~お茶のこころを伝える~ 父から子への手紙 令和六年・冬

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季節を五感で感じ、自然と一体となることで人生を豊かにしてくれる「茶の湯」の世界。
お茶をたしなむ父から愛する子にあてた手紙には、相手を思い遣るさり気ない心づかいや、現代人が心豊かに人生を送るためのヒントが散りばめられています。
お作法やしきたりはちょっと横において、暮らしの中で楽しむ「茶の湯」の世界を覗いてみませんか。

父から子への手紙 令和六年・冬

まもなく我が孫の誕生より一年。もう伝い歩きとのこと、早いものですね。
それにしても立派な手足だこと。しっかりと地を踏んでいる様子が伝わってきます。
この写真を見てすぐに「看脚下」(かんきゃっか)を思いました。
この言葉はその字の通り足元を見よという意味です。余計なことは考えずに、足元をよく注意して進めということで、まさにこの写真のこの子にかけてやりたい言葉です。
もう少し深い解釈をすると、自分自身への言葉になるでしょう。自分の足元を注意深く正しながら、これまでの歩んできた道を省みよ、自分を見直しなさいと。これまでの未熟に気付き、そしてこれから歩む道を正しく生きて行こうと決意を新たにする言葉です。
「看脚下」のお軸を掛けて今日はお母さんと一服いただくことにします。茶杓をどんな銘にするか思案中です。
寒さ厳しき折、みなさんお元気でお過ごしください。   父

  • 孫の画像

子から父への返信

芯から凍るような寒さが続いています。お元気ですか。
「看脚下」という言葉は子どもの頃に家族で京都に行った時にお寺の入口で見た記憶があります。こんなに深い意味にもとれるのですね。
子育てもいつの間にかハイハイから伝い歩きになり、ふと気付くと手をはなして尻もちをついたり、だんだんと目が離せなくなってきました。最近は立ち上がると視点が変わるのか嬉しそうによく笑います。
ところで茶杓の銘は何にされましたか。
こちらでは今、日本人の数寄者で、茶杓削りの海田 曲巷さんが展覧会をされています。
全国から集めた珍しい竹の材を使った茶杓に、作家思い入れの裂地の袋がついています。
その銘がとても含蓄があって面白いのです。
先日、展覧会に家族で行ってきました。海田先生の仙人のような風貌に驚きましたが、人生経験を積んだ人間でしか生み出せない飄々とした作風に魅せられてしまいました。
またご報告いたします。お元気で。

  • 茶杓削りの海田曲巷さんとその作品の画像

~お茶のこころを伝える~
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当 三宅 慶昌

初孫の誕生から一年、家族が直面する子育ての喜怒哀楽が伝わってきました。その都度、必死に対応して時は過ぎていきますが、後から考えるとそんなに悩むほどのことではなかったと思うことも少なくありません。
禅語はそんな時にやさしく私たちに寄り添ってくれます。
さて、茶道具の「銘」も茶席に彩りと深みを与えます。亭主のセンスで選ばれた銘はその茶会の趣向と評価を決定付ける重要な要素なのです。
多方面にわたり、たくさんの引き出しを持っていたいものです。

三宅 慶昌さんの画像
三宅 慶昌
日本橋三越本店 美術部 茶道・工芸担当
大学時代に成城大学名誉教授・清水 眞澄先生(現・三井記念美術館館長)に師事し、主に日本美術についての研究、造詣を深め、博物館学芸員資格取得。1991年株式会社三越に入社。新入配属として日本橋三越本店美術部の工芸・茶道具を担当し、以来30年にわたり茶道工芸を中心に作家とお客さまとの橋渡し役を務めている。
また、入社とともに茶道入門、知識と人脈を広げ、人間鍛錬の糧として茶の湯の精神を学んでいる。
プライベートでは、妻と娘二人の父であるが、ともに独立し、たまにSNSで娘たちと交流するのが楽しみ。

店頭イベント

海田 曲巷「実り×クリスマス」暮らしを楽しむ茶道
□2024年12月4日(水)~12月17日(火) [最終日午後5時終了]
□日本橋三越本店 本館6階 美術工芸サロン