ゴジラ70周年企画記念インタビュー : アーティスト/イラストレーター澁谷 忠臣氏の原点と現点。四半世紀の画業を振り返って。

ゴジラ70周年企画記念インタビュー:アーティスト/イラストレーター澁谷 忠臣氏 のメインビジュアル

2024年7月31日(水)より日本橋三越本店でゴジラ70周年を記念したイベントが開催される。
メインビジュアルを担当するのは、グラフィティアートの流れも取り入れながら直線と面で対象を再構築する世界的なアーティスト澁谷 忠臣氏だ。本記事では四半世紀におよぶ画業を振り返りながら、国内外に多くのクライアントとファンを持つ、澁谷氏の原点と現点を掘り下げていく。

ーまずは澁谷さんの原体験についてお伺いします。子どもの頃から絵やアートに関心があったのでしょうか?

そうですね。子どもの頃から絵は好きでずっと描いていました。僕の世代というのもありますがロボットアニメが流行していた時代で。幼稚園で絵を描く時間があり、そこで戦隊ヒーローのロボットを描いたらクラスの子達から「すごい!」と驚かれたことは今でもはっきりと覚えています。小・中学校の時には、イラストコンテストが毎月ありまして、皆が自由に描いた絵を張り出して誰が一番上手いか順位を付けるんです。周りも絵が上手い子が何人かいて、その子たちと競い合っていましたね。そういった人から褒めたれたり感動してくれたりしたことが、今でも絵を描き続けるきっかけなったと感じています。

幼少期のスケッチノートの画像
貴重な幼少期のスケッチノートを見せていただいた。「設定を考えるのが好きなんです」という澁谷氏。さながら設定資料集のような描き込みに、当時から異彩を放っていたことが伺える。

ー影響を受けた人物はいますか?

当時のアニメーションや少年誌のマンガにはとても影響されましたね。それと、僕の実家は祖父の代から看板屋を営んでいまして、そこで昔気質の職人さん達が文字をフリーハンドで仕上げていくのを間近で見ていて「かっこいいな」と思っていました。

グラフィティ*に関して言えば、桜木町(横浜市)の高架下がグラフィティの聖地と言われていまして。その頃はロコサトシさんというグラフィティを日本に持ち込んで来たと言われている人がいまして、ロコさんの絵がすごく好きだったんですよ。小学生の時、父の車に乗せてもらって高架下の横を通りながらその絵をみるのが楽しみでした。

*:グラフィティ・アート、ストリートアートとも呼ばれ、高架下の壁などに描かれる文字やイラストのこと。

ー美術大学をご卒業されていると伺いました。入学する頃から絵を仕事にすることを考えていたのですか?

実は、最初は美大に進学することはあまり考えていなくて。ですが、長く親しくしていた小学校の頃の担任の先生から「美大に行ったら?」と背中を押され、真剣に考えた結果、美大という道もありかなと。ただ、周りに画家とかアーティストという人がいなかったので、絵も描きながら将来的に仕事に繋がりそうだなと工業デザイン学科を選びました。授業では、プロダクトの問題点を見つけて、それを解決するために今までにないアイデアを0から考えていくのですが、僕は最終的なデザインよりも、アイデアを考えるプロセスがとても面白く感じたんです。

イラストレーター澁谷 忠臣氏の画像
澁谷氏の横浜のアトリエにお招きいただきインタビューを行った。澁谷氏の気さくな人柄で、取材陣の緊張もほぐれ会話も弾んでいった。

ー卒業後はすぐに絵の道に?

いえ、初めは立体作品が作りたくて造形作家になろうと考えていました。ですが、例えばカッコいい車を立体で作ろうと思ったら、材料を削り出すなど時間がかかりますよね。一方、アイデアを形にするという点では、紙とペンがあればできるなと思って。それでイラストレーターもいいかも、と。ですが、元は立体を作っていたので、イラストでも空間やレイヤー感は意識してこだわっているところではありますね。

ー澁谷さんの絵は迫ってくるような立体感を感じますが、プロダクトや立体作品を作ってきたご経験が活きていたのですね。その後、絵のお仕事も少しずつ増えていったのですか?

いえ、あまり仕事には繋がらなかったですね。しようと思っていなかったのかも。探求する方に行ってしまったんですよ。ですから、バイトを結構長くしながら、試行錯誤を繰り返していました。

ー最初から今の絵のスタイルではなかったと。

その頃はもっとコンセプチュアルな絵でした。「イラストレーション」という雑誌に初期の絵が佳作に選ばれはしましたが、自分としても「これだ」と思えるスタイルに行き着かなくて、その後も応募は続けましたが結果は伴いませんでしたね。

コンペで佳作に入賞した初期の作品「犬のしくみ」の画像
題「犬のしくみ」。コンペで佳作に入賞した初期の作品。

ーどのように現在のスタイルに行き着いたのでしょうか?

イラストの仕事をすると考えた時に、風景と人物は必要だろうと考えてグラフィティのような文字が建築物のようになって、そこに人が立っているという絵を描いたんです。その時、建築物のラインを人物に混ぜ込んだら描けるかなと思って、チャレンジしてみたのですが、描き上がったのを見て、「あれ、これは見たことないぞ」と。

作品の画像
建築物と人物を描いた作品の一つ。ここから現在のスタイルが段々と確立していったという。
澁谷氏の制作現場の画像
澁谷氏の制作現場。過去のスケッチや絵も惜しげもなく見せてくださった。

それから同じスタイルの絵を描くようになり、「イラストレーション」のコンペにまた応募したんです。その時の審査員にジョン・C・ジェイ氏というアメリカの大手広告代理店のトップの方がいて、その方が僕の作品を選んでくれたことで初めて雑誌に載ったんです。嬉しかったですし、その後、佐藤 可士和さんが「これからが楽しみですね」とコメントを書いてくださったこともモチベーションに繋がりましたね。

同じ頃、知人の紹介でアメリカのアートディレクターが企画したグループ展に参加した際に、ロンドンのイラストエージェンシーの方が僕を見つけてくれて、そこからロンドンとの仕事も始まりました。著名な方から若手までごちゃまぜで小さい絵を飾るという展示だったのですが、すごくいいグループ展でしたね。このあたりから広告代理店やクリエーティブな方と少しずつ繋がるようになったんです。

ースタイルが確立していく中で仕事も増えてきたのですね。そんな中、三越伊勢丹とも浅からぬお付き合いをしていただけるようになった、と。

はい。最初は、伊勢丹メンズ館での企画「SUPER GT展」のメインビジュアルとライブイベントを担当させてもらいました。同じ企画の中で、いろんなレースチームとコラボさせてもらってとても面白かったですね。

ー今回の企画は「ゴジラ」ですが、澁谷さんは特撮にも影響を受けましたか?

もちろんです。僕は年代的にもゴジラや特撮ヒーローを観て育ってきましたから、今回のオファーは本当に光栄でした。誰もが知っている「世界のゴジラ」ですから、描かせてもらえて嬉しかったですね。

ー澁谷さんが描くゴジラはとても洗練された印象を受けました。澁谷さんご自身としてはいかがですか?

ゴジラのイラスト画

描くにあたって、まずは『ゴジラ-1.0』を観に行ったんですよ。映画館自体すごく久しぶりに行ったのですが、珍しく最初から最後まで観れたんですよね。ゴジラの迫力や恐怖、そしてストーリーで感動する部分もあって泣けちゃいました。前評判は聞いていましたが、素晴らしい映画でした。

ですから映画を観て受けたゴジラの自然の猛威のような迫力をなるべくストレートに表現したいなと思いました。映画も戦後間もない世界観の中のゴジラを、現代の技術で表現しているということで、シャープで現代的な部分の中に、昔ながらの部分を表現したいと思い黒一色で描いています。でもゴジラを一色で描くのはすごく難しいなと感じました。

ー確かに澁谷さんのアートはカラフルな色使いで立体感を出していらっしゃいますよね。一色で立体感のある絵を仕上げるというのは今回挑戦だったのですね。

そうですね。チャレンジだったと思います。描き始めるまではそこまで思っていませんでしたが、いざ描き始めるとチャレンジだったなと。凸凹したディテールをどこまで描くか、加減が難しかったです。

ーさりげなく日本橋三越の建物も描いていただいていますね。

新館のほかに、実は昔の本館も描いています。昔と今、そこにゴジラが現れているイメージで。

ー企画でも最新の『ゴジラ-1.0』をフィーチャーしつつ、三越劇場では1作目の『ゴジラ』の上映を予定しています。70周年記念という今回の企画にまさにフィットしますね。

特典のステッカーも初代のポスターみたいでカッコいいですよね。

特典のステッカーの画像

ー色違いもあるのでぜひコンプリートしてほしいですね。ところで、同じ会期中に美術フロアでも展示をされると伺いました。こちらにはどんな作品を?

はい。キャラクターの作品と動物の絵を出展したいと考えています。昔は動物の絵はよく描いていたので、久しぶりに。ですが、昔のスタイルでそのまま描くのではなくて、そこ頃のモチーフを今の自分が描いたらどうなるかなと。

昔はシンメトリックでキャンバスいっぱいに描いいて、線も45度と90度のしばりを設けていたんです。ここから比べると、今はいろいろ考えすぎてだいぶ遠くまできてしまったように感じていて、逆に昔のほうが自分らしくてオリジナリティがあったんじゃないかと。しばりをなくしたり自由にいろいろとやることで可能性がひろがる部分もありますが、でもちょっと原点に立ち返るタイミングなのかもしれません。

動物のシリーズの画像
原点に立ち返ったという動物のシリーズ。キャンバスの側面まで描かれており、ここでも立体感を感じられる。

ーこれからの四半世紀、チャレンジしたいことは?

立体はまた絶対やりたいなと思っています。やりたいと思ってできてないことが沢山あるので、それを一つひとつ実現させていけたらなと。

ー澁谷さんはVRのイベントにも出演されていますが、テクノロジーも積極的に取り入れていかれるのでしょうか?

そうですね。VRとかARとかにはすごく興味があって、チャレンジはしたいとは思っています。

ー生成AIなどの技術がアートやイラストの世界にも入ってきています。今後どのような未来になっていくと思いますか?

AIによる画像生成を利用した作品の画像
人工知能をテーマにした個展のために制作されたAIによる画像生成を利用した作品。

人間がやる部分とそうでない部分のバランスは変わってくると思います。例えば、もともと僕はアナログで描いていましたが今はパソコンも使います。そういう意味では、生成AIも入ってきて便利な部分は増えてくると思います。僕はどの部分を人間がイニシアチブを取るかが大切だと思っていますし、僕はアイデアを出すのが好きですから、そこは必ず自分でやりたいですね。

ーありがとうございました!

お話を伺った方

澁谷 忠臣氏のプロフィール画像
澁谷 忠臣
アーティスト/イラストレーター
幅広いモチーフを直線と面で再構築する独自の世界観を持つアーティスト。その作風は幼少期のロボットアニメ、HIPHOPやブレイクビーツ、日本の伝統的な様式美に影響を受け、音楽と平面表現の接点を模索する中で構築された。その独自のスタイルで、スポーツ、ファッションブランドなど世界中の企業とのクライアントワークやコラボレーションを行っている。
近年では壁画の製作や、日本の伝統文化を再構築するシリーズとして、仏像の絵を中心とした個展「UPDATE」を京都と横浜で開催。これまでに東京・パリ・バンコクでの個展や、ロンドン・ニューヨーク・ロサンゼルスなど世界各地で数々の展示に参加。表現の場は国内外、ジャンルを問わず多岐に渡る。

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