はいばら木版摺美術画 柴田是真 作品特集

和紙製品の老舗・はいばら(東京・日本橋)が立ち上げた木版摺美術画プロジェクトによる木版画作品の中から柴田是真(ぜしん)原画による6作品をご紹介します。
柴田是真(1807-1891)は、江戸末期~明治期に活躍した漆芸家であり、日本画家であり、そしてデザイナーでもありました。そのユニークな作品は、国内でも絶大な人気を博しましたが、明治6年(1873)に開催されたウィーン万国博覧会では、想像を超えた超絶技巧の工芸品で会場の人々を驚嘆させ、一躍世界にその名を広めました。
また、はいばらの三代目当主であった榛原(中村)直次郎とは皇居新宮殿の御用や内外の博覧会出品を共にするなどの懇意の仲で、はいばらの団扇や木版画の図案を多数残しています。
今回ご紹介する柴田是真の作品は、はいばら木版摺美術画プロジェクトにより、同社が所蔵する原画と版木を用いて、現代の木版画作品として蘇らせたもので、細部まで伝統的技法にこだわった匠の技が凝縮した作品です。
四季折々の植物や小動物が生き生きと描かれた意匠は、場所を選ばない程良いサイズ感と併せ、色々なお部屋のインテリアとして長くお楽しみいただけるでしょう。
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柴田是真筆「踊鯛(おどりだい)」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
赤い縁起物の鯛を、生きて跳ね踊る姿であらわしました。七福神のうち、商売繁盛の神である恵比寿天が釣り上げて右手に抱える魚も鯛です。ダイナミックなポーズを立体的に表現する木版画らしい美しい階調表現(グラデーション)や力強いひれの描写は、豊かな自然からもたらされた生命力を見事に表現しています。
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柴田是真筆「鶴(つる)」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
鶴は千年、亀は万年といわれるように、鶴は長寿を象徴するおめでたい鳥です。純白の羽毛の清らかさと、姿の美しさが古来より吉祥文様として広く好まれ、慶事に用いられてきました。朝日が昇りゆく空と鶴とを紅白の美しい彩りで表現しています。
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柴田是真筆「酔後の亀(すいごのかめ)」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
亀は寿命万年を生きる長寿の象徴として、鶴とともに慶事にふさわしいとされる聖獣です。古くは、古代中国で北の方位を守護する玄武という神を、亀に蛇が巻き付いた姿で表しました。鶴と亀、松竹梅と亀など、めでたいモチーフを重ねて吉祥性を強調する図案も多くありますが、是真は祝いの杯と酔って眠る亀とを組み合わせてユーモラスに描いています。
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柴田是真筆「撫子(なでしこ)」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
花が小さく愛らしい「なでしこ」は、頭を撫で慈しみ育てた子と意味が通じることから、しばしば子どもや女性にたとえられ、『万葉集』など和歌にも多く詠まれてきました。秋の七草の一つ、秋の風情をあらわす文様としても好まれる花です。日本古来の品種を「大和撫子」といい、現代では清楚で慎ましく凜とした女性を表す言葉として広く知られています。
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柴田是真筆「あやめ」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
七十二候の「菖蒲華」(あやめはなさく)は新暦の6月27日から7月1日頃を言い、梅雨の時季にあたります。是真は、まさに雨降るあやめの花をクローズアップで描き、雨に打たれて静かに揺れ動くさま、湿り気のある柔らかい色彩を見事に表現しました。
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柴田是真筆「稲花(とうか)」木版画
額サイズ:約 縦30.8×横39.8cm 38,500円
わが国では古代から稲作がつづき、稲が重要な食糧として、また富や宝としても大切に扱われてきました。もっとも身近にあり生命を支える植物に豊穣や富貴の願いが込められています。夏には茎の頂に多数の小花をつけて、好天日の午前に限って開花します。夏の光を感じられる明るい画面に青々とした葉と茎の色が冴えています。
原画制作者・柴田是真について
柴田是真(しばた ぜしん)は、幕末~明治に活躍した漆芸家であり、日本画家であり、そしてデザイナーでもありました。
幼少期より初代古満寛哉の下で蒔絵を習い、谷文晁や四条派の絵師鈴木南嶺、岡本豊彦に絵を学びました。その後、一派を築き明治23年(1890年)には帝室技芸員に任命されるなど、高い技術と洒脱さや遊び心ある作風は海外でも高く評価されています。
はいばらの三代目 榛原(中村)直次郎氏とは懇意の仲で、内外の博覧会出品や皇居新宮殿の御用、龍池会発会等を共にし、「是真といえばはいばら」といわれるほどその関係は有名であったと伝えられており、現在も、はいばらには是真デザインの製品が多く受け継がれています。
創業期以来、はいばらは生活を彩り飾る摺り物・襖紙・壁張紙・便箋・封筒などを取扱ってまいりました。
中でも「はいばらの紅は寿ぎの色」と言われてきたように、木版摺りの鮮やかな色彩は、人の心に晴れやかな喜びをもたらします。
この度の木版摺美術画プロジェクトを通じ、私たちはもう一度原点に立ち返り、創業時より江戸の人々にも愛されてきた木版摺りを現代に送り出そうとしています。
当時と同じ技法を用いつつ、色の彩度も現代に合わせて調整するなど、細部へのこだわりを追求しました。
(はいばら 案内冊子より)
木版摺美術画(木版画)ができるまで ※ばいばら 案内冊子より抜粋
1.「紙」について

今回の紙は、福井県越前市で作られました。
「越前生漉奉書」と呼ばれる和紙で、楮(こうぞ)100%で手漉きで漉かれます。楮はほかの和紙の原料である雁皮(がんぴ)や三椏(みつまた)よりも太く長い繊維が特徴です。
木版画は一色ごとに版木からバレンで和紙に色を擦り付ける工程を、何度も重ねて作品に仕上げて行きますが、この柔らかい和紙はバレンで擦り易く、一方で何色も刷りを重ねた後でもさらに色を吸うことができる強さも兼ね備え、最高の木版画用紙としての役割を担っています。

今回の紙は、色を何度も重ねて摺っていく際にも、できるだけ紙の「伸び」が少なくなるように作られたものです。ふねと呼ばれる水槽に楮の繊維を満たし、一枚一枚手作業で紙が漉き上げられます。
2.「版木」について

はいばらが所蔵する精巧に彫られた版木を使用しています。版木は、原画の優美な輪郭と主要な部分が繊細に彫られた「主版」(墨版)や、色別に彫られた「色版」があります。
版木には、厚く丈夫な「山桜」の木材が使われますが、山桜は古くから木版画の版木の材料として使われる木材で、木目が細かく反りが少ないうえに程良い粘りもあり、加工性の高い貴重な素材です。

3.「摺り」について

顔料と膠(にかわ)を混ぜたものをハケで版木に塗り、その後バレンと呼ばれる、麻の紐と竹の皮で作られた道具で、紙に顔料を摺っていきます。バレンにはさまざまな太さで撚った麻紐が入っており、版の細かさによって使い分けます。
基本的には、淡い色から濃い色へと順に摺り重ねていきます。摺師は原画の配色の意図を最大限に尊重しながら鮮やかな色調を再現します。

和紙製品の老舗・はいばら(東京・日本橋)

はいばらは、文化3年(1806年)の創業以来、二百年以上に渡り日本橋の地で和紙舗を営んでいます。
創業以来、柴田是真、河鍋暁斎、酒井抱一を筆頭にさまざまな絵師に絵を依頼し、それを原画とする摺物を販売し多くの愛好者を得てきました。
生活の身近な装飾において、時代の流行や才能を積極的に取り入れ、人々の日常を心地良いものとすることを志しています。
明治6年(1873年)のウィーン万国博覧会、明治11年(1878年)のパリ万国博覧会にも装飾和紙を出品し褒状を授与されて以来、この間にヨーロッパに渡ったはいばら製品は、フランスのパリ装飾芸術美術館をはじめ、ヨーロッパ各地の美術館などに収蔵されています。
日本国内でも室内装飾の分野において、襖紙(からかみ)・壁紙(壁張紙)の資材と技術者の育成を図り、明治20年(1887年)には皇居新宮殿の内装の御用をつとめました。また、郵便創業期には明治政府の命により官製はがきを作成し、日本の郵便事業の発展に寄与しています。
現在も「和紙のある暮らし」を提案すると共に、生活を彩り飾る意匠の商品を世に送り出しています。
株式会社 榛原(はいばら)
現在所在地:〒103-0027 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー