11月ICHIDA’S COLUMN
~イセタニスタって?~
伊勢丹に「イセタニスタ」と呼ばれる人たちがいる、と知ったのはごく最近のことでした。伊勢丹新宿店による公式サポーターで、2020年の9月からスタートし、今では約90名が活動するコミュニティになったそう。閉店後のお買物ツアーや、バイヤー・イベント担当者との座談会に参加したり・・・。さらには、一人ひとりが、伊勢丹でのリアルな情報をSNSで発信しています。このコミュニティを立ち上げたメディア運営部の松岡 史育さんにお話を聞いてみました。
松岡:「私はもともと宣伝部で、ウェブサイトの記事やコンテンツなどを作ったり、お客さまとのコミュニケーションを担当していました。でも、デジタルの世界が広がると、お客さまに本当に情報が伝わっているのか?そしてそれに共感していただいているのかがわからなくなって・・・。もう少し違う形で何かができないかと考えていたんです。実は私、徳島出身で、地元では阿波踊りをやっていまして・・・。今も東京の高円寺で、100人ぐらいの阿波踊り好きの仲間たちと活動しています。5歳ぐらいの子供から60代の方まで、いろいろな背景の方がいます。仕事とか家族といった普段属しているコミュニティとはまったく違うところで、普段なら知り合わなかったような人たちと出会い、濃く豊かな時間を過ごすというのが、すごく楽しいんですよね。そういったことを伊勢丹を通してできたら良いな、と思うようになりました。それがいろいろなこととつながって、イセタニスタになりました。」
なんとなんと!阿波踊りのコミュニティ体験がイセタニスタに繋がったとは!確かに仕事や家族を離れた、まったく違うコミュニティが、よく行く百貨店の中にあったら、とても楽しいかも・・・。
そこで、今回三人のイセタニスタの方にお話を聞いてみました。
まずはどうしてイセタニスタに応募されたのでしょう?
齋木 貴子さんは、30代前後のお子さん二人の母。仕事を持つ50代。
齋木さん:「子育てをしていた頃は、子供を介したいろいろなコミュニティがありました。PTAとかお砂場友達とか・・・。でも、ある程度大きくなってくると、新しいコミュニティってなかなかできないんですよ。これからは『人生百年時代』って言われているじゃないですか?何か刺激のあるコミュニティに入りたい、と思っていた時に、たまたま娘が見つけて『お母さん、これだよ!お母さんほど伊勢丹が好きな人はいないから、応募してみたら?』って言ってくれて。入ってみたら、おしゃれで魅力的な素敵な生活をしている方ばかりで、皆さんの発信からこれまで知らない世界を知ったりと、すごく良い時間を楽しんでいます。」
高坂 友理恵さんは、マーケティングの仕事をしている方。
高坂さん:「自らアンバサダーのように情報発信をするようなことを、一度やってみたいと思っていました。伊勢丹に関わる人たちと一緒に、新しい価値を作っていったり、情報を発信したりするのは、伊勢丹で買物をするのと同じぐらいワクワクするんじゃないかなと思って。以前は、職場や仕事上で関わる人はある程度決まっていたんです。でも、イセタニスタに参加するようになって、料理を専門でやっていらっしゃる方もいれば、コスメにすごく詳しい方もいました。年齢のグラデーションも本当に幅広いんです。職場ではあまり話さないような年代の方たちとコミュニケーションが取れるようになって、すごく世界が広がりました。」
田中 絢香さんは、5歳のお子さんのお母さんです。
田中さん:「伊勢丹が大好き、というのはもちろんですが、コロナ禍でものの買い方が変わる中で、百貨店だからこそのモノとの出会い、体験があるなと感じたので。それを一緒に盛り上げていけたら良いなあと思ったんです。こういう取材や座談会に参加すると、『買物』では得ることができない『体験』を手にできるのが嬉しいですね。これから、インターネットとの融合がすすんで、ライブショッピングなど、伊勢丹ならではの体験も楽しめたら良いなあと思っています。」
皆さんのお話を聞いていると、「伊勢丹のため」というよりも、一人ひとりの「暮らし」の中に、この「コミュニティ」がきちんと組み込まれているのだなあと感心してしまいました。誰かに「やらされる」のではなく、自分から「参加してみたい」と手をあげる・・・。これまで持っていた「自分の世界」にはないものを見て、聞いて、知ることにより、自分の暮らしを豊かにしたい・・・。そうやって「自分ごと」にして楽しむことが、イセタニスタの魅力なのかもしれません。
三人が感じている「伊勢丹」の良さ、とはどこになるのでしょう?
齋木さん:「私は伊勢丹に関わる『人』が好きなんです。私はおしゃべりなので、店員さんたちに『これはどうやって食べるの?』などいろいろな質問をするんですよね。すると、知らなかった食べ方を教えていただいたり、楽しい会話が広がります。また、いつものお洋服屋さんでは『これ似合わないかも』とちゃんと伝えてくれたりするんです。先日傘を探しに行ったら『この界隈だと○○百貨店の方が、品数を取り揃えているから、お客さまならそちらに行かれた方が、たくさんの中から選べるかもしれませんね』って言ってくださったんです。そんな正直さ、お客さまを思ってくださるところが大好きです。」
高坂さん:「私は生まれも育ちも秋田で、上京したのは22歳の時です。それまでは東京に行った人がいたら、必ず伊勢丹で買ったお土産をいただく、というのが恒例でした。それが嬉しくてワクワクして・・・。だから伊勢丹にはずっと憧れていたんです。実際に東京に住んで、伊勢丹に来てみると、ほかの百貨店とは違って、ちょっとモードであり、スタイリッシュなものも取扱っているんだなあと知りました。老舗と時代の先端が共存していると感じましたね。」
田中さん:「私には子供がいるのですが、妊娠中の準備から、ベビーカーまで伊勢丹でそろえました。結婚式のドレスも伊勢丹で買ったんです。さらに、私が好きなテイストは、ちょっと個性的で前衛的なもの。子供服でも、伊勢丹は<ファミリア>のような伝統的なものもありながら、ちょっと遊び心があるものも揃っていて、チョイスの幅が広がりますね。」
次によくいく売場を教えてもらいました。
齋木さん:「私はお料理や食べることが大好きなので地下1階の食品売場は必ず行きます。仕事帰りの夜は、残っているお惣菜が限られてしまうので、お肉や魚・野菜などのコーナーで美味しそうなものを選んで、家に帰ってサッとお料理して食べるのが好きですね。この頃は、在宅ワークも多いので、前日に必ず立ち寄って、美味しいパンや和菓子などのおやつを買って気持ちを上げています。器やステーショナリーがある5階もお気に入りです。」
田中さん:「布団売場にはぜひ行って欲しいですね。以前マットレスを買い換える時、年配の店員さんがすすめてくれるものを買ってみたら、すごくよかったんです。その後、羽毛布団を買いに。すごく詳しい熟練の店員さんのアドバイスは、素晴らしいですね。枕も高さを測ってもらったら、疲れのとれが全然違ってびっくり!」
高坂さん:「私はコスメが好きなので、1~2階の化粧品売場が好きですね。あとはジュエリーコーナーや3階のお洋服も。ジュエリーなら、今日もつけている<マリハ>のものが好きです。」
実は高坂さんは、化粧品などの情報をInstagramで発信していて、齋木さんや田中さんは、イセタニスタになって知り合ってから、高坂さんのアドバイスで化粧品を買うようになったのだとか。
齋木さん:「私は<トムフォード・ビューティー>のアイブローを買いました。」
田中さん:「私は<アルビオン>の日焼けどめです。高いんですけどね・・・(笑)。高坂さんは、高いけれど何が良いかちゃんと説明してくださるんです。」
どうやら、イセタニスタ同志でこうやって情報交換をすることも、楽しみの一つのよう。
そんな三人が楽しみにしているのが伊勢丹で開催される多種多様なイベントです。
高坂さん:「デザイナーやディレクターが来店するポップアップショップは、どれもとても楽しいですね。特にコロナ禍になって、作り手がInstagramで情報発信をするのを目にするようになりました。『ああ、この人に会ってみたいな』と思っていたら、伊勢丹のポップアップショップがあって、実際に会いに行って、お話をして・・・っていうパターンが、最近は増えたような気がします。」
田中さん:「フランス展・イタリア展も、作り手さんと会えるから楽しいですね。」
齋木さん:「伊勢丹はすごく人気のブランドを引っ張ってくる力がすごい!最近だと<ピオヌンナル>のポップアップショップがあって、私も開店前に正面玄関に並んで、作り手さんから直接アドバイスをいただき、今愛用しているバッグをゲットできたんですよ!」
今までのお買い物遍歴や、おすすめ商品などを聞いていると、どんどん話が出てくる、出てくる!実際に皆さんがどれほど伊勢丹を愛し、よく通い、日々の暮らしの中に組み入れているかがよくわかりました。
百貨店は、もはやものを集め、売る場所だけではないのかもしれない・・・。今回お話を伺って、「人の心が動く」とは、どういうことなのかを考えさせられました。「何かが欲しい」「これを買いたい」と衝動は、お店に並ぶものを見て歩くだけではなかなか起こるものではありません。
心を動かすのは、やはり「人」。
ポップアップショップやイベントで、皆さんが望んでいたのは、作り手の方々と会い、話を聞き直接その人から何かを得たり、知ったりする「体験」でした。齋木さんや田中さんが、高坂さんから教えてもらったコスメを購入したように、本当に信頼できる情報は、信頼できる人から聞くのが一番です。インターネットやSNSなど発信の形は変わっても、その中に皆が求めるのは、そこに確かに生きて暮らしている人が、自分の実感と共に語る、生きた情報のような気がします。「伊勢丹が好き」という同じ思いで百貨店に人が集まれば、そこに集まった人の数だけ物語が生まれます。それを自分のものとするだけでなく誰かに伝え、語り、交換し、そしてまたそれを手にそれぞれの暮らしへ帰っていく・・・。イセタニスタの活動は、そんな良き循環のモデルケースのように思いました。
文・一田 憲子さん
ライター、編集者として女性誌、単行本の執筆などを手がける。2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を2011年「大人になったら、着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。著書に「日常は5ミリずつの成長でできている」(大和書房) 新著「暮らしを変える 書く力」(KADOKAWA)自身のサイト「外の音、内の音」を主宰。http://ichidanoriko.com
写真・近藤 沙菜さん
大学卒業後、スタジオ勤務を経て枦木功氏に師事。2018年独立後、雑誌・カタログ・書籍を中心に活動中。