永く愛用したい、料理が映えるシンプルな日用の器|日本のよいものを巡る旅 vol.18<たち吉>

暮らしを豊かにしてくれる日本生まれの名品の数々には、生産者の並々ならぬ努力や生まれた土地ならではの生産背景があります。連載「日本のよいものを巡る旅」では、ショップのスタイリストを通じてお伝えしている名品の魅力やストーリーをオンラインストアでも感じていただけるように、日本のよいものをその背景とともにご紹介します。連載18回目は京都の歴史ある食器ブランド<たち吉>をクローズアップ。<たち吉>は1752年に創業、今年2022年に270周年を迎えます。今も変わらず産地のものづくりにこだわり、日常使いしやすい上質な食器を作り続けています。
■<たち吉>の歴史
京の地で始まった歴史

<たち吉>の前身、「橘屋吉兵衛(たちばなやきちべえ)」が京都の中心地・四条富小路に誕生したのは、江戸時代後期の宝暦2年(1752年)のことです。周りには芝居小屋や茶屋が立ち並び、一昔前に隆盛を極めた元禄文化の栄華の残り香はまだまだ消えそうにもありませんでした。茶の湯の伝統がしっかり息づく京の人々は、日常の器に良い品をつかう喜びを知っていました。そんな目利き揃いの地で橘の家紋が入ったのれんを守り続けた、「橘屋吉兵衛」創業者の塚本 長九郎をはじめ、代々の当主たち。江戸時代が終焉して、明治という新しい時代を迎えても、そののれんは変わらず京の地ではためいていました。
何度も危機を乗り越えて、器を“ギフト”として提案

明治27年(1894年)、8代目当主 岡田 徳之助が屋号を「たち吉」と改称。大正、昭和と幾度かの戦火をくぐりながらも<たち吉>は同じ場所に建ち続け、太平洋戦争中の一時休業を経て、戦後まもなく営業再開しました。しかし、そのわずか4年後の昭和25年(1950年)、200年間も大切に受け継いできた店が、焼失したのでした。ただ、そこから奮起して、火事からわずか半年あまりで店を再建するまでになりました。新しい店舗で、世間を驚かせたのはセット陳列というアイデアでした。これまで主流だった同種類の器を重ねて並べる方法ではなく、忠次郎は「贈り物にしたくなるような、楽しい陳列を」と、違う種類を組み合わせて商品を展示しました。器のある暮らしの楽しさを伝え、器が“ギフト”になるという、これまでにない考え方を世の中へ提案したのでした。
どこにも売っていない創作陶器という新しい発想

「陳列演出」とともに、新たに打ち出したのが「創作陶器」という聞き馴染みのない肩書でした。言葉自体も珍しければ、「どこにも売っていない、独自で考えた商品」という言葉の意味も斬新。当時の陶器小売商は窯元から問屋が仕入れた商品をそのまま売るのが当たり前のやり方だったからです。それを<たち吉>では、小売商の方から窯元に注文して希望の商品を作ってもらい、売るという商売をしていました。この新しい「創作陶器」という肩書には、何より、使う人の心に寄り添い、暮らしの楽しさを贈る店でありたいという想いが込められていました。「しみじみと心に通う贈りもの」。このフレーズが生まれたのもこの頃です。器は機能的であることはもちろん、心を伝えるものでなければならない。それが新生たち吉の信念であり、決意でした。
■<たち吉>の器を手がける窯元を中心とした「産地のものづくり」について
人の手を加えすぎない、素朴な味わいをかもし出す器

古くからの陶どころとして知られる岐阜県土岐市の駄知の里。小高い起伏の中に窯の煙突が見え隠れするこの地に、中垣 連次さんの秀峰窯はあります。その特徴は、織部・志野といった伝統的な美濃焼の技法を現代の食卓を彩る器へ反映させる優れた美意識と、それらを支える優れた手わざにあります。中垣 連次さんは、土岐の古窯から出土する陶片に倣い、灰釉や御深井(おふけ)釉に、美濃焼のルーツに想いを馳せ、数多くの試作をしました。やがて、試行錯誤を繰り返すうちに、「灰釉」に出会いました。灰釉とは草木の灰を用いたうわぐすりのことで、自然から生まれる素朴で優しい淡い青緑色になります。これにより器の中心にビードロといわれる美しい釉薬のたまりが生まれます。「灰釉草文」は、一つひとつヘラで草文を描いた上に、天然の土灰を施しているので、釉薬が流れすぎたり、濁ったりと、まだまだ思い通りにならないことが起きますが、それぞれに個性のある、表情がある器になっています、と中垣 連次さんは語ります。
土に華を咲かせ、心に華を咲かせる器

京都山科にある窯元「陶楽陶苑(とうらくとうえん)」は、オーダーメイドで器を作り続ける京焼・清水焼の窯のひとつです。線彫りや刻印で連続模様を施し、白土を埋め込んだ印花という技法が特徴の三島をルーツとして、繊細な模様に気品を備えた色合いの器を「京三島」として独自に発展させました。「その昔、焼き物は自然と一緒だった。木を灰にしたものを使うとか。その分出来上がりは安定しない。でもそれが焼き物の面白さ。」そう語る三代目が手がける「京三島」は、日々の暮らしに花を咲かせ、心地良さをもたらしてくれます。
凛とした佇まいの器
人気シリーズ「白菊」は、永く親しまれてきた伝統的な菊割の形状を受け継ぐ器です。凛とした佇まいを出すために、ここまで薄手にこだわった口元は、数多くある菊割の器を見渡しても、なかなか出会えるものではありません。薄手の口元だからこそ、食卓に花開くような一層の美しさを演出します。白一色の清らかさも「白菊」の魅力のひとつ。どこか爽やかさを感じる白の色目は、料理を引き立てるだけでなく、ほかの器ともよく調和します。料理を盛りつければ美しく、デザートを盛りつければ可愛らしく。
青磁の濃淡が水をたたえたうず潮のように
透明感のある青白磁釉の濃淡が描き出す、うず模様のレリーフ。薄く立ち上がった、波打つような縁のあしらい。静かな佇まいの中に、自然が生み出す変化を写し取った器は、暮らしの時間にすっと溶け込みます。悠然とした海のように、飽きの来ない懐の深さも、また魅力。柔らかな曲線が食卓の雰囲気を優しく和ませ、どんな料理とも調和する、清々しい器です。重なりも良く軽く、磁器で扱いやすい器でもあります。
伝統的でありながらもすっきりモダンな京唐草
蔦が絡まりながら広がっていく様子から、長寿や子孫繁栄の象徴として親しまれてきた唐草。その伝統的な文様を、気品溢れるセンスで描きました。すっきりとした線が美しい、モダンな仕上がりです。白磁に描かれた上品な色合いは季節やシーンを選ばず、おもてなしにも重宝。落ち着いた趣があり、飽きを感じさせません。暮らしに寄り添う器として、多くの方々に永く愛されています。
初霜の降りた白菊のような風情
伝統美のひとつである菊花を、ガラスの器で表現。口元に施した磨りガラスがアクセントになり、初霜の降りた白菊のような風情を醸し出します。清楚な涼感が夏の暑さを忘れさせ、やさしい透明感が料理を瑞々しく引き立てる。透きとおった美しさの中にも親しみが感じられる、可憐な器です。
自然の彩と安らぎをそっと添えてくれる日常の器
優しい肌合いの生地に映える、水彩画のような樹木絵は、かくれみの・むくのき・やしゃびしゃく・まるばのき・やまももの5種類。多くの色を重ねて微妙な色合いを再現しています。料理の邪魔をしない広い余白は、自然の彩と安らぎをそっと添えてくれます。