「煌めく大和絵の世界」 中沢 梓 特集

自らを“大和絵師”と称し、日本の心と伝統美を独自の視点で追求する画家・中沢 梓さん。画面の人物や動物の表情、着物の文様や背景の細部にいたるまで丁寧に描かれ、日本古来の伝統美と現代の美意識が溶け合った独自の世界観は、多くの絵画愛好家を魅了しています。
三越伊勢丹オンラインストアでは2022年4月20日(水)から「煌めく大和絵の世界」 中沢 梓 特集を開催。作品制作にかける思いや、見る人に伝えたいことなどについて伺いました。
オンラインストア会期
□2022年4月20日(水)午前10時~5月5日(木・祝)午前10時
店頭会期
□日本橋三越本店 本館6階 美術フロア
□2022年4月6日(水)~4月19日(火)[最終日午後5時終了]
※作家在廊予定:4月9日(土)午後1時~午後5時

絵を描き始めたきっかけは
「白い紙ちょうだい」
制作で手一杯の時、子供にいわれるがままにコピー用紙を渡します。子供がお絵描きをしたり、工作したりして時間を過ごすのは大歓迎です。そういう時ふと、自分の幼い頃、新聞の折り込み広告の中から、裏面が白い紙を探してそこに絵本を描き写していたのを思い出します。5歳くらいだったと思います。
白い紙というのはいくつになっても特別なものです。運動もゲームもしない、留守番の多い子供だったので、紙と鉛筆があれば時間を潰せる、絵に興味が向いたのは自然なことでした。結果、絵の道に進んだのは、絵を描くことに理解のある家庭環境の影響だと思います。
今でも辛いときは泣きながら絵を描き、嬉しいときは張り切って絵を描きます。私にとって絵を描くことは、自分自身への救いだと思うこともあれば、単に好きなだけかもしれないと思うこともあります。

絵を描くうえで大切にしていること
作品は、良くも悪くも描き手の鏡です。作品を通して私自身をご覧いただいているのだという気持ちで、絵具の一色一色を塗り、後悔のないよう送り出します。大和絵は複雑な制作工程がありますが、それも大和絵を描く醍醐味だと感じています。
大和絵とは、日本古来の生活文化や年中行事、歴史などを題材とした絵画様式のこと。今を生きる現代人としての視点から、古典でありながらも“現代性”を感じられる作品となるように、そして日本の風土に育まれた美しさと、伝統的なモチーフの品格を損なわないよう心掛けています。
美しい発色の天然岩絵具とキラキラと輝く金銀箔は、地球から受けた恩恵そのものです。こんな素材を扱える大和絵はなんて贅沢なんだろう、と思いながら、慎重に、しかし惜しみなく絵具を使います。
また、見て楽しいことも大切にしています。作品「扇の的」では、一見緊張感のある絵のなかに、ゆるいねずみを遊ばせています。ねずみは私の分身で、私の代わりに絵の中で動き回ってくれるのです。お酒が飲めない私の代わりに、憧れの、温泉に入って一杯・・・なんてこともしています。(作品「人生に乾杯」)なぜねずみなのかといえば、私が子年生まれだからという単純な理由です。


作品への想いと絵を通じて伝えたいこと
作品には、これまで生きてきて感じた疑問や怒り、悲しみなどの訴えを込めていることもあります。パッと見ではわからないような描き方をしているので、作品の意図を説明すると驚かれることがよくあります。マイナスの感情も、画面にアウトプットすると全てプラスの表現に変わります。
例えば、作品「RIDER~花嵐~」は、抑圧からの解放、自己決定という意味を込めています。馬の前脚を高く蹴り上げて、颯爽と駆けだすのは牛若丸です。無数に飛ぶ桜の文様は、現代人が日々耳にする情報や、“こうあれ”という抑圧を表しています。

一つひとつは良かれと思った言葉だったり、大事なことだったりしますが、時として心に深く突き刺さります。人生の岐路に立ち、たくさんの情報に惑わされながらも、“自分の信じる方向に思い切って駆け出してほしい”という思いを込めました。
また、私の絵の根幹を成しているのは“懐かしい思い出”です。作品「春宵」は、幼い頃の記憶を頼りに描いた作品です。冬が終わり、春の訪れを感じるのは気温の変化、そして“春の匂い”です。夜の空気が水分を含んだ草木の匂いになると、あぁ、なんて良い気分なんだろうと思うと同時に、忙しい両親が、時々「今日は外食にしよう」と言って、夜の散歩に連れていってくれたことを思いだします。
家族で歩いた春の夜道、見上げると、夜空にまん丸のお月さま。月明りと、小さな街頭と、ワクワク感とで、空気までキラキラしていました。“春宵一刻値千金”とは、そんな気持ちをよく言い表した言葉だと思います。

作家活動を始めてから今日まで、一貫して描き続けてきたテーマは“人と馬”です。たくさんの経験を積み、研究と工夫を重ねたスタイルは、私にしか描けないオリジナリティがあると思います。
自分の子供をモデルに描き始めた「一騎図」は、子供たちの健やかな成長への願いが込められており、今では毎年初節句などのお祝いに、可愛いお子さまたちを描かせて頂いております。武者絵だけれども、戦いを想起させない絵柄が平和的で良い、とのご感想を頂いており嬉しい限りです。
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「一騎図-松-」 231,000円 作品を見る
私は、作家になって、大人になって、また親になって気が付いたのは、絵で何かを自由に表現し、素直な感情を表すことができるのは、小さい方々から見て“楽しそうな大人”の一人かもしれないということです。不安が先立つ世の中でも私の描いた絵が、少しでも誰かを癒し、勇気づけることができたならこれ以上の喜びはありません。

1984年 東京都生まれ
2007年 女子美術大学絵画学科日本画専攻 卒業
2009年 女子美術大学大学院 日本画研究領域 修了
2012年 見参-KENZAN-展/船堀タワーホール(以降2013~2021年)
2014年 アートのチカラ/伊勢丹新宿店(以降2015~2017年)
個展 やまとを描く中沢 梓日本画展/伊勢丹新宿店
日本画三人展「筆三味線」/金沢21世紀美術館
2015年 アートのチカラ 発表展/伊勢丹新宿店(以降2016年~2017年)
~ヤングアーティスト旋風~2015 アートアートアート
/松坂屋名古屋栄店(以降2016~2019年)
2016年 MITSUKOSHI ART CUBE/日本橋三越本店(八犬堂ブース)
2018年 個展 「刻一刻」/Gallery子の星
中沢 梓・宝居智子二人展 Lives/伊勢丹新宿本店アートギャラリー
2019年 秋の大絵画展/うすい百貨店(以降2020年)
中沢 梓・中西 彩二人展「大和美を紡ぐ」/東武百貨店池袋店
チャリティー絵画展/静岡市民会館
大酒器店/阪急うめだ本店
2020年 個展 中沢 梓 大和絵展/阪急うめだ本店 美術画廊
2021年 個展 中沢 梓 大和絵展-花武騎者-/八犬堂ギャラリー
個展 中沢 梓 大和絵展/松坂屋名古屋店アンテナアートプラス
個展 中沢 梓 大和絵展-松風水月-/東武百貨店池袋店 秋の絵画市
ファインアートコレクション/松坂屋名古屋栄店
その他、個展、グループ展多数
■受賞歴
2008年 源氏物語一千年記念祭「源氏物語の姫君たち展」入選 優秀賞受賞
2009年 パルテノン多摩公募’09「子供を見つめる」 入選
2010年 ドローイング・デッサン・版画コンクール 入選 銀賞ロジェ・ブイヨ賞受賞
2011年 パリ国際サロン 出品招待
2012年 KENZAN オーディエンス賞3位
2017年 女子美術大学同窓会設立100周年記念「若手支援プロジェクト展-まなざしの先に-」入選
■装丁画・挿絵等
(財)全日本弓道連盟月刊機関誌 「弓道」 2009年
(株)インプレス 「年賀状 DVD-ROM」2020、2021 年賀状描き下ろし
(株)メトロポリタンプレス 「UMA LIFE」2021年5月号 記事掲載
(株)淡交社 「なりきり訳 枕草子」 八條忠基著 装丁画・挿絵