茶陶名窯探訪 ー其の壱ー 京焼・清閑寺窯

茶陶名窯探訪 ー其の壱ー 京焼・清閑寺窯の画像

茶碗や水指をはじめ、茶の湯にはかかせない陶器「茶陶」の数々。伝統やしきたりを重んじつつ、作り手の感性や思いが込められた茶道具は、茶の湯の世界だけでなく現代人の日々の暮らしを心豊かなものにしてくれています。
「茶陶名窯探訪」シリーズでは、全国各地にある陶器窯元の中から、多くの茶人に親しまれている茶陶窯元をご紹介します。

初回となる今回は、京都で五代続く名窯のひとつ「清閑寺窯(せいかんじがま)」をご紹介します。

清閑寺窯(せいかんじがま)のれん

京焼の歴史を紡ぐ「茶わん坂」

京の名所として名高い清水寺の参道、「茶わん坂」。ここは清水寺の裏参道にあたり、以前は清水新道と呼ばれていました。
最盛期には多くの陶器商が軒を連ねたことから「茶わん坂」と命名され、今日までその名は残っているものの今では多くの陶器商が廃業になったといいます。

茶陶を制作する清閑寺窯は、今も変わらずこの「茶わん坂」で作陶を続ける数少ない窯元の一つで、初代菊次郎氏、二代龍斎氏、三代祥平氏、四代祥平氏を経て、現在は五代・杉田眞龍さんが当主を務め、伝統を継承しつつ現代に息づく作品を制作しています。

京焼の歴史を紡ぐ「茶わん坂」

京焼の名窯「清閑寺窯」の再興

清閑寺窯は、もともと京都東山の清閑寺という寺院で使用する陶器を焼く窯として、安土桃山から江戸初期に成立しました。
明治になって清閑寺が衰退するに伴い、清閑寺窯も途絶えてしまいますが、その後明治初期に杉田家の窯が初代菊次郎氏によって開かれ、これが清閑寺窯の再興につながることになります。
二代龍斎氏を経て三代祥平氏の時代、清閑寺窯の再興を願った旧華族の清閑寺伯爵家に窯名を拝受することになり、それが再興「清閑寺窯」として今に続いています。

三代祥平氏は、古清水の流れを汲む作品に新しい感覚を取り入れ、色絵・交趾(こうち)を中心に独自の世界を築きました。
そして四代祥平氏も仁清・古清水の流れを継承する清閑寺窯の作風の伝承を最優先し、古清水の色彩美を現代に再生する作品を世に送り出しました。

このように清閑寺窯の作品は、仁清・古清水の流れを継承し、京焼の伝統とする重厚な造形美と典麗優美な桃山文化の色彩美を併せ持ち、現在に至っているのです。

京焼の名窯「清閑寺窯」の再興

華麗なる色絵の世界

清閑寺窯を含めた現在の京焼は、江戸時代と比べて「色数が増えた」ことが大きな変化です。
昔の京焼は登り窯で焼いていたため、火の温度管理が非常に難しく、微妙な色の差を出すことが困難でした。
江戸時代初期、野々村仁清の時代は青・紺・赤・金くらいの色数で焼いてたといわれていますが、今では電気窯に変わったことで繊細な温度管理が可能になり、現在の清閑寺窯では15色ほどを使用し多様な色彩の作品が生み出されています。

清閑寺窯は、色絵に特化した窯であるため、絵付に関しての妥協を許しません。
基本的に京焼は、色を乗せた絵付け部分が非常に盛り上がっており、横から見ると立体的な作品が多くありますが、清閑寺窯はその中でもより厚みを増して、より華麗な姿にすることを特色としています。
絵付を盛り上げると焼成時に絵の具が流れ落ちてしまうなどのリスクを負うため、ここまで厚みを出そうとする窯は少ないといわれています。

華麗なる色絵の世界

伝統と革新を求めて ~当代・杉田眞龍さん~

清閑寺窯当代・杉田眞龍さんは四代祥平氏の長女として京都に生まれ、京都芸術短期大学日本画専攻科を卒業後、京都府立陶工高等技術専門校、京都市工業試験場で陶技を修め、平成11年より清閑寺窯に入り、父の薫陶を受けました。

「伝統的な技術を習得し、それを踏まえた上で作品を考えなければいけない。伝統的な技術を怠ると自分勝手で独りよがりなものになってしまう。ただ、新しい技術や試みを試していき、革新的な精神を常に持ち続けていきたいと思う」

「学生時代に学んだ日本画の画力を活かし、模倣的に対象物を描くのではなく作品の中に他の道具と融合するような世界観を作り出したい」と話す眞龍さん。

伝統と革新を求めて ~当代・杉田眞龍さん~

「革新を行わないと惰性で仕事をしてしまうことにもなる。作家が制作を楽しんでいないと使っていただく方が楽しい気持ちが生まれない。かといって重みのある伝統は無視できない。仁清の時代がなければ今の京焼はなかった。その上に何を乗せていくのかという部分を探していきたい」

「新しい技法・意匠が必ず美しいとは限らない。かといって伝統をなぞっていくだけでは新鮮さが生まれない。一見矛盾なことを考えているようでも、今を生きる茶陶を作るものとして伝統と革新を生涯求めていきたい」と未来を見据えます。

仁清・古清水の伝統を受け継ぎつつ、絵付の華やかさを求めて新しい作風にも挑戦する当代・眞龍さん。
京焼の伝統を重んじながら、女性ならではの感性と現代の感覚を取り入れた絵付の作品は、今日も華やかにお茶席を引き立ててくれるでしょう。

 
清閑寺窯 五代・杉田眞龍(Maryu Sugita)
清閑寺窯 五代・杉田眞龍(Maryu Sugita)
<略歴>
明治初頭に創業し、のちに京都の名門公家である清閑寺伯爵家より窯名を拝受。
清閑寺窯・四代杉田祥平の長女として京都に生まれる。
京都芸術短期大学日本画本科・専攻科を卒業後、京都府陶工高等技術専門校・図案科卒業、京都市工業試験場を終了し、1999年より清閑寺窯に入り祖父・三代祥平、父・四代祥平に師事する。
2014年、京焼伝統工芸士に認定される。
2018年、ブルトウイユ城美術館(フランス)作品収蔵。
2020年、清閑寺窯 五代を襲名。

京都伝統陶芸家協会会員

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