重要無形文化財保持者(人間国宝)陶芸作品特集

きらびやかな色彩が特徴の九谷焼でありながら、陶芸家・吉田美統(よしたみのり)氏が釉裏金彩の技法を用いてつくる作品は、金箔が高貴な輝きを放ちつつも、華美すぎず落ち着いた品格があります。吉田氏は、伝統技法を継承するだけでなく、常に試行錯誤を続けることで独自の技法を体得。釉裏金彩の第一人者でありながら、いまなお技術や表現の研鑽を続けます。
※人間国宝は、重要無形文化財の技術保持者として各個認定された人物を指す通称です。
撮影者 川越裕介
石川県南部発祥の九谷焼。その技法のひとつに、釉裏金彩があります。釉裏金彩は、器の表面に金箔を用いて模様を表現し、その上に釉薬をかけて焼き上げます。昭和30年代に技術が編み出され、1966(昭和41)年に人間国宝の加藤土師萌氏らが釉裏金彩と名付けました。
釉裏金彩の特徴は、金箔を貼る工程にあります。緻密極まる工程を幾度も繰り返しながら、取り扱いが難しい金箔で絵や模様を描いていくのです。陶芸における技法の中で、もっとも手間のかかるもののひとつとされています。吉田美統氏が釉裏金彩を初めて目にしたのは、1972(昭和47)年に開催された加藤氏の遺作展でした。
「同じ金で、これほど斬新な表現があるのか」
当時既に金彩についての知識があった吉田氏ですが、釉裏金彩を用いた加藤氏の作品にくぎ付けになったと言います。
釉裏金彩芙蓉文花瓶
サイズ:径25×高22.5㎝
価格:770,000円
撮影者 川越裕介
釉裏金彩との出合いの時から、吉田氏は釉裏金彩の技法や表現の研究を始めます。
しかし、すぐに難しさに直面しました。もともと金箔は直線に裁断するしか技術がなく、金箔を全面に貼った上に色絵を施す、あるいは金箔を幾何学模様に貼り付けるのが主流でした。それにもかかわらず、吉田氏は草花や鳥など、誰も手掛けなかった題材にこだわりました。
具象表現をするには金箔を思い通りの形に切り取ることが必要ですが、0.0005ミリの厚箔と0.0003ミリの薄箔は、断裁の時に静電気が発生し、切るのは容易ではありません。いろいろなハサミを試した結果、たどり着いたのが医療用のハサミでした。
新しい取り組みはそれだけではありません。電気窯への電気制御盤の導入や、髪の毛用のクリップで金箔を挟むなど、自ら試し開発しながら制作を続けました。
創意を重ねて作陶し、日本伝統工芸展で初入選。その後も錬磨を続けて独自の釉裏金彩を確立し、2001年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
釉裏金彩花唐草文花器
サイズ:径19×高36.5㎝
価格:1,100,000円
撮影者 川越裕介
吉田氏の作品は、九谷焼の中でも現代的かつシンプルな色彩が特徴です。それでいて描かれる図柄は実に精緻で、ときに200ピースの金箔を用いることもあります。
緑や赤、紫といった地色に幾重にも重ねた金箔で描く紋様は、品格ある美しさを生み出しています。ときに背景に淡い色を用いることで、贅沢に金箔を施しながらも落ち着いた雰囲気を醸し出すのが魅力です。
九谷焼においても、金箔の芸術においても新生面を切り開いた吉田氏の作品は、代々にまで遺しておくべき至極の傑作といえます。
お問い合わせ 03-3241-3311 大代表 美術工芸担当まで。
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