、今この時の桜の姿を記録する。私にとって作品は、ありのままの姿を映す桜の肖像画なんです。実物の桜のリアリティを大切にしながらも、私という描き手の心象を投影し、実物の桜以上の美しさの表現を目指します。装飾性と写実性・あるいは現実味のバランスをいかにとるかが重要です」
かつては「桜の花は描くのが面倒だ」と言っていた中島氏は今、花びらの一枚一枚を丹念に描きながら、桜の美しさを一層際立たせています。
大樹淡墨櫻
日本画家中島清之を父に持つ中島氏は、生まれた時から日常的に絵画に触れ合える環境の中で育ちました。高校卒業後、東京藝術大学へ進学し、本格的に日本画を学ぶはずだったのですが、中島氏の芸術への興味は日本画だけにとどまりません。
「日本画科へ進みましたが、当時流行っていた美術運動に影響を受けて、アブストラクト、シュールレアリズムなど、世界中のありとあらゆる技法を取り入れながら、自分だけの表現の確立を目指していました」
貪欲に制作を続ける中、大学四年生の時にコンクールに作品を出したことが大きなターニングポイントとなります。
「コンクールで入賞したのですが、その作品が日本画だったのです。当時は卒業したら美術教員になろうと考えていたのですが、コンクールで認められたことで日本画の道へ進む意思が固まりました」
実はこのコンクール、学部生の出品は禁止されていました。入賞を報告すると教授から注意を受けたというエピソードからも、当時の中島氏の異端児ぶりが伝わってくるかのようです。
小野の観音櫻
日本橋三越本店で5年ぶりとなる個展ですが、中島氏にとって個展は創作活動の成果を見せる“研究発表の場”だといいます。
「自分は今どんな作品を描いているのか、コレクターの方に限らず自分の仲間や先輩、後輩にも見てもらう、それが個展です。自分なりの考えをもとに研究を続け、作品制作に取り組んできたのだとわかってもらえたら嬉しいですね」
近年は、メキシコやニュージーランド、ロシアなど、海外にも足を運び、その地にある活火山を描いています。常に挑戦を続ける姿は、日本画の巨匠という自身の今に甘んじない貪欲さと静まることのない好奇心の表れだと言えます。
「描いたことのないものを描き残したいという思いが、年々強くなってきています。しかし、人の手が加わっていない、自然の美しさを描くというこだわりは変わりません」
個展では画業50周年を迎えた中島氏のこれまでと、そしてエネルギッシュに活躍し続ける今を、ぜひ感じてください。
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