石川県<輪島キリモト>木とうるしのちから|今知りたい。日本のよいものを巡る旅 vol.3

三越伊勢丹の店舗に並ぶ素敵な商品たち。その裏側には生産者のたゆまぬ努力や、その土地ならではの背景が存在します。普段はスタイリストが店頭でお伝えしているストーリーを、三越伊勢丹オンラインストアでも同じ熱量で知っていただけるように、この連載を始めました。第3回目は石川県の<輪島キリモト>。輪島塗というと高級で手が届かないイメージを持たれるかもしれませんが、<輪島キリモト>では「いつものうるし」をモットーに、普段使いできる漆器を提案しています。
<輪島キリモト>とは?
石川県輪島で約200年以上、モノづくりに携わっている<輪島キリモト>。昭和初期には「朴木地屋・桐本木工所」として、器に漆を塗る前の基礎となる「木地作り」を生業としていました。しかし時代とともに輪島塗の需要は徐々に減少。そこで七代目の桐本 泰一さんは、分業制が主流だった製作工程を木地から漆塗りまでの一貫生産へと変更していきます。
毎日使える、シンプルで使いやすいモノづくり
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七代目の桐本 泰一さん
工房を訪れて一番に感じたのが、桐本 泰一さんの熱量の高さ。輪島塗の現状に課題と可能性を感じ、さまざまなデザインを自ら手掛ける傍ら、“暮らしを愉しむ”をモットーにデザイナーと積極的にコラボレーションを持ちかけ、今までにない漆製品を生み出してきたというのも納得です。また、お客さまの要望に合わせて色々な形の器が作れるのも、<輪島キリモト>の根底にある木地屋という役割を活かせるからこそ。塗物作りの最初の工程である木地から変えることで、新しい試みにチャレンジすることができるのです。
桐本さん:東京進出のきっかけとなった日本橋三越本店への出店は、2004年。当時の女性バイヤーさんから「新しい和のコーナーを創るので出店を検討いただけませんか!」という申し出をいただいたときはとても悩みました。いろいろな方にご意見を伺ったところ、出店すべきという意見と慎重になるべきという意見は半々でしたが、4日後には出店のお願いをするために上京しました。
お客さまのご意見やご指摘といった生の声は私たちにとって金言ばかり。たいへん参考になりました。同じフロアに出店されている方々や担当の社員さんとも交流でき、輪島では得ることのできない貴重な情報をモノづくりや販売方法に活かしています。
<輪島キリモト>ならではのこだわりの製法

桐本さん:まず輪島の塗り物はほかの産地と異なり、しっかりと“布着せ”されているのが特徴です。布着せとは漆を塗る前の段階で木地にしっかり布を巻いて、器が欠けたり弱くなるのを防ぐ技法です。これのおかげで世代を超えて長く使い続けることができます。輪島の塗り物は一見、高価に感じられるかもしれませんが、何十年も使えると考えるとコストパフォーマンスはとてもよいと思います。
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左:蒔地技法を使用したマグカップ
右:地塗り千すじ技法を使用した椀
【蒔地技法】
下地の蒔地技法を応用した独自の技法。本来は布着せと同様に上塗りをする前の段階で素地を強化するために、ざらざらとした珪藻土を焼成粉末にした「地の粉」を混ぜた下塗りを施しますが、<輪島キリモト>では下地と外側にこの「地の粉」を採用。手に取るとマットな感触で金属のスプーンなどを使っても傷がつきにくくなっています。
【地塗り千すじ技法】
職人の手の動きによってできる、いくつもの「すじ模様」を器の表面に留めた、独自の技法。表面の硬度が高いため、擦れに強い点が特徴です。
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左:漆布みせ技法を使用した板皿
右:<輪島キリモト>が手掛けた内装
【漆布みせ技法】
木地に<輪島キリモト>オリジナルの麻布を張り、輪島の地の粉・砥の粉で強度を高めて漆を塗り込む技法。表面硬度が高いため擦れに強く、布目が美しく見えます。こちらもカトラリーが使用できるので、フレンチレストランなどでも重宝されています。
【漆の家具】
輪島塗の家具木地も手掛けてきたノウハウを活かし、家具を創り出しています。強度を保ちながらもふっくらとした奥行きのある表情や優しい手触りなど、漆ならではの心地よさが魅力です。家具以外にホテルやレストランの内装も手掛けています。
「よいもの」を時代にマッチした伝え方で
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豆カンナを使用して工房で仕事をする職人さん
最近ではZOOMを使ったトークイベントや工場見学にチャレンジしている桐本さん。今後の展望を伺いました。
桐本さん:心掛けているのはお客さまに「何がよいのか」をきちんと伝えることです。以前ならば店頭でお客さまと直に接し、「よいものですよ」とお伝えすれば売れていたかもしれません。しかし今はスマートフォンで自ら情報を探す方がほとんど。時代に合わせてデジタルを活用した伝え方に変えただけです。ZOOMを通じて普段見ることのできない職人の作業工程を見ていただければ、いかに塗り物が「よいもの」なのかを実感していただけるはず。日本にはこんなよいものがあるということを知ってほしい、それだけです!
この夏には輪島工房に隣接した新しい店舗もオープン。若手の職人さんも多く活気のある<輪島キリモト>。ご興味を持たれた方は、世の中が落ち着いたらぜひ輪島にも足を延ばしてみてください。