「大場 咲子 作品展」空想が躍り、伝説が生きる世界を描く


銅版画や油絵・張り子など、ジャンルを超えて自身の表現を追求し続ける芸術家・大場 咲子氏。繊細な描写とファンタジックな世界観で、見る人を作品の中の物語へと引き込みます。
三越伊勢丹オンラインストアでは、2021年9月29日(水)から「大場 咲子 作品展」を開催。インスピレーションの源や、さまざまな表現への挑戦について聞きました。
止まない空想と歴史が創作の原点

人魚姫や、嫁入り行列をつくるネズミ・テーブルを囲むキツネなど、童話のワンシーンを切り取ったような作品の数々。大場氏の頭の中では、可愛らしくもちょっと不思議な世界が次々と生み出されています。
「作品の多くは、空想で浮かび上がったイメージがベースになっています。実は、どこにいても、何をしていても、常に空想をしています。こうしてインタビューを受けている間も、目の前の白い壁に次々にイメージが浮かんでいるんです。あまりに四六時中なので、うるさいなと思うこともあるくらい」
故郷である愛媛県西条市に残る伝説や民話も、作品に多々投影されています。
「何百年も前に生まれた物語が、現代でもなお語り継がれているという奇跡に心惹かれます」
古道具から強いインスピレーションを受けるのも、同じ理由だとか。
「長い時を経てきた道具は生命力にあふれていて、まるで妖怪みたいだなって思うんです」
実際に見たことはなくても、どこか懐かしい。作品の登場人物や描かれた世界に愛嬌や親しみを感じるのは、インスピレーションの源にあったのです。
eclatant
イメージサイズ:約 23.2×33.2cm
技法:インク・紙
価格:72,000円
銅版画の繊細な線に魅了されて
芸術家になる片鱗は、既に幼少期に表れます。家の中はもちろん、映画館の中でもスケッチブックに絵を描き続けることをやめませんでした。
中学時代には、自ら美術部を創立。美大進学を目指して予備校では油彩表現を学び、大学入学後に銅版画と出会います。銅版画は、自らの表現に新たな可能性をもたらしました。
「銅版画で驚いたのは、髪の毛よりも細い線が引けること。それまで、筆では力が入りすぎて繊細な表現ができず悩んでいたんです。銅版画の線は、まさに理想でした」
大場氏は制作に取り掛かる際、下描きをしません。それも、銅版画ならではの線の魅力を最大限に引き出すため。
「下描きをなぞると、どうしても固い印象に仕上がるんです。いくつも描き重ねた線や、不安定な線も味の一つ。それが私が求める、“生きている”線なんです」
線にこだわることは、同時に紙の風合いを際立たせることにもつながり、作品をやわらかな印象に仕上げる効果も生みます。
BOTAINU 輪廻転生
サイズ:約 18.5×34×38.5cm
技法:エッチング・張り子
価格:110,000円
多様な表現 きっかけはスランプ
銅版画を主軸としながら、油絵や張り子など異なる表現にも取り組むきっかけは、大学院に進学した際のスランプです。環境の変化のためか一切の空想が止まり、1年に渡って制作が滞りました。
「何も作れなくなった私に、教授が『違う表現にトライしてみたら』と声をかけてくださいました。その言葉で、私の表現を制限していたのは、私自身だったことに気が付きました。そこで、立体作品に挑戦してみることにしたんです」
素材に使うのは、銅版画を刷った和紙です。やわらかな和紙の質感は、張り子のなだらかなフォルムを引き立てるのにぴったりでした。
絵画や銅版画など、さまざまな表現に取り組んできた経験が、作品の幅を広げることに自然とつながってきました。
作品を通じて見る人と共鳴できる喜び

これまで3度開催した三越伊勢丹での展示も、大場氏にとって転機の一つとなりました。お客さまとの会話は、制作についての自身の考えを深めるきっかけを生みます。
「多くのお客さまに、『見たことがない、変わった世界だ』とおっしゃっていただきました。それはまさに私が意図する世界観なので、まるで私自身とぴったり共鳴してくださっているように感じて嬉しかったです」
細部まで丁寧に描かれた作品を前にすると、なんだか異世界に迷い込んだような不思議な感覚に包まれます。大場氏の空想の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
作品紹介


大場さんの魅力は、幅広い表現と、想像力の豊かさだと思います。インタビュ―にもあるように、四六時中空想を絶やさないとのこと。身近な物事からもインスピレーションを受け、創造の源泉をたやさぬよう日々想像力を磨き続けています。作品には故郷の愛媛県の伝説や民話の要素も取り入れており、愛らしさにくわえ不思議さと懐かしさも感じます。また素材も多様で、ほかに類をみない魅力にあふれています。