-お三方はプライベートでも交友があるということですが、どんなきっかけで知り合ったのですか?
提橋:3人とも本当に近くでお店をやっていて、挨拶がてらいろいろな話をするようになったんです。服が好きな人は衣食住と興味が広がっていって、とくにインテリアにこだわる人が多いから、自然と民藝の話になった感じですね。
-古着と民藝には共通点を感じますか?
村山:古着が一点ものというのもありますし、デニムはワークウェアなので、もともとファッションとしてつくったものじゃない。それって民藝と同じで、生活のためにつくったものが、たまたま美しいということなんです。何千本、何万本とあるデニムのなかに色落ちの美しさを見出すという意味でも、古着と民藝の共通性を感じます。
提橋:大量生産と違って、同じお皿を焼いたとしてもひとつひとつ違いますもんね。古着も同じで、ものの「オーラ」みたいなものを感じる。それを感じた瞬間、値段を見るより先に「欲しい!これを買おう!」と思ってしまいます(笑)。
-徳島さんは家具をメインに扱っていますが、家具と民藝のつながりはどう感じますか?
徳島:工業製品としての家具に民藝らしさはありませんが、ジャンヌレも含め19世紀のものなんかは、基本の設計図はありながら工房ごとに全然違うつくられ方をする。同じ設計図なのに個人を介在することで個性が出てくるんです。ネジの数が違ったり、アールのつけ方が違ったり。そうなると、もはや民藝です(笑)。
-村山さんは以前、招かれた知人宅で民藝の世界に興味を持ったとおっしゃっていました。
詳細は【SAFARI GALLERY 村山佳人さんにきく、民藝の魅力】をご覧ください。
-お二人が興味を持ったきっかけは?
提橋:まだインテリアにあまり興味がないときは、食器も無難な白い食器を使っていたんです。でもあるとき陶器市に行って、小鹿田焼の器に出会った。飛びかんなの模様に惹かれて一式買って夕食を食べたら、食卓がすごく豊かになったんですよね。「これだ!」と思って一気に興味がわきました。
徳島:僕は買付けでヨーロッパに行くことが多いので、最初に出会ったのはフランスの民藝的なもの。個人がつくったスツールやテーブルを使ってみると、不思議と日本に合うんです。はじめはフランスのものをひと通り集めて、日本の骨董も混ぜて取り入れるようになりました。
-民藝を取り入れるうえで大切にしていることは?
提橋:テクスチャーでしょうか。木のものばかりを並べるより、木、石、革のように素材の違うものを並べる。ひとつのものに縛られずミックスするというのが僕にとっては重要なことかもしれません。器は日本のものが多いですが、家具は北欧のものを選んだり、ひとつのジャンルにとらわれず、日本のもの、ポストモダン、現代アート、いろいろなものを取り入れた空間が好きなんです。
村山:提橋くんの家はすごいよね、とんでもない物量がある(笑)。僕にとっての民藝は、静かで穏やかな生活を叶えてくれるもの。佇まいが大事だと思っています。だからあまりものは出さず、「今日はこれ」という感じで気分に合わせて選んで、あとはしまっておく。椅子も気分によって変えますね。部屋に置いてあるものを眺めて「ああ、いいな」って。メンタルを整える処方箋みたいなものなのかも(笑)。
徳島:僕も民藝だけを多く飾っているわけではなく、あくまで全体感を楽しんでいます。家具もジャンヌレばかりにはせず、フランスのなんでもないスツールとか、昭和の家具をミックスさせたり。あと、現代アートが好きなので、壁に飾るものをまず決めて、そこから全体のバランスをみて配置していますね。アートがあって、民藝があって、植物があって、工業製品もちょっと混ざっているという、自分のなかの黄金比があるんです。
-今回は「民藝を暮らしに取り入れる楽しさ」をご提案するイベントですが、さいごにお客さまにメッセージをお願いします。
徳島:今回は、見て、使って、持っていて楽しめるものを出品する予定です。世界中を回って集めた民藝を楽しんでください。
提橋:とにかく、好きなものに囲まれよう、ということですね!(笑)
村山:僕らは特定の考えにとらわれないことを前提としているので、イベントにも3人それぞれが思う「民藝」を持ち寄っています。ごちゃまぜなのに見事に調和するのが、民藝の懐の深さ。みなさんそれぞれの民藝の解釈、暮らしへの取り入れ方を楽しんでいただければと思います。
【出品アイテムの一部をご紹介】
SAFARI GALLERY 村山佳人
沖縄の陶芸が大好きという村山さんのセレクト。山田真萬さんによる「タラフー」と呼ばれる沖縄の蓋物です。「赤絵や呉須といった沖縄らしさが詰まった作品。これだけ大きいタラフーはめったに出ないです」と村山さん。
山田真萬作 呉州釉赤絵一尺蓋物 275,000円
(陶器/約直径29.2×高さ21cm)
同じく沖縄から大嶺實清さんの大鉢。「實清ブルーと言われる實清さんの代表的な色。自然の土、自然の釉薬でつくっているので、エネルギーがみなぎっています」
大嶺實清作 青彩大鉢 330,000円
(陶器/約直径43×高さ22.1cm)
アートとして飾れる刺子のアイテムもご紹介。「こんなに刺繍が入っている風呂敷はめったにないです。剣道衣の藍の退色は、デニムに通じるものを感じます」
左:刺し子風呂敷 99,000円
(木綿/約縦71×横75.5cm)
右:武蔵刺剣道衣 77,000円
(木綿/約肩幅58.5×袖丈29.5×着丈85cm)
anemone 提橋良太
提橋さんからも山田真萬さんの作品をご紹介。「赤絵は二度焼が必要なので、このサイズの壺をつくるのはすごくむずかしい。真萬さんの作品のなかでもいまは数少ないものになると思います」
山田真萬作 赤絵大壺 990,000円
(陶器/約直径27×高さ44cm)
こちらは “ボロ”と呼ばれる古布。「昔は服が擦り切れても刺子をして大事に着ましたが、どうにも使えなくなってしまったものは紐にして再利用する。それを編んで絨毯のようなかたちで残っているすごくめずらしいものです。クシャッと部屋に置くだけで、オブジェのような存在感があります」
古布 紐 495,000円
(綿/約横170×縦105cm)
提橋さんの偏愛アイテムである動物モチーフのオブジェ。「イヌイットアートのシロクマ(画像左から3番目)は蛇紋岩という石でできているもの。革でできたサイやウマなど、完成されすぎてない感じがいいんですよね」
左から:
jancraft "made in england" 99,000円
(革/約幅19×奥行28×高さ10cm)
wood object 16,500円
(木/約幅10×奥行10×高さ34cm)
<HENRY EVALUARDJUK>Inuit art "walking polar bear"
199,000円
(石(蛇紋岩)/約幅21×奥行42×高さ9cm)
leather object "horse" 33,000円
(革/約幅16×奥行18×高さ5cm)
Gallery Cilulu 徳島佑
徳島さんは「同じ設計図でも工房によってつくりが違う」という、半民藝的なアイテムをセレクト。「このアイアンレッグチェアは違いがすごくわかりやすい。アイアン部分の長さも違うし、座面の大きさもアールのつけ具合も違っていて、工業製品のはずなのに個性が出てしまっています(笑)」
<ピエールジャンヌレ>
アイアンレッグチェア 各600,000円
(チーク材・アイアン/約幅49×奥行50×高さ79cm・座面高さ42cm)
ジャンヌレの代表的なモデルであるフローティングバックチェア。とくに1960年代はさまざまな工房が制作していて個体差が大きい時代だそうですが、そのなかでもめずらしいのがこの一脚。「座面と脚部を固定する部分がボルトで留まっているというかなりレアなもの(通常はネジや木釘)。これまで何百脚と見てきましたがはじめて出会いました」
<ピエールジャンヌレ>
オフィスチェア フローティングバックタイプ 572,000円
(チーク材/約幅50.5(アーム含む)×奥行52(アーム・座面含む)×高さ79cm・座面高さ42cm)
名前の通り図書館などで使われていたライブラリーチェア。「オリジナルのモデルから年を追うごとに改良されているので、年代によって形が変化しています。今回はめずらしい初期モデルをご紹介します」
<ピエールジャンヌレ×チョードリー>
ライブラリーチェア 初期ロット 520,000円
(チーク材/約幅46×奥行44×高さ76cm・座面高さ42cm)
村山さん、提橋さん、徳島さん、それぞれの心をとらえた暮らしの民藝が一堂に会する「カタル×てしごと -暮らしの民藝-」。ぜひ会場でその世界観をお楽しみください!