「ポーの一族」×三越伊勢丹
花の一瞬の命を永遠に。植物標本という新しい花の楽しみ方を生み出した興津 理絵氏のアトリエを訪問。
液体の入ったガラス瓶で花を長期保存するフラワリウム(FLOWERiUM®)を開発し、現在の植物標本の流行を生み出した興津 理絵(おきつ りえ)氏に、『ポーの一族』とのコラボレーション商品の制作を依頼。「最初は販売するつもりはなかった」というフラワリウムはどのように誕生したのか。日本橋三越本店の担当バイヤー石井がお話を伺いました。
はじまりは病室の知人に花を届けたいという強い想いから
石井:本日はよろしくお願いいたします。まず興津さんがフラワリウムを開発されたきっかけを教えていただけますか?
興津氏(以下 興津):はい。私はもともと大学病院で勤務していて、ずっと医療の現場で働いていくのだろうなと思っていました。
一方、私には心臓の弱い姉がいたので幼い頃から病院で過ごすことも多く、姉や母が花に癒やされるという話を子どもながらに聞いていたり、大学病院で働いている時も言葉をあまり発しなくなってしまった患者さんが病室から見える桜を見て、ぽろっと言葉をこぼす様子に、自然の花や植物が人に与える力は感じていました。
そんな時、私が勤務していた病院に知人が入院することになり、お見舞いの花を持っていきたかったのですが、今は水や土に含まれる菌の関係で生花が持ち込めなくなってしまっていたのです。一昔前は、病院の1階や近所にお花屋さんがあったのですが、最近は少なくなりました。
石井:そうなのですね。病室に花を持ち込めないのは寂しいですね。
興津:そこで「どのようにしたら花を病室に持っていけるだろう」と考えたのがフラワリウムを作るきっかけでした。
完成したフラワリウムがとても喜ばれて私も嬉しかったですし、それを見た病院のスタッフやそのご家族から「私も作ってほしい」と言われるようになり、気づいたら口コミでどんどん広まって百貨店さんからもお声がけいただけるようになったのです。
最初は販売していこうとか、ましてや会社にしようなんて思ってもいませんでした。
特許も取得した科学的知見に基づく保存と演出技術
石井:素敵なエピソードですね。当初から液体に花を保存させるというアイデアがあったのですか?
興津:最初は既存の技術で試してみたのですが、酸素に接触して色素が壊れてしまうなど色を保つことが難しくて。
真空にしたり酸素ではない気体と置換したりする方法も考えましたが、最終的に液体に閉じ込める方法に至り、開発したのが弊社のフラワリウムになります。
石井:フラワリウムの保存手法は特殊なものなのでしょうか。
興津:フラワリウムができてから世の中でさまざまな類似品が出てきたのですが、特許を取っているのは弊社の技術だけです。
よく「すごい保存液に入っているのですよね」と聞かれるのですが、どんな花もこの保存液に浸けたら保存できるかというとそうではなく、花自体の処理加工など手前の作業も重要です。あくまで最後にこの保存液に入れることで封入できているのです。
あとはお花の配置やバランスですね。沈んでしまったり浮いてしまったりと、見栄えよく配置させるのは結構難しいです。特許の内容も実はそちらの方が主体になっていますね。
石井:酒瓶に入っているものもあるのですね。
興津:インテリアとして可愛いものにしたくて、瓶もバリエーションを増やしていきました。
オーダーメイドのご依頼も多いですよ。プロポーズなど特別な日のために花言葉から選ばれたり、瓶の形状にこだわられたり。ご希望を伺ってスタッフが一つひとつ手作りしています。
石井:世界に一つだけのフラワリウムが作れると。
興津:花にあまり馴染みがないと「花屋さんでどんな花を買っていいかわからない」とか、「すぐに枯れさせてしまうのが嫌」とか、本当は花を飾ったり育てたりしたいのにネガティブな要素を感じてしまっている方が実は多いように思います。
私は、花は命あるからこそ、枯れるからこそ綺麗なものであると思うので、最終的には本物の生花を楽しんでほしいのですが、その前のワンクッションとしてフラワリウムを取り入れてもらえたら嬉しいですね。
バンパネラの永遠の命をイメージさせるコラボアイテム
石井:今回『ポーの一族』の企画では、アイテムを長く楽しめるということに焦点を置いています。最初はフレッシュフラワーも考えていたのですが、どうしても早く散ってしまうので「永遠の時をめぐる旅」という企画のテーマにそぐわないのではないかと思い、興津さんへご相談させていただきました。
興津:ありがとうございます。今回はフラワリウムとプリザーブドフラワーの二つをご用意させていただきました。
作品とバンパネラのイメージから赤いバラ、そしてフラワリウムは庭園をイメージしてバラも複数にしてグリーンも配置しています。
パッケージやリボンには、萩尾先生の描きおろしイラストのバラを図案化して取り入れます。
石井:バンパネラの永遠の命、一番綺麗な状態を閉じ込めているという点で親和性がありますよね。
興津:フラワリウムを楽しめる年数は約3年と謳っていますが、腐ったり枯れたりということはしないので、直射日光に当たるようなところに置かなければ色落ちせず長く楽しんでいただけると思いますし、当たっても色が少し退色するくらいです。そちらの棚のものは5、6年経っていますね。
石井:興津さんと『ポーの一族』との出会いは?
興津:私自身は、今回のお話をいただいて読ませていただきました。ただ、母に話したら「知ってる!」と言って、自分の単行本を持ってきてくれて(笑)、昔からすごく好きだったようです。叔母も好きで家族内で「あの話はどうなった?」という話題で盛りあがりました。
「絵が綺麗」と何度も言っていて、当時はこういったイラストの漫画がなくて衝撃的だったと聞いています。
石井:刊行された当時は美麗なイラストが衝撃だったようですね。見開きやコマをまたいで描写するなどドラマティックに描かれているのも先駆的な表現だったと伺っています。
今回、店頭での展示を合わせて行いますので、興津さんもぜひご家族でいらしてください。
興津:楽しみですね。どんな展示になるのですか?
石井:作品のアート的な要素に着目して、マンガのコマを上から吊るなど大きく見せることにこだわった展示にします。描きおろしイラストは特に大きく掲示します!
興津:描きおろしイラストも萩尾先生が今回のために特別に描いてくださったと聞きました。
石井:そうなのです。まさか描いてもらえるとは思わなかったので私たちもとても喜んでいます。
興津:没入できそうですね、きっと楽しいと思います。
石井:会期はゴールデンウイークや母の日も含めて3週間とたっぷり取っています。
先生はファン層が非常に幅広く、興津さんのようにお母さま世代がファンという方も多いと思うので、母の日のギフトとしてもおすすめです。
興津:弊社の20代のスタッフやそのお友達も好きだと言っていましたよ。
石井:本当ですか、以前NHKのスペシャル番組『100分de萩尾望都』で特集されて、先生の最近の作品から入る若いファンの方も多いみたいですね。
コラボレーションをきっかけに作品の世界にもう一度触れてほしい
石井:最後に『ポーの一族』のファンの方へメッセージをお願いします。
興津:素敵な作品だと思うので、このコラボをきっかけにまだ作品を読んでいない方はぜひ読んでいただきたいですし、昔読んでいた方も新しいシリーズが出ているのでもう一度楽しんでいただけるきっかけになればと願っています。
永遠の美しさという点で作品と弊社のアイテムの親和性は高いと感じていますので、フラワリウムでバラの美しさと作品の世界観を長く楽しんでいただけたら嬉しく思います。
石井:ぜひ、単行本と一緒にお部屋に飾ってほしいですね。ありがとうございました。
お話を伺った方