各地でフェスティバルが開かれるなど、ここ数年で、より身近なものになった感のある「アート」。アートの持つ意味とは。そして、そもそもアートとは。インテリアの枠を超えた、暮らしの一部としての楽しみ方から選び方まで、伊勢丹が考えるアートとの付き合い方について、新宿店本館6階=アートギャラリーのショップマネージャー兼バイヤーである成田さんにお話を聞きました。
近年、アートがより身近なものになったと感じますが、そこにはどんな変化が?
「まずは、アートをどこで見るかが変わってきました。以前は銀座界隈に画廊や画商がひしめいていたんですが、現代アートの作家さんはもっと色んなところに出て行き、各地に散らばっています。それは大きな変化ですね」
アートの持つ意味や役割も変化しているのでしょうか?
「以前は富裕層の趣味や鑑賞用というイメージでしたが、今は“自分といっしょに毎日を過ごすもの”に変わってきています。見ることで元気づけられたり、モチベーションが上がったり。もちろん、所有することで承認欲求が満たされる、という一面も。アートに求めるものは人それぞれですね。暮らしへの取り入れ方も、壁のスペースを埋めるためのインテリアではなく、この作品が好きだから飾る、という作品ありきの考え方のお客さまが増えています」
気軽さという意味では、伊勢丹からはどんな発信を?
「年に数回、大学在学中や卒業したばかりの若手作家の展覧会を開催しています。数百点の作品の中から気に入った作家を見つけて、成長を追いかけながら応援していくという楽しみ方をされるお客さまもいらっしゃいますね」
もっとアートを楽しんでほしいということですね?
「アートギャラリーは今年の4月にリフレッシュオープンしたんですが、そのとき“Art is Heart”をスローガンに掲げました。ハートがこもった、お客さまに喜んでいただけるアートを提供しよう、という意味を込めて。そこには、アートをもっと楽しんでほしい、裾野を広げたいという想いも込められています」
ハートのこもったアートとは?
「そもそも何がアートか、という話になりますが。作家の心の中にあるものがはき出されていたり、そこに何かしらの提案が込められていないと、ただのインテリアになってしまいます。すごく難しいですが、単なるイラストとアートの違いはそこではないでしょうか。私たちは、ハートに訴えかけるような、そういう意味での本格的なアートを扱っていきたいです」
選ぶときのアドバイスはありますか?
「極端に言えば、好きか嫌いかなんです、アートって。展覧会などでも、その作品からは何も感じないと思ったらバイヤーは足を止めません。それはお客さまも同じで、琴線に触れるものがあれば自然と足が止まります。どうしてこの作品が自分の足を止めさせたのか。そこには、今の心境やこれまでの人生など、何かが影響しているはずなので、自分と向き合って反芻してみることですね。作品を選ぶときは、作者の名前などよりも、自分の直感を大切にした方が良いと思います」
店頭のスタイリストにこんなことを聞くと良い、というポイントは?
「作者の年齢や出身地も大事かもしれませんが、それよりも、例えば“この絵の中の鳥たちは会話しているように見えるけど、どう思いますか?”といったように、客観的な意見を求めてみてはいかがでしょうか。それは、家に飾ったときに自分だけでなく家族がどう思うか、そのヒントになるんです。こういう見方をする人もいるんだという、セカンドオピニオン的な利用法ですね」
購入するときに気を付けることはありますか?
「近年、特に現代アートはインターネットや通販でも簡単に購入できますが、肉眼で見るのと画面を通して見るのとでは全く違います。まずは自分の目で現物をしっかり見ること、そしてコンディションをチェックすることが大切です。ですから、インターネットなどで購入するときでも、実物を見ることができるかを確認することは重要ですね。伊勢丹でもアート作品をオンライン販売していますが、すべて店頭で実物を確認できます(要予約)。作者の心や想い、細かな技術などは、画像だけでは伝わりませんから。自分の目で見て、触れて、感じることで、アートをもっと楽しんでいただければと思います」
伊勢丹でそんなアートを楽しめるのが、2019年4月にリフレッシュオープンした新宿店本館6階=アートギャラリー。ジャンルは日本画から洋画、版画、工芸、彫刻、写真、現代アートまで幅広く。出品作家も国内外の巨匠から若手アーティストまで多彩に。3つのゾーンを設けて、伊勢丹のフィルターを通したアート作品を展示販売しています。
伊勢丹からのアート発信のメインとなるのが「アートギャラリー」。国内外の著名なアーティストから将来有望な若手アーティストまで、多彩な作品を週替わりでご紹介しています。また、作家の来場やトークショーなども随時開催しています。
※写真は取材時に開催していた「藤田理麻新作絵画展」
4月のリフレッシュオープンでアートギャラリー内の一角に新設されたのが「アートエディション」。伊勢丹の美術バイヤーの独自の審美眼によって選りすぐられた現代アートを、月替わりで発信している編集ショップ的なコーナーです。
※写真は12月16日(月)まで開催の「現代アート特集」
注目の作家をフィーチャーするほか、絵画作品に欠かせない額縁のカスタムオーダーも承っているのが「アート&フレーム」。親しみやすい作品の展示も多く、より気軽にアートを楽しむための入門編ともいえるスペースです。
※写真は取材時に開催していた「葉 祥明と世界の旅展〜そこに吹く風〜」
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