銀河英雄伝説 Die Neue These 伝統工芸コラボレーションを手掛ける成田商事株式会社社長が語る、IP×伝統工芸の影響力とは?
昨今、アニメやマンガといったIPと日本の伝統工芸のコラボレーションが話題になることが多くなった。そんなIP×伝統工芸を数多く手掛け、全国の職人や工房とネットワークを持つ成田商事株式会社社長の成田 裕司氏は、IP業界からの信頼も厚い。今回は「ヤンとユリアンの安らぎティーセット」と「自由惑星同盟 作戦会議室用カップホルダー」を手掛けた成田氏に、会社を立ち上げた経緯やIPコラボレーションが日本の伝統産業に与えている影響についてお話を伺いました。
はじめに、成田さんが会社を立ち上げた経緯を教えてください。
私は商社に入社後、銀行への転職を経て独立をしました。もともと旅行好きが高じて全国の職人さんたちと仲良くなり、「斜陽的な産業で次世代の担い手も少ない、しかし物はいい」という話をたくさん聞いてきました。そこで、右肩上がりとまではいかなくともせめて横ばいにできたら、という想いで独立しました。
取り組みはいつ頃から?
2011年に会社を設立しました。最初の1・2年は伝統工芸品の新しいデザインや使い方を提案していました。しかし、マーケットが従来と変わらないため、そこまでヒットはせずにどうしたものかと悩んでいました。
そんな折、たまたま東京一番街(東京駅)で、とあるIP*の催事をやるので何か作れないか、というお話をいただきました。当時は、まだIPと工芸品の組み合わせは珍しかったので大丈夫かな?と内心は少し不安だったのですが、蓋を開けてみたら大きな反響をいただきました。そこから、IPと工芸品のコラボを手掛けるようになりました。それが大体8年くらい前の話です。
*:IP=知的財産。アニメ・映画・ゲームのコンテンツやキャラクターのこと。
ノイエ銀英伝の制作が発表された時期と重なりますね!成田さんのようなお仕事は当時珍しかったのでしょうか?
全国の職人さんの商品を扱ったりオリジナルアイテムを作ったりという流れ自体は珍しいわけではありません。三越伊勢丹さんもそうした取り組みをされていますしね。
ただ、うちが珍しいのはIPに特化しているところです。IPのことも職人さんのこともわかるので、そうした点で重宝していただいているように思います。
成田さんにはコラボレーション第一弾の時から関わっていただいています。ノイエ銀英伝のオファーが来た時の印象はいかがでしたか?
実は私自身も作品のファンでして、ストーリーや世界観は知っていました。
ですので、オファーをいただいてすぐに、いくつか案を提案してできあがったのが「ヤンとユリアンの安らぎティーセット」「輝く銀河のご朱印帳」「銀河チェス」でした。
コラボレーションアイテムを企画する際の想いや気をつけていることはありますか?
素晴らしい工芸品だけどIPと合わないということはよくあります。
作るだけなら簡単ですが、ファンが共感しないものを作りたくはない。作品の世界観と合っていたり、コンセプトを納得してもらえるような掛け合わせでないといけないと考えています。今回のように、自分に銀河英雄伝説への想い入れがある場合、お客さまの目線から離れてしまう可能性があります。そこは仕事として行き過ぎないように企画を考えました。
お気持はよくわかります!好きな作品ほど客観的な目線に立つ必要がありますよね。
好きなものを作っていいよ、と言われたら途方もないものを作ってしまうと思います(笑)。あとは値段ですね。工芸品の値段というのは素材にかかる価格はもちろんですが、職人さんの作る時間や労力・技術といった「手間暇」で決まるということを理解してもらいたいです。だから、安くはしたくない。ただ、一方で値段を抑えないといけない時もあります。そうした時は、こちらもある程度工程がわかりますので、「ここの工程をこう工夫したら安くなりませんか?」という形で価格の収束をさせるようにしています。
成田さんの、職人さんのお仕事を大事にされている気持ちが伝わってきました。それでは、今回のコラボレーションアイテムについてもお伺いできますか?
今回は、第一弾とは蓋のデザインを変更した「ヤンとユリアンの安らぎティーセット」と、「自由惑星同盟 作戦会議室用カップホルダー」をご用意しました。
まずティーセットですが、制作は有田の「李荘窯(りそうがま)」という窯元にお願いしています。こちらは国内外のミシュランの星付きレストランでも器が使用されているほどの窯元です。
10年ほどお付き合いさせていただいていて、いつも想像以上のものを作ってくださいます。
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ヤンとユリアンの安らぎティーセット 38,500円
李荘窯さんがIPコラボレーションをやってくださるとは私たちも驚きました。今回は蓋に銀河の星空をイメージしたデザインを加えていますが、李荘窯さんの反応はいかがでしたか?
快く受けてくださいました。一般的に使われる転写シートではなく、星に「雲母銀*」を使用しました。「雲母銀」はマット調でありながらキラキラすることから高級感があり星空には合うと、今回も一つ上のご提案をしてくださいました。
*:雲母銀=鉱石の一種である雲母を原料として作られた絵具。
カップホルダーはどちらの工房で?
工房は御朱印帳も作っていただいた和歌山の蒔絵を得意とする漆工房です。
アニメの中で登場したカップホルダーに、自由惑星同盟の紋章を“蒔絵”の技法を応用して施しています。
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自由惑星同盟 作戦会議室用カップホルダー(2点セット) 3,850円
当初は私も、それほど難しくなくできるだろうと思っていたのですが、いざやってみると従来のやり方ではホルダーの素材にうまく定着できなくて・・・。
そこで、素材を変えながら約1カ月間トライアンドエラーを繰り返しました。ですので、一見シンプルですが、労力がかかっているアイテムです。紋章も型は作りますが、一つひとつ職人さんが手作業で蒔絵*を施しています。
*:蒔絵=漆で描いた模様に、漆が完全に乾く前に金粉や銀粉を“蒔く”ことで装飾をする日本の伝統的な技法のこと。今回は漆ではなくそれに類似する定着材を使用している。
職人さんとの長年の関係性があったからこそ、できあがったアイテムだということがよくわかりました。成田さんは普段、どのくらいの職人さんや工房とお付き合いがあるのですか?
私は伝統的工芸品振興協会の賛助会員なので、経済産業省に認定された伝統的工芸品を扱う工房や職人さんとコンタクトが可能です。
しかし、アニメやマンガとのコラボではキャラクターや世界観を表現しなければならないので、全部の工房が対応できるかというとそうではない。最近は取り組んでいただくところが固定化されつつあるので、対応していただける新規の職人さんや工房を見つけないと、とは思っています。
アニメやマンガとのコラボレーションアイテムを作ることへの職人さんの反応はどうですか?
IPとのコラボの場合、職人さん本人ではなくご家族が知っている場合が多くて、「え!おじいちゃん、あの作品の仕事をしているの?すごい!」というお話になったりもするようです。案外、職人さんたちも喜んでいますよ。
今、感じている課題とチャレンジしたいことを教えてください。
日本の伝統工芸品は、世界に通じる素晴らしい、いわば美の極地です。しかし、価値観やライフスタイルの変化によりあまり日常で使われなくなってきました。
使われなくなると当然、売上も減っていくので、生きていくため、作り続けるためには時代に合わせないといけない部分もあると考えています。
一方、合わせられる部分とそうでない部分もある。そこは、私が第三者的な視点で、守るべき技術やこだわりは持っていただきつつも、「今、世の中はこういう状況になっているから、こういう方向にしましょう」など提案をしながら、次の世代に技術を遺していけたらいいなと考えています。
最後に作品ファンへメッセージをお願いします。
アイテムを通じてノイエ銀英伝はもちろん、伝統工芸のことを知っていただければ嬉しいです。まずは知っていただくこと、それが職人さんの仕事につながります。
従来の工芸品のマーケットだけではお客さまも限られますし、ノイエ銀英伝をはじめ、さまざまなIPとコラボすることによって、皆さんのような新しい層が実際に使うことで、「日本にはこんないいものがある」ということを知ってもらいたい、というのが私の希望です。
お話を伺った方
その間、伝統工芸品の職人さんたちと知り合う機会があり、伝統工芸品産業に魅せられ、独立して成田商事株式会社を設立し、日本の伝統工芸品と有名キャラクターとのコラボレーション商品の企画・卸業を主に行う。
「日本の伝統美術を世界へ」のキャッチフレーズの元、日々新デザインを開発中。
この革新的な事業展開が評価され、「有田焼堺包丁」で2017年に有田国際陶磁展最高賞(経済産業大臣賞)、及び、おみやグランプリ全国審査員賞(韓国)を受賞している。
©田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会