【インタビュー】
私の「いただきます。」
放送作家・脚本家 小山薫堂さん

放送作家 小山薫堂さん

こやま・くんどう
1964年熊本県生まれ。大学在学中から放送作家としての活動を始め、『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』『東京ワンダーホテル』など、数々の斬新な番組を企画、構成。初の映画脚本『おくりびと』でも高い評価を受け、国内外の複数の賞を受賞。熊本のイメージキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。

食通で知られる小山薫堂さんの登場です。伊勢丹新宿店の食品街愛用者でお気に入りも数々ありますが、究極の2品が<崎陽軒>の「シウマイ弁当」と<辺銀食堂>の「石垣島ラー油」。そのこだわりの食し方も合わせてお楽しみください。

口中調味が計算され尽くした素晴らしい完成度

崎陽軒 シウマイ弁当

「崎陽軒」の『シウマイ弁当』 1折 860円。シウマイを主役にたけのこ煮、玉子焼き、鶏の唐揚げ、あんずなど、おかずのバランスとごはんのおいしさにファン多数。 商品を見る

「崎陽軒」の『シウマイ弁当』とのお付き合いは20年くらいでしょうか。もともとシュウマイが特別好きというわけでもなかったし、最初は今ほど惹かれなかった記憶があります。

ところが、ある時ふと気づいたんです。
「お弁当としてのバランスが素晴らしい」と。

本来僕は、トッピングがあれば全部のせたいし、レストランでも裏メニューを求めてしまう欲張りな人間なんです。ところが『シウマイ弁当』を前にした時、「これでいい」という欲張らない自分がいた。

おかずやごはんの食べ合わせから生まれる“口中調味”の作業が計算され尽くされていて、なんて素晴らしい完成度なんだと。これがスタンダードの強みなのかと。残すものが一つもなく、すべて食べ切ったときのほどよい満腹感とかぎりない充足感は、何度食べても変わりません。

もちろん、西方面へ行く旅のお弁当も『シウマイ弁当』一択です。

「崎陽軒」社長の最初の一手に衝撃が走る

『シウマイ弁当』はよく、食べる順番が話題になりますよね。

僕にも長年変わらない食べ順があったのですが、崎陽軒の社長の食べ順を聞いたときは衝撃でした。

「最初の一手はなんですか」とうかがうと、
「小梅をずらします」と言われ、ガーン!と。
当然、シウマイだと思っていたのに。さすが家元、今まで考えたことのない手を見せられました。

崎陽軒 シウマイ弁当

ふたを開けたらあんずをいったんよけ、シウマイ一つずつにしょうゆを垂らし、からしをのせて準備完了。最初の一手は「小梅をずらす」。

社長はふたを開けたらまず小梅をずらし、下のほのかに塩けがついたごはんを食べるのだそうです。
「うちはごはんがおいしい。ごはんにこだわっているから」と言われ、参りました、という感じ。炊いているのではなく、蒸しているもちもちしたごはんのおいしさもこのお弁当の大きな魅力だと改めて気づかされました。奥が深い。

それ以来僕も、小梅をずらし、その下のごはんを食べ「今日もおいしいな」と確認するのが最初の一手になっています。

食べ順は74手。あんず、たけのこ煮も肝に

口中調味を楽しみながら決まった順番で細かく食べ進め、74手で食べ終わるというのが長年の習慣だったのですが、途中、一つ変わったのがあんずの順番です。

崎陽軒 シウマイ弁当

「あんずの存在も大きい」と小山さん。中盤で鶏の唐揚げの後に一口。最後にデザートとして一口。

もとはデザートとして最後に食べていたのですが、食べ込むにつれ、鶏の唐揚げとあんずの甘酸っぱさが非常に合うことを発見しました。今は中盤くらいに唐揚げを一口食べたらあんずを一口食べ、その組み合わせを楽しんでいます。

たけのこの存在も肝ですね。助演男優賞。
ごはん半俵→シウマイ半個→たけのこ煮→切り昆布&しょうが。この順番から生まれる口中調味を細かく、何度も繰り返します。

最後に仕切りをずらし、お箸を入れてきれいに始末できるところもいい。お弁当の命を全うさせていただきました、という充足感に満たされます。

崎陽軒 シウマイ弁当

「残すものが一つもなく、最後の始末もきれいにできる。お弁当の命を全うした満足感があります」

シンプルな料理こそおいしさがきわ立つ

辺銀食堂 石垣島ラー油

「辺銀食堂」の『石垣島ラー油』100g 983円。石垣島の食材や複数のスパイスでサクサクの食感と深い味わいが楽しめます。 商品を見る

僕は調味料好きで、とりわけラー油が好きなんです。でも「辺銀食堂」の『石垣島ラー油』と出会ったときは、ラー油そのものの概念が変わり、調味料の中でも脇役だったラー油が突然、存在感のあるものに変化しました。

にんにくなどのサクサクした具材の香ばしさ。シンプルな料理を、かけるだけでごちそうに格上げしてくれる。

辺銀食堂 石垣島ラー油

ゆでたもやしに『石垣島ラー油』をたっぷりかけ、レモンを絞る食べ方がお気に入り。

自宅にも事務所にも常備していて、よく使うのが餃子。あとはもやしですね。

辺銀食堂のホームページでも紹介されている食べ方ですが、もやしに『石垣島ラー油』をたっぷりかけ、レモンをひと絞り。
あっさりしたもやしに、にんにくのきいたピリリとした辛さ、レモンの爽やかな香りもいいアクセントになっています。

安くておいしいのに、いまひとつ注目されることのないもやしほど不憫な食べ物はないと思っていましたが、『石垣島ラー油』のおかげで、素晴らしい存在感を放つようになりました。

辺銀食堂 石垣島ラー油

あっさりしたもやしがどんどん進むおいしさ。「レモンサワーが飲みたくなりました」。

こんな風にシンプルな食材でおいしさがよりきわ立つので、うどんなどの麺類や冷奴などにもよく合いますね。

辺銀食堂 石垣島ラー油

冷奴には少量のしょうゆを垂らし、『石垣島ラー油』をたっぷりと。

品質のいいものが並ぶ食品街は究極のセレクトショップ

伊勢丹新宿店とは長いお付き合いですが、プライベートでもよく足を運びます。
お惣菜を買うこともあるし、ローストビーフを切ってもらったり、スイーツも買います。

食品街は究極のセレクトショップ。
品質の良いものが並び、それらを一カ所で買えるところが魅力です。そして行くたびに、ワクワクする出会いがあるのが面白い。

ただ、目に入ったものをおいしそう、と次々買っていくと大変なことになる。そこで僕は、その日の気分でコースを組み立てることにしています。

最初にメインディッシュを決め、それに合う前菜や副菜を決めていきます。
気分の軸がお酒のこともあるから、今日は日本酒で行こうとか、ワインを開けようなどと決めて、それに合うコースを組み立てることも。

こうしてあれこれ買い込んで休みの日、家でゆっくりと味わうのが幸せ。
それが自分なりの幸せの作り方なんです。