潔い美しさが宿る白と黒そして特別な青の器たち Naotsugu Yoshida exhibition 「colors and shapes」

潔しい美しさが宿る白と黒そして特別な青の器たち Naotsugu Yoshida exhibition 「colors and shapes」のメインビジュアル
 

「白と黒の器」と聞くと凛と澄ましたイメージですが、柔らかさ、温もりを内包しているのが陶芸家の吉田 直嗣さんの作品。自他共に認める器好きのウェディング・ライフスタイルプロデューサーの黒沢 祐子さんもそんな独特の世界観に魅了されているお一人です。
今回、伊勢丹新宿店でコラボレーションイベントを開催するにあたり黒沢さんが吉田さんの自宅兼工房を訪問。作陶や工房、イベントへの想いについてお話しいただきました。

 

Naotsugu Yoshida exhibition「colors and shapes」

□2024年10月2日(水)~10月14日(月・祝)
□伊勢丹新宿店 本館5階 セレクトショップ

※諸般の事情により、営業日・営業時間、予定しておりましたイベントなどが変更・中止になる場合がございます。必ず事前にホームページを確認してからご来店ください。

 
 
  • 吉田直嗣さんの画像

  • 吉田 直嗣/Naotsugu Yoshida

     

    1976年沼津生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科デザインII類環境デザイン専攻卒業後、陶芸家黒田泰蔵氏に師事。2003年に独立し、静岡県駿東郡で作陶をはじめる。鈍い光を放つ鉄釉の黒陶、なめらかな質感の白磁、マットな墨黒釉など、白と黒を中心にした器を制作し、高い人気を誇る。

     

  • 黒沢 祐子さんの画像

  • 黒沢 祐子/Yuko Kurosawa

    ウェディング&ライフスタイルプロデューサー

    大学卒業後、OLを経て、ウェディングプランナーに転身。2016年には(株)YUKOWEDDINGを設立し、現在までおよそ1,500組ものカップルを担当する。20年以上のプロデュース経験と感性を活かし、2020年9月ライフスタイル事業を開始。個人宅インテリア・パーソナルコーディネート相談、フローリストとのワークショップ開催や洋服プロデュースなど幅広く活動中。
    プライベートサロン「Y’s room」を主宰

     

 

—静岡県の御殿場駅から車で約10分。自然に囲まれた緑の匂いも濃い吉田さんの自宅兼工房での対談は、黒沢さんが「吉田 直嗣」という陶芸家を気にするようになったきっかけから始まりました。

 
  • 吉田さんと黒沢さんの画像

     

     

黒沢:私は和洋を問わず、ジャンルも問わず器が大好きでかなりの種類を揃えていますが、選ぶときには作家さんというのは特に意識はしていないんです。それがあるとき「吉田 直嗣さんの作品だよ」ってフリーカップをプレゼントされたことがあって、「あれ?この作家さんの器を持ってるかも」とあらためてお気に入りの器を見てみたら「これも、これも、直嗣さんだ」って(笑)。

吉田:それは作っている側としたらうれしいことですね。「この作家だから」というのではなくて、無意識に手に取ってくれているわけですから。

黒沢:無意識というのはまさにそうで、直感的に気に入った器を選んでいたら自然と直嗣さんの作品が増えていたんです。

吉田:僕は器というのは基本的には好きか嫌いかで選べばいいと思っています。使い勝手が良ければずっと愛用してもらえるだろうし、そうじゃなければそれまでですし。

黒沢:器って壊れてしまうものじゃないですか。それでも愛着があるもの、思い出があるものは簡単には手放せないので、うちにある直嗣さんの器も金継ぎでいろんな色が入っています。道具は使ってこそだと思っていて、私は器の気持ちを考えて日常でどんどん使っているのでちょくちょくチップしています(笑)。

 
  • 黒沢さんの画像

     

     

吉田:極論ではありますが作り手としては使っても、使っていただかなくてもどちらでもいいと思っています。というのも僕は作ることが好きだから陶芸家をやっていて、完成した器がほかの人の手に渡ってしまったらあとは自由にしてくださいという考えなんです。

 

—ときにアートピースのように扱われることもある器ですが、伊勢丹新宿店での吉田さんのイベントは美術ギャラリーではなく本館5階のリビングフロア。吉田さんとしては使うもの、飾るもの、そんな領域は気にされていないようでした。

 

吉田:器は高い値がつくとアートと呼ばれたりして、お手頃だと普段使いになるというのは理解はできますが、それでも安くても素晴らしい器はありますし高価であっても誰も欲しがらないということもありますよね。

黒沢:それはあります。本当にそう思います。

 
  • 吉田さんの画像

     

     

吉田:僕は作ることができればそれで満たされるので、選んでくれた方が僕の器を使うものとして捉えるのか、飾るものとして捉えるのか、そこは気にしていないです。作ることが好きというのはどれだけ作り続けても「最高の出来栄え」と思えたことがないからなんです。自分にとっての理想形というのは頭の中に浮かんではいますが具現化は一生できないとも思っています。

黒沢:直嗣さんの作品は色も白黒でエッジが効いているじゃないですか。なので私はお会いするまでご本人もすごくクールでスタイリッシュな方だと思っていました。でも実際には穏やかで、親しみやすくて、それは意外でした。その人柄を通じて作品をますます好きになりました。

吉田:僕は器のカタチにこだわりたかったので、表現の要素として色は必要なかったんです。だから選んだのが白と黒でした。最初はすべて黒だったんです。師匠が白磁だったのでそれを倣っているように思われるとやりづらくて。ただ黒一本だと個展の会場内も暗い(笑)。そんなこともあって紅茶専門店と一緒にイベントをやったときに白をやってみたんです。

 

—ここで対談中のおふたりに吉田さんの奥さまから紅茶とクッキーの差し入れが。白磁のカップの中で煌めく紅茶をきっかけに、吉田さんと黒沢さんの共通点が発覚しました。

 
  • カップの画像

     

     

黒沢:紅茶、すごくおいしいです。

吉田:<teteria/テテリア>のファーストフラッシュダージリンです。

黒沢:えっ!昨日も飲みましたよ。私は<テテリア>の大西 進さんのお茶が大好きなんです。今日は御殿場で取材があるのでお会いできたらと連絡したのですが、現在は人を呼べるような状態ではないらしくて「また今度ね」と。

吉田:僕が白を作るようになった紅茶専門店とのイベントというのが大西くんなんですよ。

黒沢:そうなんですか!直嗣さんも大西さんもどちらもファンなのにそれは初耳でした。そしてかなりの驚きです。

吉田:僕はコーヒーしか飲まなかったのですが、大西くんが淹れる紅茶があまりにおいしかったので「一緒にイベントをやらない」って声をかけたんです。もう20年前ぐらいのことで、僕も大西くんも駆け出しの頃でした。

黒沢:まさか大西さんが私と直嗣さんの共通の知人だったとは。ずっと以前からお互い大西さんの紅茶ファンという共通点があったんですね。大西さんとのイベントは直嗣さんの作ったティーカップで大西さんが淹れた紅茶を飲むような感じですか?

吉田:そうですね。当時は僕は黒しか作っていなかったけど、黒のティーカップでは紅茶の色だけでなく味までわからなくなるような感覚があったんです。なのでイベントのためにティーカップだけ白で作ってみたら白磁という素材の気持ちよさに魅了されて、いろいろと作りたくなってラインナップが増えていきました。

黒沢:直嗣さんの黒の器は磁器ではないんですか?

吉田:現在は白も黒も磁器が多くなってはいますけど、黒は初期は陶器だけでした。僕が独立して20周年のときの個展で土物を多く作ったら、お客さんから「陶器も始められたんですね」って言われました。

黒沢:陶芸家としての原点なのに(笑)。その鎌倉での20周年の個展にはもちろん行きましたよ。

 

—吉田さんの個展に頻繁に足を運び親交を深めている黒沢さんですが、工房を訪れるのは初めてのこと。初訪問の印象については「夢のような場所です」と笑顔でした。

 

黒沢:個展をかなり開催されていますし作品もたくさん制作されているので、工房は工場のように大きいのかと思っていました。

 
  • 吉田さんの工房の画像

     

     

吉田:仕事場は何もかも自分の手が届くようなコンパクトが好みで、完成した器はすぐにショップやギャラリーに持って行くので大きなストックルームも必要ないんです。ストックがあるとその量に安心して作らなくなるような気がして(笑)。

 
  • 器の画像

     

     

黒沢:個展のオファーも多いと思いますがギャラリー側が希望するような作品が直嗣さんの好みでなかった場合はどうしているんですか。

吉田:作りたいものでなければ、そこは応じることはできないです。理想のカタチは追求していますけど、ひとつのカタチには固執したくないんです。自分で気にいるようなティーカップができたとしても、翌日に見たらそうでもないと思うことはよくあります。だから同じものをたくさん作るのは得意ではないです。

黒沢:「この作家さんといえばこのカタチ」という器は存在しますけど、直嗣さんはそうじゃないんですね。作陶に気分が影響しているなら「個展によっては手付きのカップがない」というようなこともあるんですか?

吉田:そこまで極端なことはないですが偏ることはあります。手付きは1種類だけなのに、そうじゃないカップは何種類も作ったり。「頼まれたから作りました」ではいいものは生み出せないような気がしています。売れるものよりは自分が作りたいものというスタンスではありたいです。

 
  • 器の画像

     

     

黒沢:息子さんは美術系の大学に通われているそうで、間違いなく直嗣さんの陶芸家としてのスタンスに影響を受けて進学されたと思うのですが、そもそも直嗣さんはなぜこの道に?

吉田:僕も大学は美術系で、それは家具をやりたかったからなんです。でも入学してすぐに「自分がやりたいのはデザインではなく制作だ」と気づきました。そこからなぜ陶芸を志したのかといえば、一人暮らしで食器を揃えようとしたら自分が欲しくなるようなものが見つからなかったんです。百貨店で探したりもしたんですけど、ちょっと古風すぎて。

黒沢:その当時の百貨店の品揃えですよね。わかります(笑)。

吉田:それなら自分で作ってみようと大学の陶芸サークルに入ったのですが、これが本当に楽しくて。自分は手を動かすことが好きなんだと確信しました。両手に収まるぐらいの範囲で作品が完結するのもちょうど良かった。建築なども勉強はしましたが範囲が大きすぎて興味は持てなかったです。陶芸サークルをきっかけに自分の将来として陶芸家を意識するようになり現在に至る感じです。

 
  • 陶芸の画像

     

     
 

—作り手にとって創作の環境というのは重要なこと。首都圏での個展が多い吉田さんですが独立を機に移住したのは静岡県。この地を選んだ理由についても語っていただきました。

 

吉田:現在は自宅兼工房となっているこの場所には妻の祖母の別荘があったんです。最初は一年だけのつもりが最終的に土地も建物も譲ってもらいました。家族も増えたことで建て替えはしていますが。

黒沢:すごく素敵な場所だと思います。

吉田:環境としては僕も気に入っています。窓から見える森がほとんど落葉樹なので四季によって風景がガラリと変わるんです。

 
  • 吉田さんの画像

     

     

黒沢:今は新緑といった感じですね。

吉田:夏は葉が生い茂るので森は暗くなり、冬は葉が落ちるので森の奥まで見渡せるようになります。そんな四季折々の変化は作陶に多少は影響しているのかもしれないですが、ダイレクトなインスピレーション源は持たないようにしています。何かを感じたからといって手を動かしてしまうとほかの作家さんの作品を見ても同じことをやってしまいそうで。気になったものは自分の中に蓄積されているんでしょうけど、それが作品につながったとしたらラッキーというぐらいです。「作品のインスピレーション源は?」と聞かれても自分でもうまく答えられないですね。

 
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  • 黒沢さんがご自宅で愛用している吉田さんの器の画像

     

     
  • 黒沢さんがご自宅で愛用している吉田さんの器の画像

     

    黒沢さんがご自宅で愛用している吉田さんの器。
    料理に合わせて盛り付ける器を決めることが多いそうです。

黒沢:「ダイレクトなインスピレーション源は持たない」という潔い美しさがあるから私は直嗣さんの作品に心を鷲掴みにされたんだと思います。テーブルコーディネートをするときはいろいろなテイストの器をミックスしますが、一点一点はシンプルが好きなんです。直嗣さんのはどんな料理にもマッチするので登場回数は多いです。朝起きたら白湯を習慣にしていた頃は、必ず直嗣さんの白磁のフリーカップで飲んでいました。

吉田:シンプルだからなのか僕の個展は男性のお客さんが多いんです。初日なんかは来場者の6割はそうだったり。

黒沢:日常使いとしての器好きは女性が多いイメージですけど、使わないけれど好きな器をたくさん持っていたいという男性は私の身近にもいます。モノトーンで装飾性も削ぎ落とされていて、直嗣さんの器からはモードな雰囲気を感じられるから男性のライフスタイルにもハマりやすいと思います。あとはミニマリストの方とか。

吉田:ミニマリストも工業製品のようにすべての規格が統一されているのを好む方とそれを敬遠する方が存在すると思っています。

黒沢:私は間違いなく後者ですね。

 
  • 器の画像

     

     

吉田:僕は身のまわりが工業製品ばかりになるとちょっとツラくなる。そんなに寸分の狂いもなく整っている必要はないと思うんです。プロダクトには出来の悪さも含めて人間の手じゃなければ生み出せない部分、手作業としての痕跡が欲しくなるんです。

黒沢:それが作家さんならではの温もりだったりしますからね。ちょっとした凹凸や歪みが味でもあるので、私も器はシンメトリーよりはアシンメトリーが断然好みです。

 

—対談の終盤で伊勢丹新宿店でのコラボレーションイベントの話題に。百貨店での個展は初めてという吉田さん、イベントの装飾を担当する黒沢さん、それぞれの想いが交差しました。

 

吉田:ギャラリーでの個展と違って、さまざまなお客さんがそれぞれの目的で訪れる百貨店でのイベントなので「どうなるのか?」というわからなさはあります。しかも作品を整然と並べるわけではなく、暮らしのスタイリング提案として器を紹介したいと伊勢丹新宿店からお話をいただいて、それも自分としては初の試みなのでお客さんの反応が楽しみです。

黒沢:友人たちが「ユウコブルー」と呼ぶぐらい私は青が大好きで、その色味で伊勢丹新宿店限定の作品を作っていただけることになってとても楽しみです。直嗣さんといえば白と黒の世界なので青をお願いするのは失礼かもしれないとは思ったんですけど「いいですよ」とあっさりOKをもらえて(笑)。

 
  • 黒沢さんの画像

     

     

吉田:単純に青っておもしろそうだなって思ったんです。引き受けた理由はそれぐらいシンプルで、今回だけの単発という企画性も魅力に感じたんです。

黒沢:「吉田さんって白と黒とグレー以外も作るの!?」ってファンは間違いなく驚きますよ。それぐらい直嗣さんが色をアレンジするのは衝撃的なことで、そこにコラボレーションとして携われたことがうれしいです。私はイベントスペースの装飾も担当するので、器が映えることはもちろんですし、お客さんが思わず立ち止まってしまうような演出を意識しています。

吉田:僕としては陶芸家のイベントと特に意識しないで、ふらっと見に来てもらえたらという気持ちが強いですね。そこで気に入った器との出会いがあればうれしいです。

黒沢:ギャラリーのように垣根があるわけでもなく、オープンなスペースですから新しい出会いというのはきっとあるはずです。私は熱烈なファンとして「こんなに素敵な器があるんです」と皆さんに知ってもらいたい。直嗣さんのことはまだご存知ではなくても私のことは知っていて、私を通じて伊勢丹新宿店でのイベントに足を運んでくれる方がいたら本望ですね。

吉田:そこはぜひご協力をお願いします(笑)。

黒沢:力になれるよう頑張りますね(笑)。今日はお話もおいしい紅茶もありがとうございました。

 

吉田 直嗣×黒沢 祐子コラボレーション作品

今回はスタイリストの黒沢さんとのコラボということで、鮮やかな青を使ってみました。部屋にあるだけで元気が出るような花入が出来ました!

 
  • 青筒花入の画像

     

    青筒花入
    縦38.5×横16cm 110,000円
    ※店頭のみお取扱いとなります。
  • 青掛け分け壺の画像

     

    青掛け分け壺
    縦27×横24.5cm 132,000円
    ※店頭のみお取扱いとなります。