【インタビュー】
私の「いただきます。」
「ほぼ日」代表 糸井重里さん

「ほぼ日」代表 糸井重里さん

いとい・しげさと
1948年群馬県生まれ。「ほぼ日」代表。広告、作詞、文筆、ゲーム制作など多彩な分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げてからは、同サイトでの活動に全力を傾けている。著書に『ぼくの好きなコロッケ。』『他人だったのに。』『かならず先に好きになるどうぶつ。』(ほぼ日刊)ほか多数。

意外にもデパ地下好き。伊勢丹の食料品街へ来ると、特に揚げ物コーナーに惹かれてしまうという糸井重里さん。今回紹介してくれたのは、長年にわたり特別な思いを寄せる老舗のお弁当〈日本橋 弁松総本店〉の「並六」と<とらや>の「小形羊羹」です。さっそく、召しあがっていただきましょう。

旅の供や会社の催しで。長年食べているお弁当

「日本橋弁松総本店」の『並六』1折1,188円

「日本橋弁松総本店」の『並六(白飯)』1折2段1,188円。野菜の甘辛煮やめかじき照焼などのおかずでごはんが進みます。

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弁松のお弁当に出会ったのは大昔、僕が広告の仕事をやっていた頃です。
以来、旅の電車の中で妻と一緒に、会社の催し事ではまとめて注文したりなど、いろいろな場面で食べています。

弁松というと「江戸風の濃い味」と言われるけれど、特に意識したことはなかったですね。普通に、ごはんが進む味。お弁当って、最後にごはんが余ってしまうことがあるけれど、これはきれいに食べきれるんですよね。

では、いただきます。

「弁松のお弁当には“私”がある。作っている人の顔、その人の采配が見えてきます」

「弁松のお弁当には“私”がある。作っている人の顔、その人の采配が見えてきます」

「おいもは丸いままとっておいて、仕上げに一口でパクッと」

「おいもは丸いままとっておいて、仕上げに一口でパクッと」

今日、気がつきましたがやっぱり味は濃いめですね。
特に焼魚の味の染み込ませ方。長年のやり方で、濃い味の頂点を極めていると思う。

おかずの中で好きなもの……しょうがですね。
しょうがはすごく重要。一つおかずを食べるごとにしょうがに戻る、おかずとおかずをつなぐハブ、いや「世話役」という感じかな。

弁松には、きっと頑固な人がいるんだろうな、と感じます。
おかず一つ一つに真剣に向き合うと、作っているのが「人」ということ、人の采配で作られていることが伝わってきます。
かといって、家庭の味、お母さんの味とは違う。
「きっぷのいい」職人の味なんです。

唯一無二の、富士山のような存在

500年の歴史の中で培われてきた〈とらや〉の甘さは、誰にも真似ができないもの、と糸井さん。

約500年の歴史の中で培われてきた〈とらや〉の甘さは、誰にも真似ができないもの、と糸井さん。

気がつけば老舗を選んでしまいますね。やっぱりおいしいから。

甘いものも好きですよ。ときどき、おいしい甘味をちょっと食べたくなる。
次は〈とらや〉の「小形羊羹」です。

海外に行くとき、お土産に老舗のお菓子を何種類か、日本代表選手として持って行くんです。
〈とらや〉の羊羹もその一つ。
でもあるとき、違うなと思いました。
とらやの羊羹は、日本代表ではなく、羊羹代表でもなく、唯一無二の、富士山みたいな存在だって。

約500年愛され続けているもの作りの姿勢

〈とらや〉の「小形羊羹」 5本入/1箱1,620円。この斬新なスタイルが、すでに昭和5年に生み出されていました。

〈とらや〉の「小形羊羹」 5本入/1箱1,620円。この斬新なスタイルが、すでに昭和5年に生み出されていました。

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僕は〈とらや〉のお菓子が好きすぎて、工場見学にも行きましたが、知れば知るほど、会社そのものも好きになっていました。
人を大切にする社風、伝統を守る心と新しいことに挑戦する気概、その両方を持って物事に取り組み、ものを作り続ける姿勢がすごいなと思います。
だからこそ約500年続き、いまも多くの人に愛され続けている。

その長い歴史の中で、どれだけ大変なことがあり、その都度乗り越えてきたのだろうと考えると、会社をやっている者として、ただただ尊敬しかありません。

エースで4番。糸井さんが一番好きだという「夜の梅」からいただきます。

エースで4番。糸井さんが一番好きだという「夜の梅」からいただきます。

「うん、甘い。やっぱりこれじゃなきゃ」

「うん、甘い。やっぱりこれじゃなきゃ」

アルミ紙を剥いて片手で食べる小形羊羹のスタイルは非常に画期的。
並べ方が興味深いですね。やっぱりエースで4番の「夜の梅」が右端か。黒いあずき系で両サイドを固め、中心が白いあずき系ですね。

うん。今日も甘い。
この甘さが「とらやイズム」なんです。長い長い歴史の中で、なるべくしてなった甘さだと思います。
やっぱり〈とらや〉の羊羹は、誰も真似できない、唯一無二の富士山なんです。

2020年3月取材撮影